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第十七話 魔法少女は正義といえるのか


「はぁ……」

 サヨは、疲弊していた。

 ネオンと再び出会ってその翌日。一晩かけて悩みぬいて結局何も変わらない。

(勝てなくなってきてることはあいつらが強くなってきてることは確実なんだよな。それに、あの、ネオンが俺たちよりも圧倒的に強いことも……)

「はぁ」

 さらに深くため息をついて、サヨは登校中の人目すらも忘れてうなだれる。

「落ち込んでますね」

「ユウマか……」

「ずいぶんな物言いですね。俺は貴方を心配しているというのに」

「はは……悪い」

「いつもなら軽口の一つでもたたくところを……相当まいってますね。昨日のことですか?」

 軽い笑顔でいながら、しかし声は心底心配そうに、隣を歩くユウマは優しくサヨに尋ねた。

「まぁな……いろいろ考えちまって……」

「ネオンのことですか?」

「あいつの言ってることは一理ある……それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない」

 明らかに何かある含みの持った言い方であったが、ユウマはそうですかとだけ返してそれ以上は何も聞こうとしない。

 二人隣に並びユウマはふと気になったことを口にする。

「そういえばレイジは……?」

「少し前から連絡が取れないんだよ」

「む。それは心配ですね……家には行きましたか?」

「それがさぁ、あいつの家結構でかい家で……って、お前の情報収集能力なら知ってるか?」

「相当古い名家ですよね。アマミヤ家と言えば」

「おう、当然両親も厳しい、俺なんか門前払いだぜ」

「にしてもそれで良く幼馴染できてますね……」

「そりゃあ涙なしには語れないドラマがあってだな……」

「あ、今日もアツいですね。ソロソロ七月ですけどテスト勉強しました?」

「おい」

「あ、雀」

「俺の話雀に負けるか?」

「長くなりそうだったので」

「なんだよ、聴くも涙、語るも涙。それでいて悶絶必至、爆笑不可避の過去をだな」

「見てください校門ですよ。可愛いですね」

「話のそらし方すら適当かよ! 校門なんて毎日見てるだろ? それにおれの方が可愛いって」

「あ、ツチノコ」

「ちぇっ。もういいよ……」

 わざとらしく膨れたサヨとボーっとしたユウマは廊下を歩き、クラスのドアを開けた。

「あ」

 誰かがこぼして、クラスの視線が一斉に二人に向く。

 歓迎。だけではない。疑惑のこもった視線に、二人はたじろいだ。

「……」

 大きな体をしたクラスメイトが立ち上がって二人に詰め寄った。

「なんですか? クリハラくん」」

「俺の妹は、黒い魔法少女の攻撃に巻き込まれて全治二週間の怪我を負った」

「ッ」

 突如告げられたのは悲しみと、怒りのような感情がこもった言葉だった。喉奥が詰まって、何も言えなくなる。

「俺には、どうしてお前たちがヒーロー扱いを受けているのかわからない。あいつらとお前らで、何が違うんだ?」

 さらに二人に詰め寄った。

 人知を超えた力。確かに角度を変えれば何も違わないのだろう。化け物と人型ならばまだしも、最近は同じような形のものたちが戦っている。

「俺達は……」

「おい!」

「ちょっと待ってくれよ!」

 口を開きかけたサヨの前に、ずいっと誰かが飛び出した。

「あ?」

「いい加減にしろよな。お前、ちょっと失礼だろ」

 アキラだ。間に割り込んだアキラが鋭く続ける。

「今まで散々この二人、三人が必死に戦ってきてくれたのは知ってるし俺らは……それを見てきたはずだろ……」

「お前……」

「……すまなかったな。少し、頭を冷やす……」

 三人にそう言うとクリハラは教室から出ていく。その背中を見送って、ようやくサヨは口を開くことができた。

「あ、ありがとう……助かった」

「気にすんなよ。なんていうか、借りを返すってやつだ」

「借り? ですか」

 ユウマが気になったように訪ねてサヨに心当たりは? と言う視線を送る。

「俺じゃなくて妹の。だけどな……テレビの中の魔法少女を見たって。キラキラした目で語ってくれてさ……。だから。すごい感謝してる」

「……妹って……あっ!」

 サヨの記憶の深いところで、自分が初めて助けた少女とアキラの面影が結びつく。

「心当たりあったか? 兎も角そんなんだから俺感謝してるんだ。妹のことも、この街を守ってくれたことも」

 アキラは小さく微笑んでそう言った。

「お前……」

「ん?」

「ただの変態じゃなかったんですね」

 驚愕した二人は顔を見合わせて頷いた。

「いうことそれかよ!」

 アキラから鋭い突っ込みが飛んできて、三人は同時に笑った。

「俺はさ、お前らとあいつらが全然違うってわかってるから」

 アキラは最後にそう言って二人の肩を叩いた。

 勇気が湧いてくる。二人は顔を見合わせて頷いて決意を新たに固めた。


「ッ」

 ベッドにぼんやり転がっていたサヨは勢いよく飛び起きた。

 腕に熱を感じる。ワクナーイの気配、サヨは寝巻のまま部屋を飛び出して階段を下った。

 靴を素早く履いて扉に手をかける。

 ポンっと肩に手が置かれてサヨは振り返った。アサヒが、暗闇の中で窓から入ってくる月明かりに照らされて立っていた。

 心配そうにサヨを見下ろしていた。

「行くの……?」

「あぁ。行ってくる」

「危険。だと思うよ」

「わかってる。でも覚悟の上だ」

 サヨは真剣な瞳でアサヒを見上げて、頷いた。たとえ危険でも戦うと。

「じゃあ、俺、行ってくるよ」

 しばしの無言が続いて、サヨはアサヒを見つめたまま後ろに下がった。

「サヨ君」

「ん……?」

「気を付けて」

 アサヒは優しくそう言った。サヨは深くうなずいて駆け出した。




 少年はソファーに身を縮めて座り背後に聞こえてくるタイプ音を聞いていた。

 キーボードが高速ではじかれる音を聞きながら少年は薄暗い部屋のテーブルの上にあるコーヒーカップを見つめていた。

 テーブルの向こう側のモニターを見つめて少年は手を握って開く。

 左腕の上を右手さすって何度も深い深呼吸をこぼす。

「調整が終わったよ」

 後ろから聞こえてくる声にも気が付かないほどに少年はモニターの中で繰り広げられる戦いを見つめていた。

「随分と熱中しているね。魔法少女たちの戦い。まだ。わかっていないみたいだね」

「……」

「このまま戦えば彼等は事実に辿り着く、避けたいよね。真実に彼らがたどり着くのは」

 青年は少年の耳元でささやいて、手に持っていたものを少年の膝の上に落とした。

「私は……」

「全ては世界の平和のために。彼らを守るために。そうだろう?」

 青年は甘い言葉をささやき続ける。

「期待しているよ……」

 その言葉を背中に受けて、少年は立ち上がった。モニターの中で広げられるワクナーイと魔法少女の戦いを一瞥したのちに、歩き始めた。



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