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ゴブリンテイマーの生活

作者: 柿太郎

 ゴブリンテイマーの朝は早い。

 日の出とお供に起きて、ゴブリン達の餌の準備に取り掛かる。

 彼らは雑食性だ。

 放っておいても近くの森で虫なり小動物なり見つけて食べるのだが、それではダメなのだという。

 野生のゴブリンと同じく自由な食生活をさせていたら野生に帰ってしまうのだ。

 徹底した管理で、食事や巣の世話をしなければ彼らを使役することはむつかしい。

 どちらが上の存在かということを教え込まなければいけないのだ。

 そしてそれは恐怖による支配であってはいけないという。

 ゴブリン達にも感情はある。

 虐げるととりあえず言うことは聞くだろうが、恨みが積もっていくのだ。

 積もった恨みはいつか爆発する。

 たとえ死ぬことが分かっていても、彼らは後先考えずに恨みを爆発させ襲いかかってくるのだという。

 だから恐怖による支配ではなく、徹底した生活の管理から彼らを支配することこそがゴブリンテイマーに求められるのだ。



「寒いな……クソ……」


 まだ日が出てまもない時刻だった。

 昼間は少し暖かくなるが、朝晩はまだ寒い。

 布団から出たくない気持ちを抑え、俺はゆっくりとベッドから起きると服を着替えた。


「薪がもうなくなるな……」


 暖炉に薪をいれ火をつけた。

 暖炉の火は料理の際にも利用している。

 ゴブリン用の鍋を持って地下室に行く。

 地下室は最近はツンとした嫌な臭いがしていた。

 食料を保管しているのだが、悪くなっているものが出始めているのだろう。

 そろそろ中身を入れ替えなければいけない。

 地下室の片隅にある木箱からクズ芋と魔物の肉を取り出し、鍋の中に同じ分量だけいれた。

 肉から嫌な臭いがしたが、ゴブリンが食べる肉なら腐っていても問題ない。

 彼らの胃は強靭だし、死んでも補充は簡単だからである。

 暖炉にもどり鍋を火にかけた。


 水を汲むために外に出る。

 外は突き刺さるよな冷風が吹いていた。

 山から下りてくる風だ。

 俺は外套を深く羽織るとバケツを持って川へ向かった。

 家のすぐ近くに川がある。

 生活に使う水は全てこの川の水を使っていた。

 汲んだ水を鍋に入れる。

 肉と芋のスープだ。

 餌の準備ができると鍋を持ってゴブリンの宿舎へ向かった。

 家のすぐ近くに宿舎という名の掘っ立て小屋がある。

 今は3匹のゴブリンを飼っていた。

 去年までは10匹いたが、今年の冬は寒かった。

 藁を増やしたり宿舎の隙間を埋める努力はしたが残念ながら、寒波の影響で7匹のゴブリンが死んだのだ。

 宿舎に入ると彼らはまだ寝ているようだった。


「起きろ! 餌の時間だぞ!」

「ぎゃう?」

「ぎゃうぎゃう」

「ぎゃう!」


 ゴブリンの鳴き声は「ゴブゴブ」だと思われる方も多いがそんなことはない。人間が「にんにん」とは言わないこと同じなのだ。

 ただ何を言っているかはわからなかった。


 鍋のスープを餌用の皿に入れると、彼らは貪るようにしてそれを食べた。

 俺もそれを見ながら黒パンを食べる。

 畑で収穫した麦で作った自家製のパンだ。

 週に二回焼いて作り置きするが美味くはなかった。

 

「3匹じゃ心もとないな……繁殖させてやらんといけないか……」

「ぎゃう!?」

「!!!」

「うほうほ!」


 ゴブリン達は繁殖という言葉に強い反応を見せた。

 それなりの知能があるため、簡単な単語は覚えてしまっているのだろう。

 にわかに宿舎の中が活気づいたが、如何せん金はなかった。

 どこかでメスを拾ってこないことにはどうしようもない。


「よし、森に行くぞ」


 ゴブリン達の食事が終わると俺は声をかけた。


 森の中は薄暗く寒かった。

 ゴブリン達も寒そうに身を震わせている。

 まあ、裸だから仕方のないことなんだろう……。

 森の中で獲物を探すなら朝早く夕方がいいのだ。

 獣道を進む。

 罠を仕掛けた場所を見て回りながら、なにか動物がいれば仕留めるつもりだ。

 弓を持って進む俺の後をゴブリン達がついてくる。

 ゴブリン達には喋らないように教育していた。


 ゴブリンの役割は3つだ。

 一つ目は荷物持ち。

 動物を仕留めた場合、一人で運ぶのは不可能なのだ。

 たとえ獲物を切り分けたとしても何往復もする必要があるし、大抵の場合は切り分け残した方は持ち去られてしまうからだ。

 解体の時に出てしまう血の臭いが、魔物を引き寄せるためだと考えられる。

 そのため荷物持ちは必要な役割だった。


 二つ目は周囲の見張り。

 対して役に立たないが、俺が気がつかない気配に気が付くこともある。

 目の数が増えれば当然発見も多くなるのだ。

 危険回避の観点からも森に入る際は最低2匹はゴブリンを連れて行くことにしていた。


 三つ目は囮だ。

 森の中で敵わない相手はそうはいない。

 いないが希に灰色熊に出くわすことがある。

 本来は森の深くにいる灰色熊に出くわすことはないのだが、出くわした場合は死を覚悟しなければならない。

 そんな時にゴブリンを連れて行くと彼らがまず襲われることになる。

 逃げる際に俺より足が遅いからだ。

 ゴブリンが餌になることで俺は助かるという寸法だった。


 ゴブリン達に戦うことは望んでいなかった。

 教えてもいない。

 逆に少しでも戦えるようになると扱いが面倒になるので処分しなくてはいけなくなる。そんなことは俺も望んでいないしゴブリン達だって望んでいないだろう。



 前方に鹿を見つけた。

 俺はゴブリン達に動かないよう指示を出し鹿に近づく。

 音を立てないように気をつけながら、腰をかがめ木々の影に隠れるように進む。

 弓の射程は大体20mほどだった。

 それ以上になるとたとえ当たったとしてもどこに当たるかわからないくらい安定しなかった。

 今日は運が良かった。

 こちらが風下に位置しており、鹿は木の若芽を食べていてこちらに気づいていなかった。

 俺は毒を塗りこんだ矢を取ると、ゆっくりと弓を引き射った。

 十分に近い距離で矢を射ることができた。

 鹿の首に狙いたがわず矢が刺さり、鹿は数歩だけ歩くとその場で倒れ込む。

 俺はそれを見てから鹿に駆け寄りナイフでトドメを刺した。


 ゴブリン達を呼ぶと鹿を運ばせる。

 鹿の足を木の棒に縛り付けて、逆さまにして担いで運ぶのだ。

 解体は家の前の川で行なった。

 鹿の皮を売るためには、なめす必要がある。

 なめしの作業は村の婆さんの仕事だ。

 皮だけ剥いで持っていく。

 肉は足の速いものから食べる必要があった。

 保存もできなくはないが大量の塩が必要になる。塩は高価なため食べきれない肉は村で分けることにしていた。


 解体した鹿の心臓に木の枝を刺して、焚き火でじっくりと焼く。

 それを今日の昼飯にした。

 噛むごとに血の味が口中に広がった。

 ゴブリン達にも鹿の肺など要らない肉を与えておく。

 美味しそうに生の鹿肉をかじりつくゴブリンを見ながらこれからのことを考えた。


 暖かくなったらメスのゴブリンを探そう。

 まだ少し山には雪が残っている。

 この冬を乗り越えたゴブリンは捕まえたくなかった。

 強烈な寒波を生き残った賢いゴブリンだと手に負えなくなる可能性が高い。

 春に新しく生まれた馬鹿なゴブリンから数を増やそう。

 増やしたゴブリンは売り払うのだ。

 売り込み先は魔王軍。

 戦闘能力は端から期待されていなかった。

 馬鹿でかい城の掃除から畑の世話などの雑用に利用されているという。

 大型の魔物の餌にされないだけマシだろうなと思った。

 最近はゴブリンの繁殖力の高さだけを当てにして、粗雑な兵としての利用もされているという。

 爆弾をくくりつけて走らせるというあれだ。

 ゴブリンの利用法としては間違っていないが、それはそれで物悲しい……。

 俺のゴブリン達の未来はどうなるのか……。

 少しはましなところに売れればいいなと思った。

 鹿肉を美味しそうにかじりつくゴブリン達を見てそう思った。



 やっぱり一番嬉しかったのは、お客さんから感謝の手紙が届いた時だよね


「げんきなごぶりんいつもありがとう」


 多分お子さんなんだろうね

 下手くそな字で、ゴブリンの絵も描いてあってさ

 それを見て嬉しくて頬が緩んでしまったよ

 この仕事してよかったなって

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