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出会うまでのカウントダウン1


「アテナって自分が許せないものに対して本当性格悪くなるよな。」


なっ!?

子供達を待たせているので、シスターイザベラや役人、警備隊の事など後はブロムスを含めこの辺りを領地として治めているブルーノ伯爵とブルーノ騎士団にまるっと丸投げし、早足で河原へ戻る途中、ほとんど黙って事の流れを見ていたアルテミスから発せられた言葉にアテナは一瞬言葉を失った。


が...


「あったり前じゃない!私聖女様じゃないんだから。どんな人にでも優しくなんて出来ないよ。私、好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いなの!」


確かにそうだと開き直る。そりゃそうだ。あんな人に優しくなんて出来ません!


「本当に王女のセリフかよ。」


呆れに笑いが混じった様な口調で返事を返したアルテミスだったが、急に立ち止まり顔を顰めた。


「アル?」

「子供達の様子がどうもおかしいらしい。アテナ急ごう。」


どうやら置いてきた火の小人から子供達の異変を感じ取ったらしい。二人は急いで子供達の元へと向かった。


戻ってみると、先程まで怪我はしていても元気だった三人までもが気を失って倒れていた。そして、四人全員が顔や腕、全身が黒く爛れ、皮膚にヒビが入っていた。


「何で...急にここまで....」


これは、瘴気に侵された症状の末期だ。ここまで症状が悪化することは珍しい。瘴気に侵された者は聖の浄化をされなくても、ある程度の魔力が魔核に宿っていれば、苦しみが長引くものの自然に魔核に纏った瘴気は薄れて治っていく。しかし、魔力の弱い者は稀に瘴気が薄まらず症状が悪化し、全身を黒い痣が覆いヒビ割れ崩れそして最後に灰になっていく。この子達の魔力も弱いという事なのだろうが、それにしてもこの症状になるまでにはもっと時間がかかるはずだ。先程まで瘴気の症状は無かったのにこんな急に悪化するなんて....


「アテナ、ここまでくるともう.....」

「.....。」


しゃがみ込んで子供達をジッと見つめているアテナの隣にアルテミスもしゃがみ込み呆然と子供達を眺めている。

きっと先程の魔獣の残っていた瘴気に侵されてしまったのだろう。どうしてこうなったのか分からないがここまでの症状になると、アルテミスの言う通りアテナの治療法ではどうにもならない。


「....私が....わたしがアルみたいにすごい魔法士だったら...子供達を助けられたかもしれない」


なんて無力なんだろう。どんなに工夫したってやっぱり私は出来損ないだった。目の前の子達を、助けてあげられない。きっとまだ何も知らないこの子達に沢山の幸せを与えてあげたかったのに、それなのに.....


「....っう.....ぅ...ごめんね」


泣いても何にもならないのに。悔して悔しくて堪らない。

そっとアルが肩を抱き寄せてくれる。そして反対の手で子供達の頭を一人一人ゆっくり優しく撫でていく。


「ごめんな。守ってやれなくて。ごめんな...。」


抱き寄せてくれている手が震えている。ここから急いで王宮に運び最上級の聖の魔法士の治療を受けたとしてもきっと間に合わないだろう。この症状の患者を一度だけ見たことがある。その患者は瘴気に侵されて1年経ったと言っていただろうか。お金がなく医者に診て貰うことが出来ず、たまたま私達が往診で訪れた時にはもう遅かった。ヒビが入った皮膚はポロポロと崩れ出し数時間後灰になって死んでしまった。この子達も数時間後には.....


遠くの東の空が少しずつ明るくなっていく。もうすぐ夜明けだ。この子達はこの昇ってくる太陽の光を感じる事は出来るのだろうか。せめて暗闇から出られたことを感じて欲しい。せめて最後は温かな光に包まれて.....

アテナは拳を握り伏せていた顔を上げると服の裾で涙を乱暴に拭った。無駄なことは分かってる。私なんかじゃどうしようもないことも。でも悪足掻きをしてみてもいいだろうか.....

アテナは胸の前でそっと手を組み、そして唱える。


「祝福を」


アテナの体から発した金色の光はそのまま膨らみ寝ている4人の子供達を包み込んだ。隣でアテナの行動を見たアルテミスは一瞬驚いたものの、何も言わず邪魔にならないよう少し離れ、アテナと子供達を見守っている。


きっと魔核に弾かれてしまうだろう。分かっている。今まで何度も魔核に干渉しようとしては全て弾かれ、何度も自分に失望した。それでも、無駄なことだと分かっていても諦められなかった。自分にまた失望するかもしれない。それでも諦めが悪い私はやっぱり何もせずにはいられないのだ。

4人の中にある魔核を探る。


すると、何か違和感を感じた。


「.....アル...この子達魔核がないの....」

「え?」


子供達の魔核に弾かれるどころか、それ自体が見当たらないのだ。魔核は瘴気を纏うことで防御壁の役割も果たしている。それが無いのであれば直接、身体に瘴気が纏わり付きあっという間に蝕まれていく事になるだろう。魔核がない人を見た事が無いので推測でしかないが、もしそうなのであればここまで進行が早いのも納得できる。


「あ...」




そうだ....もしかしたら、魔核が無いのであれば、むしろ弾かれず浄化を出来るかもしれない。何の根拠も無いけれど、少しでも可能性があるのならそれに賭けよう。私はこの子達にただ笑って欲しいんだ。


『聖なる光よ眠れる子供達に明日への祝福を』


子供達を包んでいた光はさらに輝きを増す。アテナは自分の中にある魔力を全て解き放った。アテナの魔力量はアルテミスに次ぐほど膨大だ。魔核に干渉が出来ないからと自分を出来損ないと評しているが、もしそれが出来ていたならばアテナは最も優れた聖の魔法士だっただろう。そんなアテナだったからこそ四人へ同時に浄化が行えているが、どうもそう上手くはいかないらしい。

魔核が無いので弾かれはしないが、どれだけ聖の魔力を注いでも子供達の様子は変わらない。

...やっぱり...助けられないのかな....。

いや、弱気になってはダメだ。諦めない。この子達は私が必ず救わなければいけない。これは私の願い。いや、使命だ。ん?使命?何だかよくわからない違和感のある感情が芽生える。助けたい気持ちは勿論あったがそれ以上に使命感が胸を支配する。切なさと悲しさ、焦りそしてほんの少しの懐かしさは一体......


「アテナ!それ以上は身体がもたない!」


突然、アルテミスに肩を掴まれる。アテナは驚いて振り返りアルテミスの顔を見るが、一瞬見開かれた瞳はすぐに優しく細められた。アテナの魔核に宿っている魔力はもうほとんど残っておらず、魔法で変えていた髪と瞳の色も維持が出来ずに元の色に戻っていた。

それでもアテナは優しく微笑んだ。


「ありがとう、アル。私の可愛い弟はやっぱり優しい。でも、お願いアル。止めないで。」


その優しく細められた黄金色の瞳からは揺るぎない強い意志を感じた。この目をしている時のアテナは何を言っても自分の意思を曲げないことを知っているアルテミスは、それ以上はもう何も言えなかった。

そっと引き止める為に置いた手を離す。


「ありがとう、アル。アルは私の愛する良き理解者だよ。」

「.....何かあれば、俺がなんとかしてやる。」

「ふふ。やっぱり私の可愛い弟は優しい。」

「....姉貴面すんな。」


再び子供達へと向き直る。もう、魔力も底を尽きている。魔力を使い切ってもなお、魔法を使おうとすれば魔核に負荷がかかり、傷ついてしまうらしい。それが原因で魔法をうまく使えなくなってしまったり、身体に障害がでてしまった人達を知っている。分かってる。分かっているけれど、今の私にとってこの子達を助けることに勝るものなどない。どうしてそこまで思うのかも分からないけれど、でも、きっと大丈夫!アルがいてくれるから.....。


胸の前で組んだ手にさらに力を込める。どうか、どうかお願い。生きてーーー


最後の力を振り絞ったアテナの魔力は弾け黄金色の暖かな光の粒が宙を舞う。

その瞬間アテナは意識を手放した。









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