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第七話 祈りは何処に届くのか?

 そこは薄暗い空間であった。それなりに空間的余裕はあるものの、壁が岩肌であるためか実際よりも狭く感じる。

 そこはスズラン市の海辺からつながるとある洞窟であった。

 大き目の空間ではあるが壁が岩である影響、そして窓がないためか手狭に感じる。剝き出しの電球のみが光源であるその空間は薄暗い。

 その空間にはぎっしりと人が詰め寄せていてその視線はある一か所に寄せられている。

 視線の先にあるのは祭壇だ。青を基調とした装飾の施された祭壇にはどこからか流れ込んだ水が張られている。

 その水の中ではある人物が座り込み、両手を合わせて祈っていた。

「さぁ! もっと! もっと祈りを!」

 祭壇に立っていた女が叫ぶようにそう言った。

「うおおおおおおお!」「巫女さま……!」「巫女様! 巫女様!」

 叫び声が洞窟にこだまする。巫女と呼ばれた人物は耳をふさぎたくなるのを我慢しながら祈りをささげていた……。


「ふぅ……」

 巫女とされた人物は個室でヒーターから漏れる熱風を浴びていた。ぽたぽたと長く無造作に伸びた髪から垂れる水滴を、巫女は黙って見つめていた。

「さむ……」

 一人小声でつぶやいた。

 体はびしょぬれなうえに、バスタオルの下は全裸、ヒーターがあっていくら今が熱くなり始めた五月の半ばといえどもそれでは寒くて仕方ないだろう。

 真っ白な壁紙の張られた部屋の床は木製、壁際に置かれたソファーと備え付けの机、その隣のロッカーをぼんやり見つめて巫女は最後にカメラを見つめた。

「……まだ着替えてなかったの?」

 女がノックもなしに扉を開けた。四十代手前ほどの女は裸の巫女とは違い、見るからにブランド品と言った格好で身なりを固めていた。

 頭のてっぺんから靴の先までブランドで固めてはいるがぎらついたその姿は下品にすら思える。

「別に……」

「なに拗ねてんのよ。あ、そうだ、今日もしっかり売れたわよ、はいこれあんたの取り分」

 女は乱雑に封筒を巫女の足元に投げ捨てた。

「まぁいいわ、私は行くところあるから……あんたも早く帰りなさいよ……」

 携帯に耳を当てていつもより一オクターブほど高い声で女は去っていく

 取り残された巫女、ユキムラ ユウマは乱暴に自分の座っていた椅子を叩いた……。


『ギシャァォォォオオオオオオオオオオ!!』

 ワクナーイが叫んだ。

 たくましい角と細いしっぽ。独特の模様はなく体は真っ黒に、瞳は真っ赤に塗りつぶされているがソレはウシ型のワクナーイに違いあるまい。

「だれか!!」

 ワクナーイに追い詰められた人影が叫んだ。鞄を抱えたメガネの少年はワクナーイに追い詰められてうずくまる。

「やい! ワクナーイ!」

『ギ!』

「「マジカルチェンジ!」」

 コウッとした光があたりに満ちた。

「魔法少女だ!」

 少年が大きな声で叫んだ。それと同時に二人の同時飛び蹴りがワクナーイの頭部に突撃した。

『ガグゥッ!』

 ワクナーイが吹っ飛んだ。着陸したのは月の光をあびる二人の魔法少女。

「早く安全な所へ!」

 白い魔法少女が叫んだ。少年が慌てながらも逃げるのを確認して二人はワクナーイと向き合う。

『グシュッギギギギ……!』

「行くぜ!」「合わせる!」

 ナイトが虚空から取り出した剣を握るのと同時に、カミリアが光から取り出したレイピアをワクナーイに向けた。

 最初に走ったのはナイトである。剣をおおきく振りかぶる、ワクナーイが蹄のついた腕を振り下ろす。

 剣と蹄がぶつかって暑い火花が飛び散ってチリチリと夜の暗闇をあぶる。ガキンと、すさまじい音が割れるように響いて二人は距離を取った。のけぞるワクナーイの背中を鋭い光が引き裂いた。

 光の発生源は空に浮かんだカミリアだ。鋭いレイピアが何もないところで振り下ろされて、光の斬撃のみがワクナーイの背中に向かって飛んでいく。

『ギガァァアアアアアアア!!』

 ワクナーイが怒りのような声を上げて振り向いた。大きな体がのけぞって振り返って鋭くそこを睨むワクナーイの顔に、花を模した桃色の光の塊がぶつけられた。

 ドゴンという爆音が響いてワクナーイの顔から爆煙が上がる。

「貰った!!」

 ナイトが剣を低く構えて、駆け出した。

 いびつな形の剣が低い位置からワクナーイの両足を捉えて切り飛ばす。悲鳴を上げながら倒れこむワクナーイの上から桃色の光線が浴びせられる。それに対するようにナイトが下から剣を振った。

「ブラックスラッシュ!」

「フラワーキャノン!」

 可憐な声が重なった。二つの剣からこぼれた深い藍色と可憐な桃色が重なり合ってカミリアとナイトは背合わせに着地した。

 悲鳴を上げる暇すらなくワクナーイが煙になって消滅した。

「ふぅ……」

「お疲れサヨちゃん」

「おう。お疲れツバキ」

「あ、そうだ。帰りなんだけどさ……」

「おお、食いに来るだろ、うちの特性パンケーキ」

「うん! 僕あれ大好きなんだよね!」

 二人は、顔を見合わせて笑った。白いシャツ、黒いショートパンツに黒い上着という格好のサヨと、白いパーカーと黒いズボンを身に着けて。長い黒髪を後ろで一つに束ねたツバキが顔を見合わせて笑った。

「やぁやぁ。二人とも。お疲れ様です」

 しかし次の瞬間、突如として現れた男にサヨは顔を露骨にいやそうにゆがませた。

「ユキムラ……」

「そんなにいやそうな顔をされると傷つきますねぇ」

 高そうなカメラを片手に、ユキムラは長く無造作に伸ばした髪の毛の奥から無機質な瞳をサヨとツバキに向けた。

「何しに来たんだよ? つかなんでこれた?」

「心外ですね。あなた達を取材する許可はとったかと思いますが?」

「もう一つの質問……に、答えてもらって、ません」

 サヨ以外と話すのは苦手なツバキが恐る恐る、それでいて鋭く指摘した。さすような視線を受けてユキムラはわざとらしく肩をすぼめた。

「偶然ではダメですか?」

「ん……そ、それは……」

「いや、ツバキが言うとおりだぜ」

 言い淀んだ代わりにサヨが言葉を発する。さらに続ける。

「偶然にしてはできすぎだ。最近ワクナーイが現れるたびにコソコソついてきあがって……一体なんでだ? お前ひょっとして」

「別にあなたたちのように出現が分かるわけではありませんよ?」

 カメラをいじりながらひょうひょうとした態度を崩さないユキムラは更に続けた。

「独特な情報源を持っているというだけです」

「は? それってどういう……」

「さて、自分はそろそろ失礼するとしましょうか……」

「は? おい、まだいろいろ聞きたいことが……」

「では」

 サヨが止める間もなくユキムラは路地の影に溶けるように消えてゆく。

「ユキムラさんって、結構謎だよね……」

「ん……」

 ツバキの声にサヨは小さくウナうずいた。



「ぁー……」

 リビングのテーブルにぐったりと顔を預けて、唸るような声を上げた。

「どうしたのサヨ君?」

「能天気なお前が悩むなどと、珍しいことがあったものだ」

 大きめのシャツにゆったりとしたズボンというゆったりした格好のアサヒと、仕事の時と寸分変わらぬ格好のソウイチが順番にそう言った。

 サヨが木製のテーブルから顔を上げると二人が向かい側に座っていた。

「……ソウイチさん。兄ちゃん……」

「ん?」

「なんだ?」

「変わったやつがいるんだよ、学校に」

「サヨ君ではなく?」

「俺ではない」

「お前以上にか?」

「茶化すなよ……」

 サヨはわざとらしく膨れ顔を作りながら二人をにらんだ。

「フフフ、ごめんごめん、えっと……」

「変わったやつがいて。大方そいつと仲良くやりたいといったところだろ?」

「すっげぇ……よくわかるな……」

「当たり前だろ」

 サヨが感嘆の声を漏らすとソウイチは自慢げに口角を持ち上げた。

「でもどうしてその子と仲良くしたいの?」

「まぁ色々あるけどよ。やっぱり最初は仲良くから始めるべきだろ」

 雑な説明であったがサヨをよく知る二人はそれでひとまずは納得したようだ。仲良くする方法を、二人は腕を組んで考え始める。

「一緒に遊びに行ったりとか?」

「……遊びに、かぁ……」

 その提案をサヨは口の中で復唱した。それをかみ砕きながら考え、ふと気が付いた。

(そう言えば、あいつが休みの日とか何してるのか知らないな……)

 いや、知ろうとしなかったのだからあたりまえか。自虐的な笑みを浮かべて立ち上がる。

(得体が知れないのは互いに立ち止まっていたからに過ぎないな……)

「ありがと! いいこと思いついたぜ!」

 サヨは笑うとすぐにポケットからスマホをとり出した。

「おう、レイジか? 俺だ。俺……お前来週暇か? おう、だと思ったよ……遊びに行くぞ」


「は? どこってそりゃあ……スズランウォーターパークだろ!」


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