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閑話 ユキムラユウマ


 キャリーバッグにもてるだけの荷物を詰めて、ユウマは一人うなずいた。長年過ごした大きな部屋だが、詰めるものはほとんどなかった。

「よし」

 バッグを引いて電気を消して扉を開けると廊下の光がユウマの目を刺した。

「あんた……」

 横から女の声がした。その声を聴くとユウマは辟易としてしまって横を見た。必死に若作りをした女がそこに立っている。

「そんな顔をしていたらせっかく消したしわがまたできますよ」

「! 無礼な! それにアンタその格好!」

「あぁ、これですか? どうです? 似合ってますか?」

 ユウマはニッとした笑みを浮かべた。灰色の長ズボンに白地に赤い模様が描かれたシャツ。

 そして何よりも髪を短く切った今のユウマは活発な印象を与えていた。

「ふざけんじゃないわ! 髪は!? 何で腕出してるの! 商品が! あざが見えるでしょうが!」

 女は強くユウマの腕を掴んで鬼の形相で詰め寄った。強い意志の籠ったユウマの瞳と狂気に満ちた女の目がかち合う。

「俺。もう巫女辞めます。これからはあなただけでよろしくやってください」

「ふざけんな! 誰がここまで持ち上げてやったと思ってるの! 誰のおかげでここまで来て来られたと思ってるの! この! 親不孝者が!」

 乾いた音が響いた。ユウマのほほを女が叩いた音だった。それでも、ユウマの瞳は燃えたぎるような光を失わない。

「まだわからないか!! この恥知らずが!!」

 今度は鈍い音だった。握りこぶしがユウマの反対側のほほを殴った。音だった。壁にたたきつけられてユウマが俯いた。

「髪は!? あれは金になるの! 早く言いなさい! さもないと売り飛ばすわよ」

「いってぇ……」

「なに……?」

 ゆっくりと立ち上がる。真っ直ぐな瞳が女を射抜く。

「やり返さなかったのは……自分に罰を与えたかったからだ……あんがとな、お陰で気分がさっぱりしたよ」

「何を訳の分からない事を……言ってるの!」

 女が再び握りこぶしを挙げた、それがユウマに届くよりも先に

 鋭い右ストレートが女のほほを打ち抜いた。

「って……始めて人を殴りましたが……なんだ。思いの外すっきりしませんね」

「あ、アンタ……誰に向かって手を……」「俺は!!」

 女の言葉をユウマは鋭く遮った。

「俺は……アンタじゃねぇユウマだ。あんたの息子のな……俺はあんたのことが嫌いだが……感謝してるよ。本当に、だからソレは息子からの感謝だと思って受け取っとけ」

 ユウマは女を見下ろして口元に小さな笑みを浮かべた。いや、ただの反抗期ってやつかもな……。と笑うとユウマは中指を女に向かって突き立てた。

「それからテメェの若作りイテェんだよ、子離れしやがれ! クソばばぁ!」

 痛む頬を持ち上げてユウマは笑う。それだけを言い残して、ユウマはバッグを引きずって家を出た。



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