ある夕方の帰り道
夕飯を買って帰ろうとコンビニに入る。
鮭と梅のおにぎりとお饅頭に紙パックの桃のジュースを買って外に出ると、既に夕暮れどきだった。
私はビニール袋を下げて交差点に向かうと、青信号でとおりゃんせのメロディーが流れていた。
交差点を渡り終えようとした時、目の前を駆け抜けていった黒猫に躓きそうになる。
更に電柱にぶつかりそうになりなんとか避けたが、避けた方向は塀の方で結局転んでしまった。
その上落としたビニール袋から転がりでたおにぎりが、そこだけ蓋の無かった側溝に落ちて行った。
ツイてない、そう思いつつ立ち上がり一応側溝を覗いて見る。
何故か何も見当たらない。
諦めて家路を辿る。
だが妙に静かだ。
さっきまではそれなりに賑やかだったのに、今は何の音もしない。
そして人の気配が無い。
しかしそんな事もあるかもしれない。
そして先へ進む。
おかしい。
見覚えの有る道しか進んでいないのに、見覚えの無い所に居る。
仕方がないので取り敢えず戻ろう。
私は自分でも気がつかない内に早足になっていた。
本格的におかしい。
私は今、全く見覚えの無い道を進んでいる。
振り返ってみると、通ってきたはずの道にやはり見覚えがない。
電灯が付き残照も消えかけた時、かごめかごめのメロディーが聞こえだした。
突然の事に心拍数が上がる。
正直気は進まないのだが、変化を期待して音のする方へ向かって進む。
歌詞を頭の中でつい連想してしまう。
『籠の中の鳥は』
さっき転んでしまった交差点が見えた。
さっきが縦なら今は横からだ。
せっかく青信号なので、取り敢えず渡ろう。
『夜明けの晩に』
それにしても人気がないし、静かすぎる。
残照はほとんど消え、電灯の明かりが目立つ。
『後ろの正面』
そういえば、この交差点でかごめかごめは流れただろうか?
そう思った瞬間背後に気配が生まれ、
「だ・あ・れ」
そう背後から声が掛かる。
振り返ってはいけない。
直感的にそう思う。
しかし体は振り返ろうとしている。
せめてもの抵抗に、目を瞑ってつんのめりながらも前に進む。
手がビニール袋に掛かり、紙パックを潰す。
辺りに桃の匂いが立ち込めた。
どの位の時間が過ぎただろう。
数秒とも思えるし、数時間とも思える。
ふと気が付くと車が走る音ととおりゃんせのメロディーが聞こえる。
恐る恐る目を開けると、ビニール袋とその中に広がるジュースと紙パックの残骸だけが見える。
辺りを見回せば、日が落ちたいつもの帰り道のようだ。
そして交差点は渡り終えていた。
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煙草は雰囲気が変わる可能性があるので、入れるのを諦めました。