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出会いまでのカウントダウン4

教会内に入ると夕礼拝に訪れている町民が数人祈りを捧げていた。アテナとアルテミスは扉から一番近いベンチに座ると辺りを見渡した。華美ではないシンプルなステンドグラスが夕陽に照らされキラキラと輝いて美しい。そして、河原で聞こえた綺麗な歌声が、先ほどよりもはっきり聞こえる。聖歌隊だろうか?子供達の歌声が今日の疲れを癒してくれる。

目を瞑りしばらく天使の歌声に聴き入った。歌声が優しく身体中に染み渡る感覚。ずっと聴いていたい。ただただ、そう思う。

どれほど時間が経っただろうか。

突然横から頬を硬めの布で擦られた。驚いて目を開けると、どうやら布の正体は袖の裾だったらしい。アテナはその手の先にある顔を睨んだ。


「ルミス、何するの!」

「何泣いてんだよ?」

「泣いてる?」


アルは何を言ってるの?よく分からないまま目尻を押さえた。指先が目尻に触れるとまた一粒溢れたのは確かに涙だ。私が泣いてる?自覚したらもうダメだった。どんどん溢れてくる涙を止める方法がわからない。私はどうして泣いてるの?何も悲しくなんてないのに。ただ、歌声を聴いていると、なんだか懐かしいような、切ないような、嬉しいような....。この感情は一体...?


涙が止まるのをひたすら待った。アルも何も言わずにただ隣に座ってくれている。たまに頭を撫でてくれたりして。優しいアル。きっとこの流れる涙の中にはその優しさへの感涙も含まれているだろう。


ようやく落ち着き顔を上げ辺りを見渡した。先ほど礼拝に訪れていた町民達の姿はすでになく、外も日が落ちて暗くなっているようだ。そろそろ私達も帰ろうかと話していると修道服に身を包んだ女性がこちらに向かって歩いてきた。


「こんばんは。私はイザベラと申します。この教会でシスターをしております。貴方方はもしかして、旅のお医者様でしょうか?」

「こんばんは。シスターイザベラ。仰る通り私達は旅をしている医者でテナとルミスといいます。」

「やはりそうでしたか。見かけないお顔でしたので。町民の治療をしてくださってると礼拝に来られた方が仰っていました。この町の民として皆が救われるのはとても嬉しいことでございます。お医者様方、ありがとうございます。」


シスターは優しく微笑んだ。目尻に少しシワの入った微笑みは慈愛に満ちていて、きっとこの町の人々はこの微笑みに何度も励まされてきたことだろう。


「いえいえ。私達もブロムスの皆さんのお役に立てて嬉しいです。ところで、この綺麗な歌声は?子供達が歌っているのですか?」

「ええ。教会で暮らしている孤児達の歌声です。あの子達は歌う事が好きでこうして礼拝の時間には歌を歌っているのです。ただ、人前に出るのは恥ずかしいようで...。」

「そうか。会ってみたかったのですが、残念だ。」


なんだ。アルもしれっとした顔してこの天使の歌声に興味深々だったんじゃない。ニヤニヤしながら弟の顔を眺めていると、視線に気が付いたのかこちらを見て、なんだよ!と、あからさまに顔を顰めてそっぽを向いてしまった。照れてる照れてる。アルはほんと可愛いなぁ。


「私達、今日から数日間、隣の宿に泊まるんです。また歌を聴きに来てもいいですか?」

「勿論です。子供達は朝と夕方の礼拝の時間に歌っております。是非いらしてください。」


そうして、私達はシスターに見送られ教会を後にした。

教会から歩いてすぐの宿に着き、朝一で預けた馬の様子を見てから受付に行き各自部屋の鍵を受け取る。


「じゃあ、明日は朝一で役場に顔を出してから行こうか。」

「そうだな。じゃあ、また明日。おやすみ。」


ちゅっ。


お互い頬に挨拶をして部屋へと入った。

簡単に湯浴みを済ませてベッドへ潜る。目を瞑るとまたあの子供達の歌声が蘇ってきた。

本当に綺麗な歌声だったなぁ。また明日も聴きに行こう。アルもきっと聴きたいはずだしね。

そうしてゆっくりと意識を手放していった。


------


あの子供達が!!!あの子達が!!!!




取り戻そう。僕たちの手で。



誰かが泣いている。どうしてだろう。胸が痛い。それにこの声は....どこかで聴いたことがあるような。この人達は一体....


------


《アテナ!!!》

「ッへ!?ナニナニ?」


突然脳内で大音量で名を呼ばれ飛び起きた。頭がガンガンする。どうやらシグナルでアルに呼び掛けられたらしい。

シグナルという離れていても脳内で言葉を交わすことができる超上級魔法はお互いの波長が合って無ければ出来ないものだが、双子である二人は普通の会話をするように使えてしまう。


《アル!ビックリするじゃない!!こんな夜中にどうしたの!?》

《外で火が上がっているみたいだ。それに魔獣が近くにいる気配がする。》


アルの言葉に目を見開いて慌てて窓を開けて辺りを見渡し感覚を研ぎ澄ます。憎悪に満ちた生暖かい風が肌を撫で鳥肌が立ち嫌悪感を抱く。この感覚は間違いなく魔獣だ。ただ火の出どころがこの窓からでははっきり確認できない。ただ常であれば静寂に満ち闇夜であるはずが、外は赤く照らされている。間違いなくどこかが燃えているのだろう。この窓が設けられている方角からして、火の出どころにあるものはーーーー教会!?


《アル!行こう》

《ああ。》


急いで外套を羽織り部屋から出る。アルも同時に出てきた。さすが双子!お互いに視線を合わせて駆け出す。


「火の方角からして教会の可能性が高い。階段を使うのが面倒だ。あの窓から出よう。」

「分かった!」


私たちの部屋があるのは3階だ。玄関の方角からしても階段を降りて外に出るのは時間が掛かる。廊下の突き当たりにある窓から飛び降りるのが最短だとアルは判断したのだろう。

前を走っていたアルテミスは指定した窓の枠に足を掛けると勢いよく飛び出した。アテナもそれに続き外へと飛び出す。

教会の正面に着くと、燃え盛る教会を背に黒い禍々しい黒炎を纏った馬ほどの大きさのある、犬のような形をしたものが佇んでいた。それを騒ぎに気がつき集まった町民が距離を置いて囲んでいる。


「アル。あれは...」

「間違いなく魔獣だ。あの型は俺も見た事がないが恐らくあれが教会に火を放ったんだろう。まあ、どんな奴だろうが俺は負けないけど。」


アルテミスは勢いよく駆け出し地面を蹴ると高く飛び上がった。


『誇り高き炎よ刃となりて悪しきものを撃て』


言葉は具現化し、いくつもの炎の刃となって魔獣へと降り注ぐ。アルテミスが地面に着く頃には勝負はついていた。炎の刃に貫かれた魔獣は霧となって消えていった。

集まっていた町民達も一瞬の出来事に呆気にとられている様子で皆固まっている。


キキーイッ


すると、教会の扉が開き中からシスターが出てきた。アテナは急いでシスターに駆け寄り、身体を支える。煙を吸ってしまったようで酷くむせているが大きな火傷は無さそうで、少しホッとした。どうやら自分で歩けるようで安全な所まで、支えるだけで移動することができた。


「シスターイザベラ。大丈夫ですか?」

「ええ。何とか。目を覚ますといつの間にか火に囲まれていて.....」


その身体は酷く震えていて、恐怖を物語っていた。怖かっただろう。無事でよかった。

座り込んだシスターに合わせてしゃがみ、震える肩をそっと撫でながら辺りを見渡した。

.....そういえば、子供達は!?子供達の姿がどこにも無い。まだ教会内に取り残されてるんじゃ!?


「シスター!子供達は!?」

「あ。いや、まだ中に....」

「シスターはここに居てください!すぐ助けに行って来ます!」


早く助けてあげないと!

ーーーッ!?


急いで立ち上がり駆け出そうとしたアテナの手を何者かに掴まれた。振り返るとシスターがアテナの手に縋り付いていた。


「大丈夫ですから!私が行きますから!大丈夫ですから!!」


必死のその様子に何か違和感を覚える。


「何か、あるのですか?」


あからさまに目が泳いだ。シスターイザベラは何を考えているの?


「とりあえず、子供達の命が最優先ですので、早く助けに行かなければ。手を離してください。」

「お願い行かないで!」

「いいえ!行きます!子供達の命が優先です!」


「.....行かせない。行くなぁぁぁー!!」

「!?」


本当にこの人は夕方に会ったシスターなの?

鬼の形相になりヒステリックを起こしているシスターに不信感を抱く。

なんだか嫌な予感がする。はやく行かなくちゃ!

シスターの手を力づくで振り払い、扉に向かって駆け出すとアルテミスが近くまで来ていた。


「アル!火を消してほしいの!中にまだ子供達がいるはず!」

「わかった。」


『炎よ我の命に従え』


アルテミスが燃え盛る教会へと手をかざし唱えると火は瞬く間に消えていった。アテナは急いで教会の中へと入って行く。

教会内の奥にある扉を開くと短い廊下の先にまた扉があった。その扉を開けて中に入るとどうやらそこは住居スペースとなっているようだ。建物の焦げた匂いに鼻を刺激される。むせそうになるのをなんとか堪えて外套の裾で口と鼻を覆うと、子供達の姿を探す。

煙で暗い視界の先に白い固まりのようなものがぼんやりと見えた。何となく生気を感じるそれを見つけた事に少しだけ安堵し、近づいていくと子供が四人、部屋の隅で身を寄せ合っていた。ぐすんぐすんと微かにすすり泣く声が聞こえる。

良かった。いた。生きてた。本当に良かった。

アテナは急いで近づき一番手前、皆んなを庇うように抱き抱えている子の肩にそっと触れる。ビクッと身体を跳ねさせたその子の肩は骨張っていて痩せすぎだ。背中には皆んなを守る為に負ったのであろう火傷でひどく爛れていて一刻も早く薬を塗ってあげたかった。


「助けに来たよ。もう大丈夫。私と一緒に外に出よう?」


アテナの声が聞こえたのか4人の内3人が恐る恐ると行った様子で伏せていた顔を上げた。

こちらを向いた顔をみてアテナは言葉を失った。暗くても分かるその見た目は真っ白の髪に色を失ったかのような白い瞳だった。目を見開いているアテナを光を失った白い瞳で見つめた一番手前の子供が掠れた声で話し始めた。


「僕達は外に出てはいけないとシスターに言われてるのです。」

「僕たちは気持ち悪いから。」

「僕たち人じゃないんだって。」


手前の子に続いて左右にいる二人も呟いた。胸が絞られる気分だった。思わず俯いてしまったアテナの目に飛び込んできたものは子供達の足に付けられた枷だった。

これを隠したくてシスターはあんなに慌てていたのか。どうしてこんなことができるの.....。怒りと悲しみで涙が溢れる。


「でも、っう、でもっううっ三番を助けてほしいです。うっうっ...さ、さっきから呼んでも呼んでも返事しないの...お願い...うっお願い...。」


怒りに震えていたアテナの耳に届いた悲痛な声にハッとし、荒くなった呼吸をどうにか落ち着け4人をそっとまとめて抱きしめる。


「大丈夫。大丈夫よ。みんな助けるから。三番というのは奥の子?」

「うっう...そうです。」


身を寄せ合っている一番奥唯一顔を上げなかった子。どうやら気を失っているようだ。首に手を伸ばし脈を測る。それとアルテミスへの連絡も忘れない。


《アル。子供達を見つけたよ。外へ連れ出すのを手伝って欲しいのだけど、その前にシスターを拘束しておいてくれる?》

《...分かった》


さすがアル。疑問はあるだろうけど、ちゃんと私の意を汲んでくれる。

さて、気は失ってるけど脈拍は問題ないみたいだね。良かった。それにしても、三番か。番号呼びだなんて....

首に触れていた手をそっと離し、掌を強く握って再び込み上げてくる怒りを今は必死に抑え込む。


「三番?は大丈夫!気を失っているだけみたいだよ。でも後でもう一度しっかり診察が必要かな。こう見えて私お医者さんなの!みんなの怪我を治してあげたい。だから一緒に外に出よう?」

「でも....僕たち.....」


子供達はお互いに視線を合わせたり、足元の繋がれた枷を見ながら戸惑っているようだ。


「アテナ」


背後から掛けられた聞き慣れた声に振り返る。


「アル。来てくれてありがとう。早速だけど、これ取るの手伝ってくれるかな?」


アテナの指差す方向に視線を向けたアルテミスは目を見開いたあと、瞳に怒りを宿し拳を強く握りしめた。血管が浮いたその手は震えて爪が掌に食い込んでいる。アテナはその手にそっと触れる。


「アル気持ちは分かる。でも今はこの子達が優先だよ。早く外に連れ出してあげよ?」

「あ、ああ。なるほどな。アテナがさっき言っていた事を理解した。で、これを外せばいいんだな?」

「そう。私はこの子達の鎖を切るからアルはその子達の鎖をお願い。」

「分かった。」


二人で四人分の鎖を切ると、枷はまだ足に残っているもののどうにかこの場を離れることが出来るようになった。お互いに二人ずつ子供達を抱え、出来るだけ人目につかないように見つけた裏口から出ると教会の裏の河原へと連れ出した。


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