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1-1


 やらかした、とは思った。

 目の前にいる人物は、重要人物であり、厳重注意人物である彼。その彼に捕らわれているのは、白髪の人物だ。血を流している白髪の彼は、どうやら意識がないようだった。

 白髪の彼は、俺にとってさほど重要な人物ではないと、そう即答できる。・・・それでも俺の親友にとって最も重要な人物で、一番の支えである為、此処で失ってはいけない。

 その思いから、目の前で不敵に笑う彼の前から、動くことが出来ない。


「主様、貴女には選んでいただきましょう。・・・これを助ける義理など一切ありませんが、この魔王守護者を殺すか、貴女が私の代わりに封印の間に入るか・・・。どちらがいい方法なんて、分かり切っていることですが、我らが主様は、自分か、親友の大事な人を選ぶか、どちらでしょうね。」


 ゆったりとした動きとそれに似合った口調・・・口元の笑みは一切崩すことなく、目は明らかに挑戦的なそれに、この提案が本気であると確認した。


「・・・俺が封印の間に入って、お前が狛を助ける保障なんてねぇだろ?」

「私は、嘘を吐くようなことはしませんが・・・。では、先に封印の間に貴女が入った瞬間、完全に回復させるという法を私がかける、というのはどうでしょう?」


 馬鹿にしたような笑みを零す彼に、眉間に皺を寄せてしまったのを、小さく息を吐いて落ち着かせる。


「・・・分かった。お前の代わりに俺は封印の間へ行こう。その前に狛はどうしてお前に会いに来たんだ?」

「分かっていて、聞くのですね。・・・大事な、大事な弟君の為、黒が彼を染めず、潰されてしまわない様にする方法・・・を知りたい様でしたよ。天界の者が、憎い魔の者になんて、教えるとでも思ったのでしょうかね?」


 クックックッと喉を鳴らして笑う彼の目は、足元の狛に向けられており、その瞳は、嫌悪の色を強く放っていた。それから、馬鹿にした笑いを零した。彼の嫌悪の視線は、明らかな憎悪も窺えた。

 彼が封印の間に入れられることになったのを、魔界人への復讐が理由だった。同情できる部分もあったが、天界では殺生を行なった者に関しては、封印の間に入れられる、ということが決まっていた。

 封印の間=牢屋といった感じな訳で・・・、更に俺自身が作った空間の為、封印の間内部からすぐに解くことは難しいだろう。

 まさか、自分が入るとは・・・と内心呟きつつ、『空・・・』と遠くにいるはずの守護部隊である八龍の内の一人、空龍に呼びかける。

 目の前にいる彼にも話す内容は、聞こえてしまうが、構っていられない。


『ソラ、聞こえるか?』

『主、今どちらにいらっしゃるのですか?』

『封印の間・・・の前。俺は、少し眠りにつく。・・・コクゲンのことは頼んだ。それから、コウ四人のこともな。・・・色々と面倒事ばかり頼んで、悪い。』

『・・・・・・かしこまりました、お待ちしております。』


 ソラは気に入らないというか、納得のいっていないという様な声音だったが、返して欲しい返答に、小さく笑みが零れた。それから、ハクの元へ向かう。様子を窺うが、やはりぐったりとしており、意識がない。


「・・・分かってはおりましたが、我らが主様はなんて馬鹿なんでしょうか。」

「まぁ、自分でもそう思うが、今からのことは、お前のせいでもあんだろうが、とりあえず・・・。」


 ハクへ手を翳すと、自分の魔力が流れていくのが分かる。魔界人の回復には魔力の方が良いだろうと思い、流し込んだが、目に見える傷は癒えたようだった。それから目の前の彼も同じように手を翳し、魔力・・・ではなく、聖力を流し込んだ。・・・本当にハクへ回復する法掛けたのか確認の為、再度、手を翳す。

 すると、素直に法を掛けたらしく、安心からか小さく息が零れた。それから、目の前の彼へ視線を向けた。


「では、約束通り、私の代わりに封印の間へどうぞ。」


 わざとらしく、にっこりと笑みを浮かべて、恭しく頭を下げてみせ、こちらへ手を差し出した。その手を取るなんて、と思うものの、強く睨み付けて手を取った。


「随分なエスコートだな。」

「我らが主様ですから、きちんとエスコートしないと、でしょう?」

 彼はそう言って、俺を封印の間へと迎えた後、反対に彼は外へ出た。にこやかな口調の彼は、先ほどまでの強い憎悪の宿る瞳ではなく、・・・どう言っていいか、今朝、ウチの双子が置いていかれた時の様な、寂しそうな色が瞳に映っている様に見えた。


「ザクロ・・・。」


 その寂しそうな瞳を見たせいか、つい名前を呼んでしまった。目の前の彼・・・ザクロは、名前を呼ばれると、自嘲を零してみせた。


「私は、どうしたら・・・、いえ、これが良い方法であると、思いましょう・・・。」


 そう言ったザクロの表情は、俯いたせいで、見えなかったが、声音から諦めた様な、自嘲の様なものを感じた。それに、何か返す前に扉は閉じられた。それからすぐ視界が黒に覆われると、意識は深く落ちていった。




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