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《完結》はずれ王子の初恋   作者: 三條 凛花
第一部 魔女と聖女
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幕間 あるヒロインの独白

 ここはわたしの生きる場所じゃない。ずっとそう思いながら暮らしてきた。


 子どものころ、お母さんが読んでくれた絵本は、お姫さまが王子さまと幸せになるものばかり。

 きらびやかな舞踏会に、たくさんの宝石、フリルがたくさんのドレス。魔法にも憧れる。それなのに、どうしてここには素敵なものがないのだろう。


 それだけじゃない。毎日が退屈でしかたがない。勉強なんかきらいだし、クラスの子たちはいじわるばかりしてくる。ここはわたしの世界じゃない。


 そんなわたしは、ゲームの世界に生きることにした。格好いい男の人たちは、みんなわたしのことを好きになってくれる。甘い言葉をくれる。いじわるしてくる人には罰がくだる。


 なんてすばらしい世界なんだろう! こんな世界で生きていけたらいいのに。ぜったいにしあわせになれるのに。






 前世を思い出したのは、実の父である男爵に引き取られ、はじめてドレスを着たときだった。


 鏡に映るわたしは、とても可憐な容姿をしている! ふわふわのストロベリーブロンドの髪の毛に、明るい黄緑色の瞳。小さめでぷっくりとしたくちびる。この人に見覚えがある、そう思ったのだ。


 スピカ・ディディエ男爵令嬢。

 わたしの新しい名前。これをどこかで聞いたことがある。


 かわいいものに出会うたびに、少しずつ記憶を思い出した。ここではないどこかで生きていたときのことを。そして、ここがゲームの世界であることを。


 かつて、わたしが大好きだったゲーム『雪の王国と秋桜の乙女』の世界にわたしは生きているのだ。なんてしあわせなのだろう。夢が叶ったのだ。


 この先にあるのは、素敵な男の人との甘い恋愛。やっぱり女の子の憧れは王子様と結婚することでしょう。なにもかも思い通りになるんだ。




 わたしが引き取られたのは、男爵と妻との間に生まれた子どもが病気で亡くなったから。だから、跡継ぎとしてすぐにいろいろな教育がはじまったのだけれど、これがとても退屈だった。


 わたしは生来の身軽さを生かして屋敷を抜け出しては、城下町に降りていた。実は、これには目的があった。


 もしかしたら、同じように転生した仲間がいるかもしれないから。変な人じゃなかったら、一緒に日本のものを再現したら、お金儲けができると思った。ほしいものはいくらでもある。王子様に見初められるためにも、ドレスや宝石がほしいもの。


 とりあえず、手っ取り早く転生仲間を見つけるには日本語が有効なはず。


 わたしはローブで顔を隠して、街行く人々に、日本語で話しかけてみた。


 日本人なら絶対にわかる単語をつらつらと並べてみた。ラーメンとか、サムライとか、イクラとか。怪しまれないように、外国人が道を聞くような感じにつなげてみた。


 ほとんどの人は、訝しげな顔をして通り過ぎていく。雲行きが怪しくなるとさっと身を隠した。でも、こんなのは想定内。


 物乞いと間違われたのだろうか。豪華な馬車に乗った人が装飾品の入った袋をくれたのはうれしかった(とってもかわいい、コスモスの形のピアスなの!)けれど、残念ながら、ひと月ほど粘ってみても、転生者は見つからなかった。




 そして、ついに学園に転入する日がやってきた。


 攻略対象者にはすぐに出会えた。画面で見るよりもずっと格好よくて、わたしはどきどきした。


 一番好きだったクレメント王子には近づく機会が持てなかった。でも、素敵なジルベルト王子とお近づきになれた。ゲームには居なかったから、隠しキャラだったのかもしれない。でも、どうせならみんなに愛されたくて、全員の好感度が上がるようにせっせとイベントをこなしていった。


 困ったのは、悪役令嬢のはずのフルール・ルル・フレージュがわたしに意地悪をしてこないこと。取り巻きもそう。そういえば、本来はクレメント王子の婚約者だったと思うのだけれど……。


 友だちもできなかった。情報交換をしたいのに。


 転入初日に学園案内をしてくれたサロメっていう女の子も、はじめは手を取って歓迎すると言ってくれたのに、その後は、いじわるこそされないものの、わたしに冷たい目を向けるばかりだった。

 後でフルール・ルル・フレージュの友だちだとわかったのだけれど、だからなのかもしれない。わたしは悪くないのに。


 それでも、イベントをこなしたおかげか、男の人たちはみんなわたしに夢中になった。その中からわたしが最後に選んだのはジルベルト王子。


 そうして、卒業パーティーでの婚約破棄イベントが起こったのだ。

 でも、見落としていたバグがあった。フルール・ルル・フレージュがいじめをしていなかったからだろう、断罪ができなかった。それどころか、王子たちと一緒にわたしは軟禁された。


 わたしは王子たちに魅了の術をかけたのだろうと言われ、よくわからない魔法をかけられて嫌な気分。


 でも、当たり前のことだけれど、わたしは魅了の術なんてかけてない。わたしが使える魔法なんて、飲みものを冷たくキンキンに冷やす程度のものだもの。


 断罪イベントは終わってしまったし、あとはジルベルト王子と結婚するのを待つだけ。


 でも、どうせなら確実に結婚できるほうがいいよね。


 ゲームの中のフルールは気位が高くて、自分が一番じゃないと気がすまないの。だから、今のわたしいみたいに、たくさんの男の人に好かれた逆ハーレム状態になっているルートでは、確か、短剣を持って襲いかかってきたはず。


 あれを再現できれば問題はなくなると思う。フルールが動かないのなら、そう思われるようにすればいいだけ。


 結婚式ではどんなドレスを着ようかな。ふわふわで、フリルがたくさんのものもかわいいし、リボンもつけたいな。


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