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『快食屋』ー3

「なんすかね、これは?」


兎男との戦闘の後に残された奇妙な石をまとめ役の男が拾うとぼやく。ためつすがめつと石を見てみるも特に何もなく星型に近いへんてこな凸凹の小石しか見えない。


「というかドロップ品ってインベントリに直接送られるはずっすよね。なんでこれだけ落ちてたんっすかね……」

「ふむ、何か特殊なアイテムなのではないか」

「つってもインベントリに入れてもマジで“石”としか説明出ないんっすよ」


ボスを倒して出たものだからなにかあるはず。だというのにこれと言って使い道が見当たらないことにふたり含む『快食屋グルメ』全員が首をかしげる。そんな時だった。

ボス部屋全体がグラグラと揺れて地響きを鳴らす。何事かと姿勢を低くして備えているとボス部屋の奥、何もなかった壁が迫り出してその形を変える。それが徐々に精緻な模様入りの扉となっていき、変形を終えると共に揺れはなくなっていった。


「ここに来てワクワクする演出っすね!」

「そうだな。早速調べるか?」

「へい、斥候や鑑定士ジョブの連中呼んできます!」


まとめ役の男が言うが早いかすぐさま出現した扉に取り付き隅々まで調べ始める『快食屋』のクラン員だち。その顔にはゲーマーとして新発見をしたという興奮が宿っており皆一様にはつらつと飛び回っていた。

だがこんな時に基本戦闘担当のもの……特にモルダードは暇する。こういう調査とか検証は関連ジョブもなく特に興味もないので自然とそうなる。


「長いな……仕方ない近くで少し狩りにでも――」


―― ぽん

「あ」


そんな気の抜ける効果音と『快食屋』全員の声が重なる。音がする方を……モルダードが居るはずのところを見るとどういうことか彼とは似ても似つかない小学高学年ぐらいにみえない少年がいるではないか。


「しまっ、バフが切れてた!?」


心做しか声すらも高くなったモルダードと思しき少年がそう言うといつも間にかクラン員たちが彼にすり寄っていた。かと思えば……


「ショタ状態のクラマス、確保ぉー!」

「あ、ずるーい。私も!」

「ちょ、やめないかお前たち! 頭を撫でるな、抱っこしようとするなー!!」

「そんな勿体ない。クラマス中々こっちの姿にならないんですから、機会がある時に楽しまないと♪」

「うんうん」


誤解なきように先に明言しておくがモルダードはリアル年齢既に二十歳を超えている。彼が今の戦い方を選んだのもそのコンプレックスが一因でもあるかる。だから昔からこういう猫可愛がりみたいな空気は普通に苦手だったりする。そういうとこ引っ括めて可愛いよってのが『快食屋』女性陣の総意であるが……。


なお何だかんだ女性陣側も弁えているので性的なセーフティに抵触することはしない……多分。


「相変わらずうちの女どもは……やれやれっすね。じゃあ自分は調査の進捗見てくるんで~」

「お前だけ逃げるな、助けろぉ!」

「嫌ですよ。邪魔すると後が怖いっすから」

「後で覚えてろー!」


クランの女性陣にもみくちゃにモルダードを後にしてまとめ役の男は調査する者たちのように近づく。


「何かわかったすか?」

「サブマス。はい収穫ありました、こっちです」

「お、マジすか。どれどれ」


まとめ役……この『快食屋』のサブマスターはそう言うと調査して人の指してる場所を覗きこむ。一見他と変わらないように見えるがよく見るとそこには見覚えのある形の窪みが掘られている。


「これは……さっきドロップしたこの石をガチャッっと」

「あー! なにちゃっかり自分でキーアイテムっぽいの挿してるんですかサブマス」

「いや、丁度持ってたし。そりゃやるっすよね?」

「私も持ってたらやるますけども!」


キーアイテムがあってそれっぽいどころある、なら脊椎反射的に動くもの。これもまたゲーマーの性であるから仕方がない。


「で、変化は。おお、石を扉と同化して……!」

「……何も起こらないですね」

「あれ~?」


意味深い演出があったからてっきり何かあると思っていただけに肩の力を抜けるサブマス他一同。それとは別に扉を見上げていたひとりが声を上げる。


「上にも同じのがいます!」

「えーマジ。これ何周して集めないと行けない感じ?」

「あーそれはちょっとダルいっすね。……いっそのことこの馬鹿でかい扉ぶっ壊せないっすかね」

「はっ、よし任せろ。んぐ……一発でかいのをかます」


チャンスと見るや女子の垣を掻き分ける出てきたモルダードがインベントリの予備の料理を物凄い速度で食いながらいう。料理バフで瞬く間で元の大男に戻ったが顔には未だ疲色が濃い。女性陣に激しく愛でられたのが余程応えたようだ。


「ふぅー……ふんっ!!」


巨大な腕を引き絞って……打つ。

結果ドッカーンと大砲みたいな音が鳴ったが……それを食らった扉は全くの無傷だった。


「手応えからしてこれは破壊不能なものだな」

「そんな分かるんすか?」

「ああ、この手のやつは衝撃の伝わり方が不自然になるから簡単に分かる。本来揺れる場所が揺れなかったりとかな」

「あ、あー確かに壊れないとなるとそういう不自然なとこ出来るっすよね」


この手の感覚はありえない現象を正解として反映しているのだから誤魔化すのは難しい。そういう違和感すら制御したVR空間もあるがそれには医療か業務用クラスでの機器が必要だ。家庭用機器で出来るゲームに備わってるはずもない。


「ってことはやっぱ周回しないとダメっすか」

「ということになるな」

「でもそれだとまた赤字っすよ」

「……仕方ない。ここは引き返して暫くは稼ぎに集中するか」

「アイアイサ~。そなったんで引き返すぞお前らー!」

「おー!」


現れた時にと同じく騒がしく朗らかに『快食屋』は去っていた。巨体な扉の向こう側で微かに漏れる安堵を背に……。




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