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《完結》はずれ王子の初恋   作者: 三條 凛花
第2部 実らぬ初恋
34/54

11.廃城にて

 ノエミが目を覚ますと、そこは、牢のなかではなかった。豪奢なつくりの高い天井が見えた。--ああ、長い悪夢を見ていたみたい。


 そう思って伸びをすると、誰かが自分を見ていることに気がつく。


 ノエミは思わず後ずさった。その老婆はひどく醜悪な顔をしていたのだ。


「ふうん、やけに転生者が多いのね」


 老婆は高いところにある玉座の上から、けだるげにこちらを見下ろしていた。


 その目には、疲れと諦めの色が滲んでいた。どこか泣きそうでさえあった。


「--まあいいわ。

 おまえにも力をあげる。これは魔女の力よ。上手く使えばおまえの望みは叶うでしょうね」


 ノエミはすっかり怯えて、後退りをしていた。

 しかし老婆は構わず、枯れ枝のような指をこちらに向ける。


 長く伸びた爪の先から、青い光が飛び出して、ノエミの胸を貫いた。




 彼女は気づいていないが、そのとき、彼女の耳たぶに、コスモス模様の痣が浮き上がった。


 老婆はノエミの姿を眩しそうに見つめた。

 それから自らの皺が深く刻まれた手に目をやり、嘆息する。



 老婆は、手をぱちんと鳴らした。


 ノエミの体は光に包まれて消えていく。彼女は恐怖で顔を真っ白にし、口をはくはくとさせていた。


 あとにはぼろぼろの城と、醜い顔の、年老いた女だけが残った。





「ミザリー」


 廃城には似つかわしくない、玲瓏な声が広間を揺らした。


 ミザリーと呼ばれた老婆は、ぶるりと体を震わせたが、声のした方を睨みつけた。


「その力はみだりに人に与えてはならぬ。そなたの手駒はもう潰えたであろう? 規則破りには、罰を与えねばな」


 ぱちんと音がして、ミザリーは床に押し付けられるようにうずくまった。先ほどよりも動きは鈍く、ややあって上げた顔は、さらに年老いていた。




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