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プロローグ



「あなたの花を僕が咲かせたい。」


「お嬢様の笑顔すっごく可愛いですね!」


「お嬢様はとても甘そうです。」


「貴女をお守りします。」



どうして、こうなった...


***


私アテナ・オルビスはケルビム大陸にあるオルビス王国の第四王女として生まれた。6人兄妹の5番目、兄姉姉姉私弟という位置。お兄様は王位継承権第一位の王子として日々政務に励んでおられ、お姉様方は有力な公侯貴族に降嫁済み。私と双子の弟は今年、王立学園を卒業して弟はお父様、私はお兄様の政務や公務の手伝いをしている。





ある日、執務室で書類とにらめっこしていた第一王子アレスのため息が、執務机の脇で書類の整理をしていたアテナの耳に届いた。


「お兄様?どうしました?お疲れでしたらお茶を淹れましょうか?」


行儀悪く頬杖をついているアレスはアテナの呼びかけに顔を向けると、ふっと表情を緩めた。その表情の甘さといったら妹のアテナでも照れてしまうほどだ。


「アテナは優しいね。僕の天使。では、お願いできる?」


※ちなみにアレスはシスコンである。


「かしこまりましたお兄様。少し休憩しましょう。今日は料理長が自慢のマフィンを焼いてくださってるそうですよ!それとリラックス出来るようにハーブティを入れますね!」


王邸宅の料理長はケルビム大陸の中でもトップクラスの腕前で、スイーツまでも絶品だ。甘いもの大好きなアテナが昨日料理長にマフィンをおねだりしていた事を知っているアレスは、嬉しそうに部屋を出て行く妹の背中を愛おしそうに見送った。


「それにしても.....」


ふーっと大きく息を吐きながらアレスは背もたれに体を預けた。

ここまで魔獣の被害が増えているとは。他の三ヶ国からも同様に被害の報告が上がってきている。何とかしなければ...


考えに耽っていると、アテナが侍女を連れワゴンを押して戻ってきた。部屋の中央、休憩用のテーブルの横までくると、アテナはティータイムのセッティングし始めた。その手際の良さにアレスは思わず苦笑した。


「アテナ何度も言うようだけど、そういうことは侍女に任せていいんだよ。」


侍女のクレアは黙ってはいるが、うんうんと頷いている。


「お兄様。何でも人に任せっきり良くないですよ。それに人に全て任せる事になれば私、ほんとにぐーたらのだらしない王女になりそうな気がする。」


最後の方は独り言のようになりつつ、少し青ざめながらも手はきっちり動かしている妹を見てアレスは目を細めて笑った。


「まあ、そこがアテナの良いところでもあるんだけどね。さて、頂いても?」

「はい!どうぞ、召し上がれ!」


お茶を一口飲むと、優しいハーブの香りが口いっぱいに広がり力んでいた身体がゆっくり解されていく。身体の奥から暖かく心地の良い魔力の波紋が全身に広がっていくこの感覚はアテナがお茶を淹れてくれた時には必ず感じることができるものだ。


「アテナの淹れてくれるお茶はやっぱり最高だね。今日もおまじないをかけてくれたの?」

「もちろんです!リラックス効果のあるカモミールのハーブティに、お兄様がお疲れの様子だったのでいつものおまじない増量しました!眉間に大きな皺を作ってらっしゃるんだもの。お兄様のかっこいいお顔が台無しです!」


※アテナも兄に負けずブラコンである。


頬を膨らませ拗ねたような顔をしつつも、アレスの向かいのソファに座り、しっかりマフィンへと手を伸ばしたアテナは一つ手に取ると何のためらいもなくかぶりついた。社交の場では淑女の鑑と評されるアテナだが家族の前では気が緩んで少々お行儀が悪くなってしまう。


ん〜!!おいしい〜〜〜!!!

やっぱり料理長の作るお菓子は最っ高!!シナモンの香りがたまらない!!!あ、今日はベリーのマフィンまである!これ食べたら、次はあっちね。


大好物のマフィンに舌鼓を打っているとナプキンを持った大きな手が目の前に現れ、ガシガシッと乱暴に口元を拭っていく。


「なにするの!アル!」

「アテナが子供みたいに口の周りに食べカス付けてるから取ってやったんだろ?」

「取ってくれるにしても、もう少し優しく拭いてほしい!」

「文句ばっか言ってるから結婚できーー」


突然現れた第二王子のアルテミスが言いかけたその時、目の前でパチッと小さな火花が散った。


「あっぶねー!何すんだよ!兄上!」

「アル、部屋に入る時はノックをしろとあれほど言ってるのに。それにアテナはまだ16歳だ。結婚出来ないんじゃなくて、させないんだよ?可愛い妹達が嫁いでしまって残るはアテナのみ。そして最愛の妹アテナが出て行くなんて考えられない。分かるアル?」

「だからっていきなり室内で火を出すんじゃねぇよ!シスコン野郎!」

「アルは口が悪いねぇ。そもそも、君も大概シスコンだろ?」


口喧嘩を始めた2人を眺めながら二つ目のマフィンにかぶりつきつつハーブティを飲む。

はぁ〜優しいお兄様に可愛い弟。そしておいしいお菓子とお茶。幸せだな〜。自分の事で兄弟喧嘩をしているにもかかわらず呑気にティータイムを楽しんでいる主人に呆れつつクレアは突然現れたアルテミスのお茶を入れ始めた。


喧嘩もひと段落ついたのか、横に腰を下ろしお茶を飲み始めたアルテミスにマフィンを渡しつつ、ふっと思い出した。


「そういえば、お兄様。先ほど何の書類を見てたんですか?」


兄が書類を見ながら大きくついた溜息を思い出したアテナは、気晴らしのティータイムに仕事の話など申し訳ないと思いつつも、いつも仕事を淡々とこなす兄が珍しく手を止めていた事が気になり疑問を投げかけてみた。横にいるアルテミスはアテナの言葉にマフィンを食べつつ首を傾げている。


「あぁ。あれは同盟国からの報告だよ。最近、魔獣達の活動が活発化しているらしくてね。各国、騎士団や魔術師を魔獣が現れた現場に送り対処はしているのだけど、国民の不安は大きくなっているみたいでね。それに魔獣が放つ瘴気の被害もどんどん増えている。我が国も含めケルビム全体が疲弊してきているようだよ。」

「その話は父上も仰っていた。魔獣との戦いは対応出来ても、国民の不安を取り除く事は容易ではないと頭を悩ませていたな。」



なるほど。たしかに、最近は特に魔獣出現の報告が増えていることはお兄様の手伝いをしていて知っている。国民が不安になるのも無理ないよね。それに瘴気のことも気になる。あれは聖の魔力を持つ医者でないと治らない。元々聖の魔力を持つものは他の属性と比べて少なく、更にその中でも医者となると人数が限られる為治療費も高額になる。家計が苦しくなかなか医者にかかれず、高熱にうなされる日々を過ごす者達もたくさんいるのだ。


腕を組み目を瞑って何かいい方法はないかと頭を悩ませていると、っふとハーブの香りが鼻孔をくすぐり、暖かく優しい湯気が顔を包み込む。そっと目を開けると淹れたてのハーブティが入ったカップが目の前に差し出されていた。差し出している手を辿っていくと仏頂面のアルだった。


「アルが淹れてくれたの?」

「アテナが難しい顔して考えた所で今はどうにもなんねぇだろ。それに、アテナはしっかり自分の役割を果たしてる。せっかく淹れてやったんだからさっさと冷めないうちに飲めよ。」

「うふふ。ありがとうアル。私の可愛い弟はやっぱり優しい!」

「だから!姉貴面すんなって何回言えば分かるんだよ!少し先に出てきただけだろ!」


「そうそう。アルはアテナが先に出て寂しいからか、すぐ後を追いかけるように産まれてきたと母上から聞いたよ。君は産まれた時から今までアテナにべったりだよね?君も僕の事言えないくらいのシスコンっぷりだよ?どうせ、今日だってアテナとお茶しに来たんだろ?」

「俺はアテナとお茶しに来たんじゃない!疲れたからアテナの淹れた茶を飲みに来ただけだ!」


お兄様とアルは本当に仲が良いのね。あ!チョコ味のマフィンもあったんだ!気がつかなかった。ちょっとお腹が苦しいけど、チョコは別腹だよね!食べちゃおっと!


またも自分の事で言い争っている兄弟を気にもせず3つ目のマフィンを頬張っている主人をみて、もはや溜息しかでないクレアである。


アテナはチョコマフィンを頬張りつつ、こりずに言い争っている兄弟を眺める。

やっぱり2人並ぶと絵になるな〜。いつも2人とは顔を合わせているけど、毎度新鮮な気持ちで見惚れてしまう。お兄様は夕陽の様な茜色の髪を後ろで結わえ少し垂れがちなアーモンドアイに檸檬色の瞳が美しい優しい雰囲気の美丈夫だし、アルは燃えるような赤い少し癖のある短髪に、黄金の瞳が収まるつり目はとても凛々しくクールでお兄様とはまた違った美丈夫だ。社交界で沢山の男性を見てきたが、家族の色眼鏡を取っても国内で1、2位を争うのは間違いなし!!私の自慢の家族!それに比べて私は、瞳の色こそアルと一緒ではあるけど、髪の色は赤を薄めに薄めたパッとしない淡い色で尚且つ、癖のあるくねくねとした髪は毎日手入れが大変なのだ。といっても手入れをしてくれるのはクレアで私は座っているだけだけど...。それに少しつり上がった丸い猫目はなんだかキツめの印象を与えるからか、なかなか声をかけてもらえない。アルと私は双子なのに!二卵性だから、顔はそこまで似てないけど同じお腹で育ったはずなのに!男と女ではどうしてこうも違うのか...。ちなみに、オルビス王家は代々お兄様の様に黄色味がかった瞳の色をしており、王家の分家であった公爵家から嫁いで来たお母様の瞳も黄色味がある瞳の色をしている。それが何故かアルと私だけ黄色を通り越して黄金色の瞳をしているのだ。この色の瞳を持つ人に出会った事はなく、相当珍しい色の様だ。あ、考え事をしながらだったからか、あっという間にマフィンを食べてしまった。もうひとつだけ食べようかな......


「あ...」


手を伸ばした先にあったマフィンの乗った皿が持ち上げられ行き場のない手は空を描いた。


「どんだけ食うんだよ!太るぞ!」

「心配いらないわ!あとで剣のお稽古するんだもの!」

「それ誰が付き合うんだよ...。言っとくけど俺は父上の仕事がまだ---」

「もちろん!アルに決まってるわ!」


「はあ.....」


食い気味の返答に肩を竦めて溜息を吐いた弟を満面の笑みで見つめ無言の圧力をかけつつ、それ以上なにも言い返してこないので無言を承諾とみなす。


「さすが、私の優しい弟!お兄様の政務は先程、ひと段落ついたの。だから私もお父様の政務を手伝いに行くわ!そしたら早く終わるでしょう?行ってきていいかしら、お兄様?」

「あぁ。いいよ。行っておいで。」

「やった!良いって!アル!さぁ、早く飲んで!行こ行こ!」


アルテミスは再び溜息を吐くと反論することを諦めたのか、アテナに急かされるままにカップの中の残りを一気に飲み干し両膝に手をついてめんどくさそうに立ち上がった。


「ほら行くぞ。」

「うん!あ!お兄様も後で来てくださる?」

「あぁ。もう少し目を通しておきたい書類があるから、それが終われば僕も顔を出そう。久しぶりに可愛い妹と弟を鍛えてあげようか。」

「げっ!」

「久しぶりのお兄様とのお稽古!楽しみにしてます!」


嬉々とした表情のアテナが、苦虫を噛み潰したような表情のアルテミスを押して部屋を出て行く。双子の対照的な表情を笑いながら2人を見送ったアレスは、アテナの淹れたハーブティに視線を移し、愁いを瞳に宿して再び考えに耽けたのだった。



























執事達登場まで何話かあります。申し訳ありませんがお付き合いくださいm(_ _)m

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