11.廃城にて
ノエミが目を覚ますと、そこは、牢のなかではなかった。豪奢なつくりの高い天井が見えた。--ああ、長い悪夢を見ていたみたい。
そう思って伸びをすると、誰かが自分を見ていることに気がつく。
ノエミは思わず後ずさった。その老婆はひどく醜悪な顔をしていたのだ。
「ふうん、やけに転生者が多いのね」
老婆は高いところにある玉座の上から、けだるげにこちらを見下ろしていた。
その目には、疲れと諦めの色が滲んでいた。どこか泣きそうでさえあった。
「--まあいいわ。
おまえにも力をあげる。これは魔女の力よ。上手く使えばおまえの望みは叶うでしょうね」
ノエミはすっかり怯えて、後退りをしていた。
しかし老婆は構わず、枯れ枝のような指をこちらに向ける。
長く伸びた爪の先から、青い光が飛び出して、ノエミの胸を貫いた。
彼女は気づいていないが、そのとき、彼女の耳たぶに、コスモス模様の痣が浮き上がった。
老婆はノエミの姿を眩しそうに見つめた。
それから自らの皺が深く刻まれた手に目をやり、嘆息する。
老婆は、手をぱちんと鳴らした。
ノエミの体は光に包まれて消えていく。彼女は恐怖で顔を真っ白にし、口をはくはくとさせていた。
あとにはぼろぼろの城と、醜い顔の、年老いた女だけが残った。
「ミザリー」
廃城には似つかわしくない、玲瓏な声が広間を揺らした。
ミザリーと呼ばれた老婆は、ぶるりと体を震わせたが、声のした方を睨みつけた。
「その力はみだりに人に与えてはならぬ。そなたの手駒はもう潰えたであろう? 規則破りには、罰を与えねばな」
ぱちんと音がして、ミザリーは床に押し付けられるようにうずくまった。先ほどよりも動きは鈍く、ややあって上げた顔は、さらに年老いていた。




