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少年、走る父の背中を見る。(2)

院長は、包帯にテーピング、メンQなど施術に使用する道具を準備し始める。


山岸のふくらはぎを冷やして15分ほど経過し、院長は保冷材を外した。


「痛みで周囲の筋肉が張っているのでメンQ塗りながら少し筋肉の緊張を取っていきますね。痛みが生じたらすぐに教えてください。」


指先にメンQを塗り患部中心にハムストリング、腓腹筋へと肌に触れる程度に塗り広げていく。

決して力は入れず、圧と言うには弱過ぎる力で腓腹筋を自身の手掌で滑らせる。

一通りメンQが塗り終わったら、患部中心にホットタオルを当てる。

こうすることにより毛穴や毛細血管が開きメンQの薬効が強くなる。


「肉離れの時はなるべく筋肉を引っ張らないようにしたいので包帯で少し圧迫した方がいいんですよ。本来は足首もなるべく動かさない方が治り早いんですけど、どうしますか?」


院長の問いに、山岸は少し考え込む。


「・・・うーん。八百屋仕事はけっこう動くからな。足首まで固定されちゃ仕事になんねぇかな。それでもいいかい?」


「確かにそうですね・・。でしたらふくらはぎにテーピングと包帯の両方やる形でいかがです?」


「おお。それで頼む。」


院長は、先ほど用意していたテーピングの端をアキレス腱に貼り、切れ目の端をそれぞれ腓腹筋の内側頭、外側頭へと貼った。

山岸を仰向けに寝かし変え、左の膝を曲げさせる。


「これから少し圧迫しながらふくらはぎ部分を包帯で巻いていきますね。」


院長は慣れた手つきで包帯を巻いていく。

足首から膝下、少しずらしてまた足首、ずらして膝下。

流れるように、少しテンションをかけながら下腿部の筋肉を包むように。


「おお。これは圧迫感あって気持ちいいねぇ。」


「自分で巻く時もこれくらい圧迫しながら巻いてくださいね。伸縮性のある包帯お渡ししますから巻きやすいと思いますよ。やり方は難しいようなら下から上に巻くだけでも違いますから。」


「了解。見様見真似でやってみるよ。」


「念のためもう一度包帯巻きますので、携帯で動画でも撮りますか?」


「それは助かる」


山岸の返事を聞き、院長はふくらはぎに巻かれた包帯を外し、ほどけた包帯を包帯巻き機にセットしくるくると包帯を巻き戻し、円柱状にしていく。


「私の家も自営業だったんですよ。だから私はそんな父親の背中を見て育ちました。運動会どころか卒業式とか学校のイベントに参加する姿なんて見たこと無かったですよ。」


きれいな円柱状に戻った包帯を包帯巻き機から外しながら院長は続ける。


「正直、子どもの頃寂しいと感じたことがあるかは覚えていないです。ですが、大人になるにつれて自分で商売をしながら私たち家族を支えてくれるその背中の大きさを知ることになったし、私自身も自分で何か仕事をしたいと考えるようになったの事実です。

背中ってのは見せるもんじゃなくて、勝手に見られてるもんじゃないかなと感じるんです。

まあ、結局のところは子どもの頃は父親の背中ってのをわからなかったって話なんですけどね。」


「そんなもんかね」


「そんなもんですよ。さて今度はゆっくり包帯を巻いていきますので頑張って覚えてくださいね。」


「おう」


そう答えた山岸の顔はどこか誇らしく、先程の曇った笑顔は何処かへ消えていた。

山岸の視線を手元に感じながらゆっくりと足首から膝下は包帯を巻き、彼への施術を終えた。


会計を終え、先程より足取りの軽くなった山岸は財布をポケットにしまいながら口を開く。


「今日、久々に一杯行かないかい?」


「とても魅力的なお誘いですが、今日はお家で息子さんと過ごしてあげてください。」


「・・・それもそうだな。」


「それに、今日はお酒控えてくださいね?怪我したんですから。酒飲むと痛み増しますよ。」


「・・・そんなもんかね」


「そんなもんです。」

次回更新は7/30(金)19時です。

空き時間にサクッと読めるよう、1000文字程度で更新していく予定です。

お暇な時にでも目を通していただけたら幸いです。

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