出会うまでのカウントダウン2
「シスターとお話がしたいです。炎の檻を消すのでどうか道を開けてくださいますか?」
「.....手を出したら許さないからな。」
「ええ。今のところその予定はありません。見守って頂いても結構です。」
魔力を使いきり疲労困憊の町民達はここで抵抗しても敵わないと悟ったのだろう。渋々道を開けてくれた。アルテミスが炎の檻を消しアテナはシスターの目の前に立つ。
「随分、町の人達に愛されているようですね。」
「私も町の人々を愛しておりますから。」
「では、なぜあの子達を愛してはあげなかったの?」
町民達も二人の会話を静かに見守っている。
「.....何のことでしょうか。私はここで育てている子供達も愛してきたつもりですが。」
「そう。あなたの愛し方はとても変わっているのですね。足に枷をしてろくにご飯も与えず暴力を振るうのがあなたの愛し方ですか?」
「.....。」
「奴隷法は先代の王によって廃止されました。今この国で人を奴隷として扱う事は重罪です。」
チッ
「ペラペラとうるさい娘だこと。」
「あの子供達は人の子なんかじゃないわ。あなたも見たでしょ?あの白髪に色のない気持ち悪い白い目。それにあいつらは成長しない。町民が森で拾ってここに連れて来た時からずっと何年もあのままの見た目よ。どう?気持ち悪いでしょ?まあ、歌は上手かったかしら。礼拝の時間に歌を歌わせていればそれを聞いた人々が寄付してくれるからその点はよかったわね。お陰で稼げたことだし、そのことくらいなら感謝してやらないこともないわ。」
成長しない?確かに不思議だ。見た目は八つくらい?だけど実年齢はもっと上という事になるのだろうか?気になる事はたくさんある。けれど、だからと言って奴隷扱いなどして良いはずがない。あの子達にはちゃんと心がある。嬉しいと素直に笑い仲間を思って声を上げて泣く。ちゃんと優しい心を持っている。そんな心を傷つける事はゆるさない。
「あなたは酷い人ですね。あの子達が何者だろうと関係ない。罪を償いなさい。」
「私に罪なんてないわ。あいつらは人じゃないの。だから奴隷とは言わない。家畜と一緒。ちゃんと繋いで躾をしてなにがいけないの?いい?この町の人々にとって私は心優しいシスターなの。孤児を育て、教会へ訪れる人々の話を聞き時に救いの手を差し伸べる。そんな私を罪人にしようとゆうの?」
「あなたの話は全てここにいる町民が聞いています。もう、この町にとってあなたは心優しいシスターなどではありません。」
「...あはははは。」
シスターが突然甲高い笑い声を発した。
「私、器用なのよ。気がついていたかしら?私達の会話は私の発動した防音魔法で周りには聞こえない。さらに幻聴、幻覚魔法であなたは無抵抗な私にひたすら暴力を振るっているように見せているの。罪人はあなたの方よ。あははははは」
「っふふふ。」
思わず笑ってしまった。
「っふふふふふ。」
「おい。テナ。」
「これは、これは失礼。っふふ」
あ、アルが呆れ顔だ。
「何がおかしいのかしら?」
シスターが訝しげな顔でこちらを睨んでいる。さあ。教えてあげようか。
「気がついてましたよ。シスターの魔法。確かにそれだけの魔法を同時に発動できることは素晴らしい。けれど、残念な事に私も器用なの。あなたの魔法を上書きさせてもらいましたよ。防音効果は拡声に幻覚魔法は反転にしてシスターに。おまけに自白魔法で素直に話してくださいました。ねぇ、シスター?気がついていたかしら?」
シスターは大きく目を見開き、体は木に縛り付けられている為、唯一動かせる首を一生懸命に動かして周りを見渡す。しかし彼女の目には自分が発動したと思っていたアテナが暴力を振るうという幻覚を見た時にするであろう、町民の反応が見えているだろう。そのせいで、シスターは魔法が上手く発動しているように思っていたのだから。
「さぁ、魔法が解けますよ?シスターシザベラ。」
パチンッ
周りにいた町民たちはただ、ただ、シスターを信じられない物を見るように茫然と見つめていた。徐々にすすり泣く女性の声やヤジを飛ばす人も現れだした。
「あなたをこの町の役人と警備兵へと引き渡します。しっかり罪を償ってください。」
「っふん。役人も警備兵も子供たちのことを知っているからね。勿論どういう有り様かもね。さらにあいつらも教会への寄付金を受けっている。果たして私を罰することなんて出来るのかしら?」
やっぱり。さっきの役人も知っていたのか。この町の中枢はどうやらおかしくなっているようだ。
「そうですか。では、その上を呼ぶまでです。」
掌に連絡蝶を出すと息を吹きかけて飛ばす。金色に光り輝く蝶は瞬く間に飛んで消えた。するとすぐにオレンジ色の淡い光を放った蝶が帰ってきた。人差し指に止まった蝶を読む。丁度いい。どうやら近くにいるようだ。すぐ来るだろう。
少し遠くから馬が数頭こちらに向かって走ってくる音がする。
「シスター、どうやらお迎えが来たようです。」
下を向いていたシスターが顔を上げると遠くからこちらに向かってくるものを目を細めて確認している。
目の前まで来てようやく何者であったかを理解したようだ。目を大きく見開いて驚きを隠せないようだ。
「ど、どうしてブルーノ騎士団が...」
騎士団達は驚く町民やシスターを余所にアテナとアルテミスの前までくると最敬礼をする。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。お会いできて光栄でございます。この度は我が主人エドワード・ブルーノの命により参りました。」
「顔を上げてください。私達はただの旅する医者です。ブルーノ伯爵とはちょっとした知り合いなだけでその様な礼を頂けるような者ではありません。こちらこそ、こんな時間に呼び出してしまい申し訳ありませんでした。彼女がシスターシザベラです。要件はすでに伯爵様に伝えておりますので、後はお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はっ。」
「さ!ルミス!戻ろ!」
「ああ。」