表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》はずれ王子の初恋   作者: 三條 凛花
第一部 魔女と聖女
7/54

6.特別な魔力

 出口へと向かうクレメントの広い背中を見送り、私はベンチに座り込んだ。そして、硝子の丸屋根の向こう側にある空を眺める。


 何度見ても不思議な光景だ。

 温室の中は春そのものなのに、透明な天井には雪の粒が落ちてはじゅわりと消えていく。それでも次々に雲から降ってくる様子は、まるで星を眺めているような感覚に陥ってしまう。



 そういえば、ジルベルトとはいつから話をしていないだろう。


 私とジルベルトが学園で会話をすることはなかった。


 もっとも、初めのうちは、私のほうからよく声をかけていた。食事に誘ったり、休日にお忍びで街へ行ってみないかと提案したこともあった。

 いずれもすげなく拒まれるばかり。


 彼は、公式の夜会でエスコートをしてくれるだけ。婚約者として最低限のことだけを義務的に守る彼の様子に、その心のうちがわからなくなっていた。


 病気が治ったらきっと、彼の根っこの部分が見られる、仲良くなれると期待していた。


 素直になれない彼のことも愛おしく思っていたけれど、今はむしろ、ただ避けられているようにしか思えない。


 とはいえ、婚礼まであと一年もないのだ。

 夫婦になってからでもいいから、少しずつ穏やかな関係を築けたらいい。そう前向きに思い直すのだった。




「そうだ、君に伝えないといけないことがあったのだ」


 再びクレメントの声がして驚き、びくりと振り返る。


「驚かせたな、すまない」


 クレメントは苦笑して、それから続けた。


「半年ほど前から、城下で気になる動きがあるのだ。ひとつは婚約破棄が続いていること。もう一つは、謎の問いかけをしてくる女がいることだ」

「謎の問いかけ?」

「愛の魔女の伝説は知っているか?」


 私は頷く。


「その魔女がなにかを探しているのでは、と思われている。聞き取ったものによると『ラーメ・サム・リャー・キクラ』とかいう、呪文のようなものを、道行く人々に問いかけているらしい。フードを目深にかぶっているが小柄なので女だろうとのことだ」

「古語、でしょうか」

「あるいは。だが、魔女について残っている資料はほとんどないのだ。前回、魔女が出たという時代には革命があった。当時の蔵書は焼かれたものも多く、私が見た限りでは二冊の絵本しか無かった」

「『愛の魔女』という絵本のことでしょうか。それなら殿下の部屋で見た事があります」

「――それもそうだが、もう一冊あっただろう? 」

「いいえ、一冊しかありませんでしたが」


 私が告げると、クレメントは訝しげに首を傾げた。


「そうか――。それはこちらで確認してみる。これは公にしていないことなのだが、愛の魔女には特別な魔力があるのは知っているだろう。その魔力は、氷を操る力だと言われている」

「氷?」

「ああ。これは王家の中だけで秘匿している情報なのだが、基本属性以外の魔力を持つと肩身が狭くなるのは、実はこれに由来しているのだ」

「どうしてわたくしに?」

「近ごろ、なにやらきな臭いのだ。君も用心しておいたほうがいい。気になることがあったら報告してくれ」


 そう言うとクレメントはどこか寂しそうに笑い、踵を返した。


 私は震える手を握りしめた。愛の魔女の能力は、氷。知りたくない事実だった。もしかして、私自身が魔女なのだろうか。



 スピカ・ディディエが転入してきたのは、それからすぐのことだった。

 この年は災害が多かった。雪崩に飲まれて消えた村がいくつもあり、ジルベルトだけでなく、対応に追われたクレメントともあまり話せないまま、時間だけが過ぎて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ