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ガリバーの孫2 ~巨人の国~

~前作『ガリバーの孫』のあらすじ~

小さな町の港の酒場に遣って来たカイン。

彼は、小人の国へ行って来たと語ります。


しかし、船乗り達は信じません。

するとカインは、お爺さんの遺品『ガリバー航海日誌』と記された手帳を船乗り達に見せました。

そして、小人の国での出来事を話し始めます。


話し終わったカインは、小人の国から持ち帰った宝で、船を買うつもりだと告げます。

この話に、ジャックという男が飛びつき、自分の船をカインに売り込みました。

カインは、宝と船を交換、新たな冒険に旅立つのでした……。

ザブーン、ザーザーザー…。


船は、波を切り裂きながら西へと進んでいます。

乗組員は2人。

1人は、船長兼、航海士兼、コック兼…、と船の全てを取り仕切っているカイン。

カインは、身長180cm。

真っ黒に焼けた肌に、引き締まった筋肉…。

栗色の短髪が似合う精悍な顔つきの青年です。

紺色のダボッとした綿のパンツと胸元に大きなポケットがある白色のフード付きジャケットを着ています。

そして、もう1人…。


「チョップ! 島が見えたぞ!!」


カインは、肩越しに声をかけます。

するとフードの中で寝ていた小人が飛び起き、カインの右肩にひょっこりと顔を出しました。

チョップと呼ばれた小人は、手のひらほどの大きさで、緑色の服に青色のズボン。

小さなクリスタルのペンダントを提げた、黒髪で大きな瞳の男の子。


小人の国で出会って、仲良くなり…。

国を出る時、密航してきた。

自称、冒険家の小人。

カインは、


「もう二度と小人の国へ戻れないかもしれないぞ。」


と、告げますが、チョップは気にも止めませんでした。


「冒険家として、世界を巡るのが僕の夢!

小人の国を出て、僕の夢はスタートしたんだ。

戻れなくても本望だ!!」


チョップの決心を聞いたカインは、冒険を共にすると誓います。

船の乗組員としては、何の役にも立ちませんが、チョップはカインの相棒なのです。


フードから出てきたチョップは、カインの右肩に腰掛けると、まぶたを擦りながら尋ねます。


「あれが、巨人の国なの?」


カインは、首を横に振ります。


「いや、巨人の国の入口さ…。

島の中央を見てみな。

空に向って、真っ直ぐ伸びているものがあるだろ。」


チョップが目を凝らして見ると、確かに棒のような物が、空に向って伸びていました。

棒の先は雲に隠れて見えません。

とんでもない長さです。


「あれは、豆の木さ。

あの豆の木を登った先に巨人の国があるんだよ。

巨人の国は、雲の上にあるんだ。」


「何だか不気味な島だね…。」


チョップが不安げに呟きます。

カインは頷きます。


「あの島は、独房島って言ってね。

悪事を働いた魔法使い専用の流刑地なんだよ。」


「えっ!? じゃあ魔法使いに会えるの?」


チョップは嬉しそうです。


「何十年も前の話だからね…。

魔法使いは、とっくに亡くなってると思うよ。

…と、そろそろ上陸だ。

覚悟は良いか、チョップ。」


チョップは頷きます。

船は、島の東端の入り江を目指します。


入り江に船を着けたカイン達は、島に上陸しました。

島は小高い丘が2つ連なった、ひょうたん形。

丘一面をくるぶし程の高さの草が覆っていて、2つの丘の間に豆の木が生えています。

手前の丘へ上り、辺りを見回すと、向かいの丘に1軒の家が見えました。

カインは家へ行って見ます。


家は、壁と屋根の一部が崩れていました。

もう長いこと、誰も住んでいないのでしょう。

カインは豆の木を見上げます。

と、チョップが声をかけてきました。


「早く、豆の木に登ろうよ!」


「ああっ…。 そうだな…。」


カインは、豆の木へ向います。


豆の木は、渦を巻きながら真っ直ぐ空に伸びていて、まるで大きな螺旋階段のようです。

カインは、腰のロープとナイフを確認すると、豆の木を登り始めました。


「カイン、食べ物は持って行かなくて良いの?」


食いしん坊のチョップが、不安げに指摘します。


「この豆の木の豆は、生で食べられるそうだよ。

2時間程で、実っている場所に行けるみたいだからね。

食べ物には不自由しないと思うよ。」


ジュル…。


チョップが涎を垂らします。


「おいおい、服を汚さないでくれよ。」


カインは笑いながら豆の木をグングン登ります。


カインは2時間かからずに、実が生っている場所へ辿り着きました。

眼下を見下ろすと、船が豆粒のように見えます。


カインは豆に手を伸ばすと、さやを切り開き中身を取り出しました。

サッカーボール程の大きさ。

豆とは思えない甘い香りが漂っています。


「早く食べようよ!!」


チョップがカインを急かします。

カインは、ナイフで豆を切り分けました。


「美味しい! 美味しい! 美味しい!」


アッと言う間に食べ終えたチョップは、まだ切り分けていない実に飛びつきます。


「はあぁぁ……。」


チョップの服が豆の汁で汚れていくのを見て、カインは大きく溜め息をつきました。


(やれやれ…、俺の服もベタベタになるな…。)


「さて、出発するか!!」


食事が終わり、カインは再び豆の木を登り始めました。

腹いっぱい食べて満足したチョップは、フードの中で食休みを取っています。

少し休んで元気を取り戻したカインは、木登りのペースを上げるのでした。


空の大地が近付いてきました。

あと30分もすれば着きますが、カインは登るのを止めます。

日が暮れ、森の中で灯りをともした時、その灯りを巨人に見られる事を恐れたのです。

灯りは遠くからでも見えるので…。


カインは大きな葉っぱの上で横になり身体を休めます。

チョップはフードからカインの胸ポケットへ移動して横になります。


「ねえねえ、カインは、どうして巨人の国へ行こうと思ったの?」


寝付けないのか、チョップが話しかけてきました。

カインは、しばらく考えると話し始めます…。


小人の国へ出発する前日、爺さんの冒険仲間だったケネックが会いに来た。

幼い頃、何度か会った事があり、俺は、ずっと気になっている事をケネックに聞いた。


なぜ、爺さんは巨人の国以降、冒険へ行かなかったのか?

爺さんの言葉『サムソンすまない…。助けに行けない…。』とは、どう言う事か?


ケネックは、全て教えてくれた。


ある日、雲の上へ行く事になったので、協力して欲しいと、サムソンが遣って来きました。

彼は、ウエスト王国の兵士で、逃げた魔法使い捕縛の任を受けており、未知の世界へ行くには、経験豊富な冒険家が居た方が良いと考えたのです。

爺さんは二つ返事で了承し、ケネックとサムソンを連れ、独房島へ行き豆の木を登りました。

そして、手分けして魔法使いの捜索を開始します。

数時間後、サムソンの悲鳴が聞こえてきました。

爺さんとケネックが、声のした方へ向うと、そこに5人の巨人が…。

サムソンは、その中の1人に捕まっていました。

しばらくして、巨人達は移動を始め、やがて村へ…。

サムソンは、家の中へ連れて行かれました。

どうしようも出来ない状況…。


「俺に何か有った時は、一度王国へ戻り、国王様の指示を仰げ。」


と、サムソンに言われていた2人は、巨人の国を後にします…。


ウエスト王国へ戻った2人は、王宮へ出向き、国王様へ報告。

雲の上に、巨人の国があった事。

サムソンが、巨人に捕まった事。

魔法使いの行方は分からなかった事。


王様は、今後、島への立ち入りを禁じると2人に命令します。

これは、巨人と接触することで、王国の所在が知れ、巨人に攻められることを恐れた為です。

爺さん達は、サムソン救出に力を貸して欲しい。

駄目なら、我々だけでも島へ行かせて欲しい。

と、何度も嘆願しましたが、聞き入れて貰えませんでした。

爺さん達は、サムソンを助ける事無く、次の冒険へ出かける事なんて出来ません。

やがて年老いた2人は、サムソンの救出を諦めたのでした…。


「で、話を聞いてたら、爺さんの最後を思い出してね。

『サムソンすまない…。助けに行けない…。』

死の間際…、最後の言葉だ…。

よっぽど心残りだったんだと思う。

だから、俺が巨人の国へ行って、もしサムソンが生きていたら助け出す。

そう決めたんだ。」


と、胸元から小さな、いびきが聞こえてきました。


「ふっ…。 俺の思い出話は、子守唄かよ…。」


カインは、小さく笑うと空を見ました。

豆の木が、渦を巻いて雲に穴を開けています。

穴の向こうから月の光が差し込んできました。


(爺さん…。

明日は、巨人の国だ。

サムソン…、生きていると良いな…。)


カインは、目を閉じると眠りにつきました。


翌朝、カインは、日の出とともに豆の木を登り始めます。

空の大地の厚さは、10m程…。

豆の木が開けた穴は、直径3m程でしたが、登るにつれ豆の木が細くなっていくので、窮屈さは感じません。

豆の木は、空の大地を抜けて5m程伸びたところで、成長が止まっていました。

一番上の葉っぱが、豆と空の大地を橋の様に繋いでいます。

カインは、葉っぱの橋を渡って、空の大地に降り立ちました。


真っ白な綿菓子のような地面と見たこともない大木の森…。

と、直ぐ側の大木の根もとに、奇妙な形の石がありました。

真ん中が大きく窪んだ石…。

水を溜めると小さな池として使えそうな大きさです。

カインは、内ポケットから『ガリバー航海日誌』と記された手帳を取り出し、パラパラとページをめくります。


(この石は?

良い目印だが、爺さんの日誌には書かれていないな…。

書き忘れ…?)


そんな事を思っているとチョップが声をかけてきました。


「ねえ、カイン。 どっちへ行くの?」


目標物が何も無い見渡す限りの大木…。

何処を目指すのか?

チョップは、不安に思ったのです。


「爺さんは、巨人の村からの帰り道、木の本数を数えていたんだ。

サムソンを救出しに来た時、迷わず村へ行けるようにね。

『東へ7本、北へ15本、進んだ先に巨人の村がある。』

そう手帳に書かれている。

だから、まず太陽の方へ7本だ。」


そう言って、駆け出しました。


しばらくして、巨人の村に到着しました。

日が昇って間もないこともあり、出歩いている巨人は居ません…。

巨人の家は、全て丸太小屋で、1軒の大きさは小さな城なみ。

そんな家が、村中央の広場を囲むように10数軒建てられていました。

その中に、ひときわ大きく豪華な造りの丸太小屋があります。


「これから、どうするの?」


緊張した様子で、チョップが聞いてきました。


「あの家へ行ってみようと思う…。」


カインは、豪華な丸太小屋を指差すと大木の影に隠れながら走ります。


カインは村を回りこむ形で、豪華な丸太小屋に着きました。

どこか入る場所は無いかと、玄関前に並べて置かれている鉢植えの陰に隠れながら、周囲を見回します。

鉢植えの花は、ヒマワリの様な黄色い花で、チョコレートのような甘い香りがしました。


じゅるり…。


チョップから涎をすする音が聞こえてきました。

カインは、苦笑を浮かべます。

するとその時、3軒隣の家から巨人の若者が飛び出してきました。

真っ直ぐ、この家に向ってきます。

カインは、急いで入口横の鉢植えの陰に隠れます。


ドンドンドン…。


若者が、小屋の扉を叩きました。


「村長! 村長!」


「なんじゃ、こんな朝早くから…。」


家の中から大きなヒゲを蓄えた、お爺さんの巨人が出てきました。


「村長! 母ちゃんが腹痛で苦しんでるんだ。

先生を貸してくれ!!」


「そりゃあいかんな…。

直ぐ行くから、お前は先に帰ってなさい…。」


若者は自宅へ、村長は家の中へ…。

しばらくして出て来た村長の左手は軽く握られ、何かを持っているようでした。

村長は若者の家へ向いました。

ゆっくりと玄関ドアが閉まります。

カインは鉢植えの陰から飛び出すと、ドアの隙間から村長の家へ入りました。

そして、ドアの横に置いてあった木桶の陰に隠れます。


カインは呼吸を整えると周囲の気配を探ります。

どうやら他に巨人は居ないようです。


「チョップ。

お前は俺の後ろを見張ってくれ。

あと、俺が良いって言うまで会話は禁止だ。

何か異常があったら声に出さず、俺の髪の毛を引っ張って教えてくれ。」


「わかった!!」


チョップは、カインのフードから顔を出すと背後を見張ります。

カインは、木桶の陰から出ると部屋の中を調べます。

どうやらこの部屋は、居間のようです。

巨大なテーブルに椅子が4脚、暖炉…。

部屋の奥に扉が2つ…。


全ての物が大きすぎて、サムソンの痕跡を探すどころではありません。

カインがどうしようか悩んでいると、窓の下に置いてある棚を見つけました。

カインは高い場所から部屋の中を見てみようと、棚に登ります。

大きさは2階建てのビル程、引き出しの取っ手のお陰で思ったより簡単に登れました。


カインは驚きました。

棚の上に普通サイズのベッドや机があったのです。


(ここに、サムソンが居るのか?)


カインは痕跡を探します。

すると布団がまだ暖かいことに気が付きました。


(村長の左手に、サムソンが居たのか!?)


と、カインの髪の毛が強く引っ張られます。

フードの中から玄関横の窓を見ていたチョップが、戻ってくる巨人の姿を確認したのです。

カインは、チョップをフードから胸ポケットに移すと急いでベッドの下に隠れました。


ギィィーー…。

バタン!


ドアが開き、村長と呼ばれた巨人が棚の前に遣って来ました。

巨人は棚の上で左手を開きます。

すると人が出てきました。

ベッドの下からは、足元しか見えません…。

黒いコート? ローブ?

そこから覗く細い足…。


(サムソンにしては、華奢すぎる…。 子供?)


カインは、息を殺して様子をうかがいます。


「朝早く、すまなかったね…。

どうする?

このまま朝御飯にするかい?」


謎の人物に、巨人が優しい言葉をかけます。


「もう少し寝かせてもらうよ…。

ああっ、カーテンは開けたままで良い。」


若い女性の声がしました。

女性はベッドに入ります。


「じゃあ、おやすみ…。」


そう言って、巨人は隣の部屋へ行きました。

しばらくして…。


「さて、ベッドの下に隠れている、お前は何者だい?」


と、女性が小声で話しかけてきました。

驚いたカインが、ベッドの下から出ようとすると…。


「そのままで!

いつ巨人が戻ってくるか、分からないからね…。」


と、制止されました。


カインは、自分が何者か、何故ここに来たのかを話しました。


「サムソン…。

随分と懐かしい名前だね…。

残念だけどサムソンは、20年前に亡くなったよ…。」


と、まるで見ていたような言い方で、女性が話します。


「君は一体…、何者なんだい?」


カインは疑問をぶつけました。


「わしの名は、ウィザリン…。

かつてウエスト王国一と称された、魔法使いじゃ。」


ウィザリンは、過去の出来事を話してくれました。


ウィザリンは、70歳の時、国王から


「砂漠の村の食料不足を解消してくれないか?」


との依頼で魔法の豆を3個作りました。

最初の豆をまいた翌日、雲を突き抜ける大きさの豆の木が育ちます。

村人達は、想像を超える大きさに成長した豆の木に大喜び。


が、しばらくすると豆の木が倒れました。

巨大な豆の木の根っ子を砂の大地が支えきれなかった為です。

村は大きな被害をこうむり、責任を取らされることを恐れたウィザリンは、王都から逃げ出しました。


お尋ね者になったウィザリンは、逃げる為、禁断の魔法を使います。

ある魔法使いが、娘可愛さに作り出した魔法…。

若返りの魔法…。

代償として、その姿を永遠に13歳のまま留める魔法です。


しかし13歳になったことで、ウィザリンが予想出来なかった事態になりました。

若すぎると言う理由で、働き口が見つからないのです。

逃亡資金も尽き、困り果てます。

残された財産は、魔法の豆。

お金に換えようとしても、魔法の豆だと誰も信じてくれません。

そんな時、ジャックと言う若者に出会いました。

ジャックは、町へ牛を売りに行く途中でした。

駄目もとで、豆との交換を申し出ると、ジャックは大喜び。

ウィザリンは、手に入れた牛を売って、お金を得たのでした。


翌日、ジャックの家に巨大な豆の木が生えます。

当然ウィザリンの仕業と考えた王国は、近隣を捜索。

豆を持っていたのが少女だったとジャックが話し、若くなっている事がバレて、ウィザリンは捕まりました。


ウィザリンは、独房島へ送られ、魚貝類、海草だけの食生活が始まります。

三ヶ月で我慢の限界。

ウィザリンは隠し持っていた最後の豆を島にまき、巨大な豆の木が生えました。


ウィザリンが豆を食べながら、どんどん豆の木を登って行くと雲を突き抜けて、空の大地に到着します。

ウィザリンは、ウキウキしながら探検を始めました。

ほどなくして巨人と遭遇、捕まってしまいます。


しばらくの間、ペット扱い。

逃げようと思えば、魔法で何時でも逃げられると考えていたウィザリンは、3食昼寝つきのペット生活を楽しむことにしました。

そんなある日、この家の巨人が頭痛で苦しんでいました。

ウィザリンは、飯を食わせてもらっている恩もあったので、治療を申し出ます。

巨人は半信半疑で治療を受け、ウィザリンの魔法治療により頭痛が治りました。

この日から村で病人が出た時、ウィザリンが治療するようになりました。

ウィザリンは、ペットから先生と呼ばれるまでに出世。

ウィザリンを捕らえた巨人は、その功績から村長になりました。


そんな生活を送っていたある日、木こりの巨人が人間を捕まえたと騒いでいました。

ウィザリンは、会わせて欲しいと村長に頼みますが、反抗的で直ぐ逃げようとする人間なので、駄目だと木こりの巨人は断ります。

どうやら木こりの巨人は、サムソンに病気治療をやらせようとしていたみたいです。

しかし当然出来る筈もなく、役に立たない反抗的なペットとして、数日後、村長に引き渡されました。


サムソンは、木こりの巨人に相当虐められたみたいで、この家に来た時、足を痛めていました。

早くに治療すれば治ったかもしれませんが、手遅れで、とても走れる状態ではありません。

これでは逃げられないと、サムソンに告げます。

サムソンは、


「直ぐに王国から助けが来る。

助けが来たときに足手まといにならないように計画を立てよう!」


と、明るく振舞っていました。


サムソンとの同居生活が始まりました。

サムソンは、机や椅子、ベッドに食器…、色んな物を作ってくれました。

話し相手が出来たウィザリンも楽しい毎日を過す事ができたのです。


2年の月日が流れました。

助けの来ない毎日…、サムソンは段々と口数が少なくなり、何もしないでボーっと過している時間が増えてきました。

そんな生活が、20年以上続いたある日、サムソンは病気になりました。

ウィザリンは魔法治療を施しましたが、助けの来ない歳月は、サムソンから生きる気力を奪っていました。

サムソンは、亡くなる間際…。


「この短剣は、我が家に代々伝わる物だ…。

もし、国へ帰ることが出来たなら息子に渡して欲しい。」


と言ってきました。

ウィザリンが、


「島流しの刑に服しとるから、帰ることは出来ん。」


と伝えると…。

サムソンは、胸元から嘆願書を取り出しました。

ウィザリンの罪を許してくれるよう、王様宛に書いていたのです。

ウィザリンは、もし帰ることが出来たなら必ず届けると約束しました。


しかし帰るあてもなく…。

今日まで、ズルズルと時が過ぎていったのです…。


ウィザリンの話が終わると、会話を止められていたチョップが、我慢出来ずに話し始めます。


「ねえねえ、魔女だったら空を飛べるんじゃないの?

空を飛んで国へ帰れば良いんじゃないの?」


「なんだい! もう一人いたのかい!?」


ウィザリンは驚きました。

カインはクスリと笑い、右手にチョップを乗せるとベッドの外に差し出します。


「こんにちは! 僕、チョップ。

よろしくね。」


ウィザリンは、初めて見る小人に言葉が出ません…。

しばらくして、


「小人族とは、驚いたね。

フェザップ!」


と、魔法を唱えます。

すると、チョップの身体が、ふわりと浮き上がりました。


「うわーい! 僕、空を飛んでる!!」


「自由に空を飛べるんなら、島送りにされたその日に飛んで逃げておるわ…。

残念ながら、軽いものしか飛ばせられないんじゃよ。」


ウィザリンは苦笑いを浮かべます。


その時、隣の部屋のドアが開きました。

チョップは魔法の力で飛んだまま、ベッドの下へ戻されます。

ウィザリンは、たった今起きたかのようにベッドに腰掛けました。


「おおっ、起きたかい。

じゃあ、朝御飯にしようかね。」


巨人は、小さくカットされたパンとチーズ、ハムと野菜が乗った皿を棚の上に置きます。

小さくカットされていると言っても、一つ一つが座布団位の大きさです。

巨人は、小皿に紅茶を注ぎ…、


「じゃあ、ゆっくりお食べ…。」


そう言って、隣の部屋へ戻って行きました。

ウィザリンは、タライ程の小皿からティーカップへ紅茶を注ぐとパンを一欠けら持ってベッドへ腰掛けました。


「おい、お前達!

今の内に飯にしなさい。」


ウィザリンの言葉で、カインとチョップはベッドから這い出ます。

ウィザリンを見たカインは、思わず見とれてしまいます…。

肩まで伸びた金髪が美しい細身の美少女…。

古びたフード付の黒いローブが、まったく似合っていません。


「何をしておる、早く食わんか!」


「いや…、いつ巨人が戻ってくるか分からないから、ベッドの下で食った方が良いのかなって…。」


見とれていたと、バレたくなかったカインは、とっさに言い訳を思いつきます。


「ああ…、30分は大丈夫じゃ。

飯の時は、入ってくるなときつく言っておる。

わしは先生じゃからな。

その程度は、命令出来るのじゃ。

しかし急な来客があるやもしれん。

わしがここから玄関の窓を見とるから、ベッドの下で食う必要は無いぞ。

が…、いつでもベッドの下へ戻る準備はしておけ。」


カインは頷くと朝食が盛られた皿へ行き、チョップを皿の上に置きました。

興奮した様子のチョップは、目の前のハムに噛り付きます。

カインは、ナイフでパン、チーズ、ハムを切り取り、サンドイッチを作りました。

そしてサンドイッチにかぶりつきながら、ウィザリンの隣に腰掛けます。

ウィザリンは、持っていたパンを口にして紅茶をすすると、話し始めます。


「わしとサムソンは、助けが来た時、どう逃げれば良いのか、ずっと考えてきた…。

5年前で有れば、逃げ出す事は可能だったろう…。

はあぁぁ…。」


ウィザリンは、大きく溜め息をつきます。


「ほう言うほほだい?」(どう言う事だい?)


パンを頬張ったカインが尋ねます。

ウィザリンは、苦笑を浮かべ、持っていたティーカップをカインに手渡します。

カインは紅茶でパンを流し込みました。

ウィザリンは話を続けます。


「5年前…、豆の木が巨人達に見つかってしもうた…。

今、豆の木は監視されとるんだよ。

サムソンが亡くなった後、巨人達は、わしが死んだ後の事を考えるようになった。

医者が居ない生活を…。

そんなおり、豆の木が見つかった。

巨人が、豆の木の根もとを見ると小さな穴が開いていて眼下に島が見えた。

小さな人間は、ここから来たんだと巨人達は考えた。

それで夜の間は、大きな石で蓋をして登って来れないようにしたんじゃ。

そうしないと、夜行性の魔獣に襲われて一巻の終りじゃからな。

で、日の出と同時に石退けて、登ってくる者を見張るようになった。

直ぐ捕まえる事が出来るようにな…。」


カインは穴の側に置かれていた石の事を思い出します。


「確かに、それらしい石はあったが…。

昨日の夜は月の光が穴に差し込んでいたぞ。

それに今朝、見張りの巨人なんて居なかった…。」


カインは、小皿からティーカップへ紅茶を注ぎなおすとウィザリンへ返しました。

ウィザリンは紅茶を口にします。


「何年も登ってくる人間が居ないんで、石を置き忘れることも、しょっちゅうじゃ。

それに今朝は、見張り担当の若者が、母親の具合が悪くなったと見張りをさぼった。

見張りも適当になっとるんじゃ。

だから、お前達が無事ここへ来れたのは運が良かった…。

と、言うことじゃ。」


カインは少し考えると、質問しました。


「夜の間に逃げ出して、石を退けるか、豆の木まで穴を掘る事は出来ないのか?」


「夜、豆の木へ行くには、光の魔法で道を照らす必要がある。

すると巨人に見つかるリスクが上がる事もあるのじゃが、一番の問題は、さっき言った夜行性の魔獣じゃ。

魔獣は、光に寄ってくる性質でな。

1,2匹までなら、わしの魔法で何とかなると思うが、それ以上ならアウト…。

仮に石まで辿り着けたとしよう。

石に穴を開けるのは無理かもしれんが、地面を掘る事は可能だろう。

だが、わしが魔法で穴を掘っている間、お前が魔獣を相手にする必要があるが…。」


「魔獣って、どれ位の強さなんだ?」


「日が暮れてから、巨人が一人で森に入ると確実に襲われ、命を落とす。

7~8人の集団だと襲わないが、1人でも集団から離れると、そいつを襲う。

幸いにも村の近くに現れる事は無いのじゃが、豆の木へ行くまでには、必ず襲われじゃろう。」


カインは首を横に振って、魔獣の相手は無理だと言いました。

と、カインは一番肝心な質問を忘れていたことに気付きます。


「ウィザリンは、脱走する気はあるのか?」


ウィザリンは大きく頷きます。


「サムソンとの約束もあるが…。

村長が酔った時に言ったんじゃ。

わしが子供を産めば、跡継ぎが出来て、医者の心配はしなくて良くなると…。

つまり、カイン。

お前が見つかれば、わしは強制的に結婚させられ、お前の子を産む事になっておる。

一蓮托生と言うわけじゃ。

さすがに、この若さで子を産むのは無理じゃと言って、巨人が聞き入れてくれるかどうか…。

が、お前がどうしてもと言うのであれば、考えてやっても良いぞ…。」


と、ウィザリンは頬を染めます。


(この若さって…、百歳超えてるんじゃないんかい!)


と、突っ込みを入れたくなる気持ちを抑え、カインはベッドの下へ逃げます。

カインは腕を組むと目を閉じ、しばらくの間、考え込んでいました。


「なあ、ウィザリン。

豆の木が見つかる前だったら逃げられるって行ってたよな。

その脱走案、教えてもらえるかな…。」


「夜の間に逃げ出して、ほとぼりが冷めるまで、その辺に隠れて巨人が諦めた頃を見計らって豆の木へ行く。

まあ、3日も隠れれば諦めると踏んでたんじゃが…。

豆の木が見つかった今となっては、わしが居なくなると見張りが厳重になる筈じゃし、巨人が豆の木を降りるかもしれん。

そうなると、船が見つかり…、当然逃げられないように壊すだろうし…。

と言うことで、この手は使えんと思うぞ。」


「逃げ出すって言ってもここから降りるのも一苦労だろ?

ましてや、あの玄関の扉を開くことなんて不可能だろう?」


「何で、魔法使いが島流しにされるのか知らんのか?

魔法で壁に穴を開ければ扉なんて関係ないわ。

それに、わしには身体強化の魔法がある。

これは普段の10倍近い力が出せる魔法じゃ。

この魔法を使えば、この棚から降りることなど造作も無い。」


カインはウィザリンからの情報を頭の中で整理して、何とか逃げ出す方法が無いか、必死に考えますが良い手が浮びません。

カインは質問を続けます。


「ウィザリンは、この辺りの地理をどの程度知ってるんだい?」


「この村を中心に巨人の足で1時間の範囲かの…。

気晴らしで、たまに散歩に連れて行って貰っておるんじゃ。

まあ、わしは巨人の肩に乗って景色を見てるだけじゃが…。

で、巨人から聞いた話では、街までは2時間、山までは半日、雲の産道までは1日…。」


「ちょっと待て!?

雲の産道って?」


「世界中の雲は、この空の大地から作られておる。

雲の産道と言うのは、氷河から氷山が生まれるが如く。

空の大地から雲が生まれる場所じゃ。」


「じゃあ、そこへ行って雲に乗れば巨人の国から逃げ出すことが出来るんじゃないのか?」


「氷山が、いずれ溶けて消えるように、雲もいずれは消える。

すると乗っているわしらは真っ逆さまに落ちてしまう…。

いや!?

それなりに大きな雲であれば、1週間程度は消えぬか…。

ならば雲より高い山まで行くことが可能…?」


ウィザリンが腕組みして考えはじめました。

カインが声を上げます。


「よし! 今晩逃げよう!!

どう考えても、確実に逃げられる方法はなさそうだ。

だったら考えても無駄!!

運に任せてみよう。」


カインの言葉にウィザリンも決心します。


「ふっ、良いな…。

そう言うの嫌いではないぞ。」


3人は脱走の計画を話し合うのでした…。


その夜…。


「それじゃ、おやすみ。

また明日…。」


村長が棚の上のカーテンを閉め、自室に入りました。

行動開始です。

カインがベッドの下から這い出てきました。

手にはシーツを切って作った大きな袋を持っています。

中には、朝・昼・夜のご飯から、ちょろまかした食料。

カイン達にとっては1週間分の食料ですが、出される1食分の量が多いので、巨人は気付きませんでした。

カインがウィザリンに目で合図すると、ウィザリンは、右手を窓に当て魔法を唱えます。


「ゲンガゴン!」


ボコ!


窓に人が通れる大きさの穴が開きました。

ウィザリンは、カインが持っていたロープの一方を穴から外に出します。

ロープの先端は丸く結ばれていて、その下にチョップがしがみついています。

ウィザリンは、再び魔法を唱えます。


「フェザップ!」


ロープはスルスルと上に伸びていきました。

しばらくして、


「ヒーヒーヒー…。」


と、チョップが変なフクロウの鳴きマネをしました。

ウィザリンは魔法を解除。

カインに目をやると、カインはシーツを細く切りロープのような物を作っていました。

しかしどう見ても人を支える強度はありません。

その完成したロープの一方をベッドの足に括り付けると、もう一方を窓の穴から外に出します。

その作業が終わると、丈夫な方のロープの一方に、食料が入った袋を結び付けました。

カインはウィザリンをおんぶすると、丈夫な方のロープを掴みます。


「シャザック!」


ウィザリンが魔法を唱えました。

カインの身体が金色の光に包まれます。

カインは、窓の穴から外に出るとロープをスルスルと昇って行きました。

しばらくして、ロープが引き上げられ、食料が入った袋も窓の穴から外に出ました。


翌朝、巨人の村は大騒ぎです。


「ウィザリンが、逃げたぞー!」


村長の声で、村人達が駆けつけました。


「どう言う事だ!?

窓を閉め忘れたのか?」


村長は首を横に振ります。


「見てくれ、窓に穴が開いてて、紐が外に出てる。

この紐を伝って外へ逃げたんだ!

誰か夜、魔獣の声を聞いたか?」


村人達は、首を横に振ります。


「よし!

豆の木の蓋は、どうなってる!!」


「大丈夫! 昨日は忘れずに蓋をした!!」


「よし!

じゃあ今日の見張りは、豆の木へ急いでくれ!!

わしらも捜しながら豆の木へ行く。」


そう言って巨人達は家を出て行きました。


その頃、カイン達は村長宅の屋根の上に居ました。


「どうやら上手く行ったみたいだね。」


ウィザリンを捜す村長達を見下ろしながらカインは呟きます。

昨夜、ウィザリンの浮遊魔法でチョップが屋根の上に登り、ロープを釘に引っ掛けました。

そして身体強化されたカインが、屋根の上までウィザリンと食料を運んだのです。


巨人達は、おとりのロープに引っかかりました。

これで屋根の上へ逃げているとは思いません。

カイン達の脱走は、とり合えず成功したと言えるでしょう。


今、ウィザリンは“フェザップ”と“カリック”を使いチョップを偵察に飛ばしています。

フェザップは浮遊魔法で、カリックは他者の力を借りる魔法。

視覚、聴覚、嗅覚…と、任意の身体機能を借りることが出来、今回は、チョップの視覚を借りています。

借りている間、ウィザリンはチョップの視覚になっている為、自身の視覚が使えません。

しばらくして、ウィザリンがチョップの視覚情報を話し始めます。


「ちょうど今、豆の木に見張りがついた。

んっ!?

どうやら、蓋を開けて穴を確認しとるようだ。

おおっ、村長達もやって来おった。

何やら話し合っておるが、この距離だと声は聞こえんじゃろうな。

ふむ…、一度チョップを戻すか…。」


少しして、豆の木の方から白い物体が飛んできました。

飛んできたのはテルテル坊主。

テルテル坊主は、カインとウィザリンの目の前に着地しました。


「ふーーっ…。」


ウィザリンが、一息つきます。


「チョップ、村長達の声は聞こえたか?」


カインの問いに、テルテル坊主が首を横に振ります。

テルテル坊主は、シーツの切れ端を被ったチョップでした。

もし見られても小人だとバレないよう、白いハトに変装していたのです。

とてもハトには見えませんが…。


「さて、あとは村長達が、どうするかじゃな。

諦めるか…、豆の木を降りるか…。

まあ、気長に待とうか…。」


そう言ってウィザリンは、屋根の上で横になります。

カインもウィザリンにならって横になります。

チョップは少し考えるとテルテル坊主のまま、カインの胸ポケットに入りました。


「じゃあ、次の偵察まで、おやすみ…。」


カインは、チョップの頭を撫でると、目を閉じ身体を休めるのでした…。


くんくん…。

焦げ臭い匂いで、カインは目を覚まします。

周囲を見回すと、ウィザリンが豆の木の方を睨んでいました。


「何かあったのか!?」


カインは飛び起きると、ウィザリンの隣に駆け寄ります。

ウィザリンが見つめる先を見ると、黒い煙が立ち昇っていました。


「どうやら、豆の木に火を点けたようじゃな…。」


「何で、そんな事を…?」


「サムソンが、病気治療出来んかった事が関係しとるか…。

40年以上、穴から人間が出てこない。

穴から出てきても治療できる人間とは限らない。

だったら、治療が出来る、わしを絶対に逃がさないと言う訳じゃな。

火を点けたのは、もう逃げられないぞと、わしに知らせる為じゃろう。」


「見つかるまで、蓋をすれば良いんじゃないのか?」


「わしが窓に穴を開けたじゃろう…。

あれで、蓋を置いても穴を開ける事が出来ると思ったんじゃな。

これで巨人達も豆の木の見張りを止めて、村と森の中を捜すじゃろう。

逃げるなら、巨人が豆の木に集まっている今じゃ。」


と、ウィザリンが立ち上がります。

打ち合わせをしていたのでしょう。

カインは食料が入った袋を背中に括り付けると、ウィザリンを両手で抱きかかえました。

チョップはテルテル坊主の格好のまま、ウィザリンのフードに入ります。


「本当に大丈夫なのか…?」


カインが不安げに尋ねます。


「心配性な奴じゃの。

失敗すれば、わしもただではすまん。

だから絶対に大丈夫じゃ!

では、行くぞ…。

シャザック!」


ウィザリンが身体強化魔法を唱えました。

カインの身体が金色の光に包まれます。

カインは屋根を駆け下りると、地面に向ってジャンプします。


「ポワッフ!」


ウィザリンが地面に向って魔法を唱えます。

カインが着地…。


ボヨーン…。


地面はトランポリンのように柔らかくカインの身体を弾きました。


ボヨーン…、ボヨーン…。


「次! 地面を元に戻す!!

足から着地するんじゃ。」


カインはウィザリンの指示通り、体勢を整えると足から着地しました。


「よし! 走れ!!」


ウィザリンが叫びます。

カインは猛烈なスピードで、巨人の村を後にしました…。


巨人達の捜索は、村と豆の木を中心に行われていると思われ、追っ手がかかる事は有りませんでした。

3人は休憩を取りながら雲の産道を目指します。

と言うのも、身体強化魔法は10分程度しか持たず、5回も使うとウィザリンがバテてしまうのです。

だから魔法はカインにだけ使い、ウィザリンは、なるべく体力を使わないようにしていました。

それでも限界はやってきます…。


「カイン…。

今日は、ここまでにしよう…。

もう、魔力が尽きる…。」


日が暮れるまでは、まだ時間がありますが、カインはウィザリンを抱きかかえたまま、今夜の寝床を探します。


「ウィザリン…、魔獣が居るって言ってたけど。

寝床は、どこにすれば良いんだ?」


「木の上じゃな…。

巨人の家の屋根程の高さがあれば大丈夫じゃ…。

適当な枝を見つけてくれ…。」


しばらく歩くと持っているロープがギリギリ届きそうな木の枝を見つけました。


「ウィザリン、この木で良いかな?」


ウィザリンは、枝を見上げると頷きます。


「よし、では少し早いが食事を済ませてから木に登るとするか…。

もちろん、カインがな。」


カインは抱えていたウィザリンを下ろすと、苦笑いを浮かべます。


食事が終わり、少し元気を取り戻したウィザリンが魔法を唱えます。


「フェザップ!」


昨夜と同じに先端が丸く結ばれ、チョップがしがみついているロープが、スルスルと枝に向って伸びていきます。


「ヒーヒーヒー…。」


と、枝に到着したチョップが、変なフクロウの鳴きマネをしました。


「チョップ!

ここは巨人の村じゃないから普通に話して良いんだぞ!!」


カインは笑います。

しばらくして、チョップの声がしました。


「ロープを枝に引っ掛けたから引っ張ってみて!!」


カインがロープに体重をかけます。

どうやら大丈夫なようです。

カインは昨夜と同じに、食料が入った袋をロープに結び付けました。

そしてウィザリンをおんぶすると、ロープを掴みます。


「シャザック!」


ウィザリンが魔法を唱えました。

金色の光に包まれたカインは、スルスルとロープを昇って行き、しばらくして食料が入った袋が引き上げられました。


木に登ったウィザリンは、よっぽど疲れたのでしょう。

横になるとそのまま寝てしまいました。

カインはウィザリンの身体をロープで固定して、木から落ちないようにします。

カインもロープで身体を固定、横になります。

チョップはテルテル坊主の衣装を脱いでいました。

枝にロープをかける作業には不向きだったようです。

チョップは、カインの胸ポケットに入ります。

2人は目を閉じると眠りにつきました…。


ぐぎゃおぉぉーー…。

ぎゃお、ぎゃおぉーー…。


月明かりの中、3人は獣の声で飛び起きます。

木の下を見ると大型の獣が10数頭確認できました。

魔獣と呼ばれるその獣は、ガリガリに痩せた真っ黒な体に、鋭い爪と大きな口をしています。


「困ったな…、これでは眠れん。」


眠そうな様子のウィザリンが呟きます。


「どうしてここに集まっているんだ!?

ここが、奴らの巣なのか?」


カインの問いにウィザリンは首を横に振ります。


「多分、わしらの気配を感じておるのじゃろう…。

縄張りに入り込んだ生き物を威嚇しておるんじゃ。

そんな習性は、教えて貰っとらんかった…。」


「どうすれば良い?」


「何も出来ん。

ただ、このままでは眠れんので魔法で眠ることになるが…。」


ウィザリンは考えます。


「何か問題でも?」


「細かな時間調節が出来ないんじゃ。

寝ないと魔力が回復しないのに寝すぎない魔法を使わないといけない…。

日が昇って直ぐ行動しないと、まずいのにな…。」


「どう言うことだい?」


「巨人は、この魔獣の習性を知っておるのじゃろう。

だから豆の木を燃やした。

逃げ道を無くして、魔獣に探させる為にな。

もし魔獣が騒がなければ、わしが村の中に隠れている。

騒げば森の中に隠れているが、村の側に居る筈だから、直ぐ助けに行けると考えた。

だが村から離れたこの場所…。

今、巨人達は慌てておるじゃろうな。」


「巨人が集団で遣って来る事は無いのか?」


「無い事は、無いが…。

現実的に考えて、わしがこんなに離れた場所に居る筈が無いと思っとるじゃろう。

何か他の生き物ではないか?とな。

そんな状況で、命がけの捜索は、せんじゃろう。

村の中の捜索も終わっとらん筈じゃからな。

人手は割けん筈じゃ。」


カインは安心した様子で胸を叩きます。


「分かった!

ウィザリンは魔法で寝て魔力を回復してくれ。

朝、俺が起こす。」


「寝ないつもりか?」


「大丈夫!

少し寝たから朝までは起きていられるよ。」


「そう言う訳にはいかん。

身体強化魔法は、疲労を回復するものではないからな…。

見たところお前も相当疲れが溜まっとる。

よし! お前もに弱い眠りの魔法をかけよう。

4~6時間眠る魔法で、夜明け前には目が覚めるはずじゃ。」


カインは頷きます。


「わしは魔力回復の為、深い睡眠魔法を自らにかける。

8~12時間眠る魔法で、寝過ごした場合、起こしてもらう必要がある。」


「分かった!

日の出の時刻に、俺がウィザリンを起こすよ。」


「僕は!」


チョップが声を上げます。


「カインと一緒で弱い眠りの魔法じゃ。

もしカインが二度寝するようなことがあれば、お前が起こしてやってくれ。」


「うん!」


チョップは頷きます。


「では魔法をかけるぞ…。

あっ!

言い忘れていたが、眠りの魔法を解く方法は、王子様のキスじゃから忘れんようにな。」


「えっ!?」


驚いたカインが目を開いた瞬間。


「スイムト!」


ウィザリンの魔法により、カインとチョップはスヤスヤと寝息を立て始めました。


「さて、わしも寝るとするか…。

ギガスイムト!」


ウィザリンは、スヤスヤと寝息を立て始めます。

木の下では、魔獣が今まで以上に騒ぎ立てているのでした…。


翌朝…。


「ウィザリン、おはようー!」


ウィザリンは、チョップのキスで目を覚ましました。

頬に痛みを感じます。

キスを嫌がったカインが、叩いたり、つねったりしたようです。

ウィザリンは、カインを睨みます。


「すまないウィザリン!

キスなんて、また俺をからかっているんだと思って…。」


カインは平謝りです。


「まあ、良い…。

で、チョップにキスさせたのは、お前の指示によるものか…?」


ドスの利いた低い声で、ウィザリンが尋ねます。


「そんな事より、早く出発しよう!!」


そう言って、カインはウィザリンを抱きかかえます。

食料が入った袋は、既に背中に背負っていました。

チョップがウィザリンのフードに入ります。


「はぁー…。」


ウィザリンは溜め息をつくと、気持ちを切りかえます。


「シャザック!」


カインの身体が金色の光に包まれました。

カインは、枝からジャンプ。

昨日と同じに“ポワッフ”を使い着地すると、雲の産道を目指して駆け出すのでした…。


「この辺りの筈だ!!」


1時間後、巨人達が遣って来ました。


「こんなに遠くまで…。

ウィザリンは、そんなに足が速いのか?

いや、本当にウィザリンは、ここに居たのか?」


巨人達は、半信半疑で辺りを捜索しますが、何の痕跡も見つかりません…。


「どうやら逃げられたようだな…。

村長…。 いや、元村長。

今から、あんたはウィザリンを捕まえる前の仕事に戻ってもらおう。

大工にな…。

腕は鈍っていると思うが、村の為にしっかり働いてもらうぞ!

さあ、みんな帰ろうぜ!!」


巨人達は、村長を置いて村へ帰って行きました。

村長は、呆然と立ち尽くしています…。


村長は考えていました。


(豆の木が無くなって、巨人の国からは逃げられない…。

ウィザリンは一体何処へ行こうとしてるのか…。

ハッ!?

雲の産道か!!)


村長は向っている方向から、昔ウィザリンに話したことがある、“雲の産道”を目指していることに気付きます。


(このまま真っ直ぐ追いかけて、姿を見られたら…。

ウィザリンは身を隠すだろう。

そうすると見つける事は難しい。

1日で、これだけの距離逃げたことを考えると、雲の産道への到着は、明日の夕方と言ったところか…。

回り道しても先回りは出来そうだ。

よし!

今日は森の炭焼き小屋に泊まって、明日待ち伏せしよう。)


村長は、炭焼き小屋へ向って駆け出しました。


(ウィザリン! 絶対に逃がさない!!

わしは、村長の座を手放さない!!)


その頃3人は、昨日と同じに休憩を取りながら雲の産道を目指していました。

早い時間に出発したこともあり、昨日より距離を稼いでいましたが、無限に魔力があるわけではありません。

ウィザリンの限界がやってきます…。


「カイン…。

少し早いが、ここまでにしよう…。

昨日と同じような木を見つけてくれ…。」


疲れた様子のウィザリンが指示します。

カインとチョップは、上を見ながら歩きます。

しばらく歩くと良さそうな木の枝を見つけました。

カインは、ウィザリンを下ろします。

そして食事を済ませると、昨日と同じ方法で木に登ったのでした。


「さて、少し早すぎる気もするが寝るとするか…。

また魔獣が来るだろうから、最初から魔法で眠るぞ。」


ウィザリンの言葉に、カインは観念した様子で答えます。


「明日は、俺が…、キスして起こすから…。

ウィザリンは、ゆっくり眠ってくれ…。」


言い終えたカインの顔は真っ赤です。


「んっ!?

今から深い睡眠魔法で寝ると、起きるのは夜明け前になる筈じゃ…。

だからキスで起こしてもらう必要はないのじゃが…。

そんなにキスがしたいのであれば、良いぞキスしても…。」


ウィザリンは頬を染めます。

からかわれたと感じたカインは、恥ずかしさから顔を背け、ぶっきらぼうに言います。


「じゃあ、ウィザリン。

魔法よろしく。」


チョップが慌ててカインの胸ポケットに入りました。

そんな様子を楽しげに眺めながら、ウィザリンも2人にならって横になります。


「では、おやすみじゃ。

ギガスイムト!」


3人は、スヤスヤと寝息を立て始めます。

この夜も魔獣は遣って来ましたが、3人は目覚めることなく、夜明けを迎えることが出来たのでした。


翌朝…。


「カイン、おはようー!」


カインはチョップのキスで目を覚ましました。

ほっといても、じきに起きた筈なのに…。

頬に痛みを感じます。

ウィザリンが、叩いたり、つねったりしたようです。

完全なる仕返しです。

カインはウィザリンを睨みます。


「なんじゃ、わしのキスで起こされたかったのか?」


ウィザリンは気にした様子も無く、遠くの景色を眺めています。

カインは気持ちを切り替え、ウィザリンに尋ねました。


「何を見てるんだい?」


ウィザリンは視線の先を指差します。


「山が見えるじゃろう。

あの山から溶岩のように雲が流れておるのが見えるか?

あの雲の流れ着く先が、雲の産道じゃ。

産道まで来た雲が切れて、プカプカ浮ぶ雲になると言う訳じゃ。

ここまでくれば、今日中に雲の産道へ行けるじゃろう…。

ふむ…。」


ウィザリンは何やら考え込みます。


「どうしたんだ?」


気になったカインが尋ねました。


「今の季節だと、雲は北西に流れる。

ここから北西だと、エルプスト山が雲より高い山になるのじゃが…。

風が弱ければ、4日以上かかるかもしれん。」


「何か問題があるのか?」


「食料が足らなくなる恐れがあるんじゃ。

この辺りで何か食べるものを見つけないとな…。」


ウィザリンの落ち着いた様子に、カインは苛立ちを覚えます。


「食料も大事だけど、ここから早く離れよう!

巨人達が捜索に来るかもしれないだろ?」


ウィザリンは笑顔で首を横に振りました。


「おまえが起きる前にチョップを村へ飛ばした。

もちろんカリックで視覚を借りてだがな。

見た感じ、普段の村の朝で、巨人が捜索に出る様子はなかった。

つまり、巨人は諦めたと言うことじゃ。

さて、これで急ぐ必要はなくなった。

これからは魔力の消費を抑え、雲の産道へ向う事とする。」


「どう言う事だい?」


カインは首を傾げます。


「チョップを飛ばして、食料を探しながら先へ進む。

で、食料を見つけ次第、その場所まで強化魔法で急ぐ。

ようは、見つかるまでは、強化魔法を使わんと言う事じゃ。」


「チョップを飛ばすって事は、カリックで視覚を借りるって事だよな。

と言う事は、俺がウィザリンを抱える…。

いや!

強化魔法を使ってくれないと無理だよ!!」


「なんじゃ、男の癖にだらし無い。

仕方が無いのう、わしの魔法に“ザック”と言う弱い身体強化魔法がある。

普段の2倍近い力が、30分出せる魔法じゃ。

身体が光らんので、凄いぞ感は無いのじゃが…。

これを使ってやろう。」


「2倍だと、ウィザリンを抱えて、ここから飛び降りるのは無理じゃないか?」


カインは不安を口にします。


「いちいち文句の多い奴じゃな。

まあ、それもそうか…。

仕方が無い、1度だけ“シャザック”を使ってやろう。

ほれ、出発するぞ、準備せい。」


カインは食料が入った袋を背中に背負うと、ウィザリンを抱きかかえます。

チョップがウィザリンのフードに入りました。


「シャザック!」


カインの身体が金色の光に包まれました。

カインは枝からジャンプ。

昨日と同じに着地すると、雲の産道を目指します。


「チョップ、出てきてくれ!」


ウィザリンがチョップに指示しました。

チョップがモソモソと、ウィザリンの胸元に現れます。


「では、視覚を借りるぞ。」


ウィザリンの言葉にチョップは頷きました。

ウィザリンはチョップを両手で抱えると、額と額をくっ付けます。


「カリック!」


ウィザリンはチョップを胸元に下ろし、続けて魔法を唱えます。


「フェザップ!」


チョップはフワリと宙に舞い上がると、物凄いスピードで飛んで行きました。


食料探しは難航していました。

1時間程、辺りを調べたのですが、食料が全く見つからないのです。

ウィザリンは雲の産道の方へ、捜索範囲を広げました。

雲の産道の側に食料があるのが、一番良いと考えたのです。

そんな中、カインが音を上げます。


「ウィザリン…。

もう腕が疲れて抱えていられないよ…。」


“シャザック”の後、ウィザリンは魔力消費を抑える為、カインに“ザック”を使っていました。

しかし“ザック”は、2倍の強化魔法。

10倍の“シャザック”と比べると、どうしてもカインの負担が大きくなるのです。


「なんじゃ、男の癖にだらし無い!

そんな事では…。」


ウィザリンが言葉を失います。


(??)


心配に思ったカインが、声をかけようとしたその時…。


「何じゃと!?」


突然、ウィザリンが大きな声を上げました。

カインは驚きます。


「急に何!? 何があったの?」


ウィザリンは険しい顔で答えます。


「この先に村長が居る…。

どうやら先回りされたみたいじゃな…。

うーん…、これは困った…。」


カインは足を止めます。


「どうする? いったん隠れるか?」


カインの言葉にウィザリンは首を横に振ります。


「村長がいつまで居るのか分からんし、食料不足の事もある…。

夜になると魔獣が出てくるから、こっちの居場所がバレる。

すると村長は、捜索を止めんじゃろう。」


「じゃあ、どうする?」


「村長は、わしらが真っ直ぐ雲の産道に向うと思っとる。

だったら迂回して村長の隙を伺う。

夕方になると魔獣を恐れて、村長も自分の隠れ家に向う筈じゃ。

村長が居なくなって、魔獣が出てくるまでの間に脱出する。」


「分かった。」


カインは頷きます。


「よし! では少し急ぐとするか…。

シャザック!!」


カインはウィザリンの指示に従い、大きく迂回して雲の産道を目指します。


夕方になりました。

雲が切れて流れていく間隔は、今までのところ、早くて5分、遅くて15分と言ったところでしょうか…。

タイミング良く大きな雲の塊に乗るチャンスは、時間的にそうありません。

村長は雲の産道の横に立つ大木の陰に、身を潜めています。

カインと雲の産道の丁度、真ん中辺り…。

雲に乗ろうとすると、どう足掻いても見つかってしまいます。


「そろそろ村長も引き上げると思うんじゃが…。

これ以上、粘られると不味いな…。」


ウィザリンが爪を噛みます。

諦めて一旦木の上に逃げるにしても、適当な枝の木が近くに無いのです。

雲の産道から相当な距離、離れることになるのです。

チョップはカイン達のところに戻って来ています。

そろそろ決断しないと魔獣が現れる時刻…。

ウィザリンが諦めようと考えたその時、ウィザリンのフードから顔を出したチョップが、何やら耳打ちしました。

話を聞いたウィザリンは、しばらく悩んでいましたが…。


「良い覚悟じゃ!

そう言うの嫌いではないぞ。」


ウィザリンはチョップを右手に乗せ、顔の前に持ってくると額と額をくっ付けました。


「カリック!」


ウィザリンは続けて魔法を唱えます。


「フェザップ!」


チョップはフワリと宙に舞い上がると、物凄いスピードで飛んで行きます。

カインは呆気にとられます。


「何をしておる!

とっとと、わしを抱きかかえんか!!」


カインはウィザリンの指示に従います。


「ウィザリン、チョップを何処に飛ばしたんだ?」


「良いところじゃ!

次、雲が切れたら突っ込むぞ!!」


と、雲の川に亀裂が入りました。


「ウィザリン! 雲が切れそうだ!!」


カインの言葉で、ウィザリンは魔法を唱えます。


「シャザック!」


金色の光に包まれたカインは猛然と走り出します。

ちょうどその時、諦めて引き上げようとした村長が木の影から出てきました。

カインと目が合います。


「きさまが、ウィザリンをさらったのか!!」


怒り狂った村長が、カインに向って来ました。

このままでは、間違いなく捕まります。


「気にせず、突っ込め!!」


カインはウィザリンを信じ、雲の産道へと走ります。


(捕まる!?)


カインがそう思った瞬間!


「うああぁぁっーーー!!」


突然、村長が頭を抱え苦しみ始めました。

カインは村長をかわして雲の産道へ行き着きます。

しばらくして雲が切れ、ゆっくりと北西へ流れ始めました。

村長は今だ苦しんでいます。


「やめろ! やめてくれぇ!!」


ウィザリンからカインへ指示が飛びます。


「カイン!

雲が安全な場所まで流れたら教えてくれ!!」


「分かった!」


カインはウィザリンが魔法で村長を苦しめているのだと思い、指示に従います。

少しして、カインが声を上げました。


「ウィザリン、もう大丈夫!

村長が何も出来ない距離まで離れたよ。」


「そうか!」


ウィザリンは笑顔を見せます。

数秒後、チョップが戻ってきました。


「チョップ! どこへ行ってたんだ?」


「村長の耳の中だよ。

大声を出して、懲らしめてたんだ!」


チョップが嬉しそうに話します。

カインは開いた口がふさがりません。

ウィザリンは笑います。


「さて、何とか脱出は出来たが、予定より時間を食った…。

食料も足りない…。

雲も小さい…。

問題は多いが、ひとまずお疲れ様でしたじゃな。」


そう言ってウィザリンは、大の字に寝転がります。

カインもウィザリンにならって寝転がり、安堵の声を上げるのでした…。


翌朝、目覚めると雲は半分の大きさになっていました。


「はあ…。

これでは、エルプスト山までは行けぬな…。」


ウィザリンが溜め息をつきます。


「陸地には行けるだろ?

だったら“ポワッフ”で、地面を柔らかくして降りれば良いんじゃないのか?」


「“ポワッフ”の有効射程は20mじゃ。

飛び降りて、地面まで20mになったところで魔法をかける…。

出来ると思うか?」


カインは首を横に振ります。


「それに思ったより西に流されておる。

魔法で進路を修正してもエルプスト山までは行けない。

加速をかけても、この先に高い山は無い。

困ったのう…。」


「“ポワッフ”以外で、使えそうな魔法は無いのか?」


「“フェザップ”の強化版で、“フェザーネ”と言うのがある。

これを使えば、1~2秒の間、空を飛ぶことが出来る。」


「そんなのがあるんなら、早く言ってくれよ。

“フェザーネ”で、一度ブレーキをかけてから、“ポワッフ”を使えば無事に降りられるんじゃないか?」


カインが安堵した様子で尋ねます。


「“フェザーネ”を使うと“ポワッフ”は使えん。

“フェザーネ”は、全魔力を消費する為、使用後、わしは気絶するのじゃ。

だから飛び降りて、ケガしない高さになったところで、魔法をかけることになる…。

カイン、ロープを貸してくれんか?」


カインはロープをウィザリンに渡します。

ウィザリンはナイフを取り出すと、ロープを短く切り始めました。


「何してるんだい?」


「昨日、今日の様子から見て、明日には雲が消えるじゃろう。

一か八かで魔法を使うしかないと思う。

だったら気絶した場合の対策をしとこうと思ってな…。

おんぶ紐を編んでおるんじゃ…。

“ポワッフ”を使うにしても、この高さからだと反動は今までの比ではない。

弾き飛ばされんようにせんとな。

カイン、お前はチョップが飛ばされん工夫を考えてやれ。」


カインは少し考えると、食料を入れてきた袋を切り取り、小さな巾着袋を作りました

そして自身の首から銀のネックレスを抜き取り、巾着袋を取り付けます。

再びネックレスをつけるとチョップを右手に乗せました。


「チョップ、入ってみてくれ。」


チョップが巾着袋に入ります。

カインは巾着袋の紐を締めました。


「どうだ、苦しくないか?」


「苦しくないけど、外が見えるようにしてよ。」


カインはチョップの要望に応え、巾着袋に覗き穴を開けます。


「これで良いかい?」


「うん!」


覗き穴から顔を出したチョップは、何だか嬉しそうです。

そうこうしていると、ウィザリンのおんぶ紐が完成しました。


「カイン! ちょっと試してもらえるか?」


カインは、ウィザリンをおんぶ。

おんぶ紐で、身体を結び付けます。


「よし! 大丈夫そうじゃの!!

あとは、明日、運を天に任せるだけじゃ。」


ウィザリンの言葉に、カインとチョップは頷きました。


翌朝、カインが目覚めると雲はますます小さく、薄くなっていました。

雲の隙間から海が見えます。


「落ちんように気をつけろよ。」


カインに気付いたウィザリンが注意します。


「おはようウィザリン。 早起きだね。」


「なんじゃ、わしが年寄りだから早起きだと言いたいのか?」


ウィザリンはムッとした顔を見せます。

面倒くさい年寄りだなと内心思いながら尋ねます。


「今、どの辺りを飛んでるんだい?」


「あと1時間もすれば、わしの生まれ故郷のウエスト王国が見える筈じゃ。」


ウィザリンは43年ぶりの故郷を懐かしく思い、早起きしたようです。


「おはよー…。」


カインが起きたことで、胸ポケットで寝ていたチョップも目を覚まします。


「みんな起きたか…。

では、飯を食いながら作戦を話そう…。」


3人は朝食をとります。


「チョップ、お前だけは無事に降ろす事が出来る。

だから下で待っててくれて良いんだぞ?」


ウィザリンの言葉にチョップが反発します。


「僕だけなんて嫌だよ!

3人で降りようよ!

巨人の国からも無事に逃げられたじゃないか!

だから大丈夫だよ!!」


チョップの言葉に、カインとウィザリンは目を合わせ頷きます。


「分かった、3人一緒に降りよう。

使う魔法は、“シャザック”と“フェザーネ”じゃ。

“フェザーネ”で、ギリギリまで高度を調整する。

それでも高すぎた時は、カインに負担がかかるが…。

頼むぞ!!」


カインは頷きます。


「ねえねえ、落ちている間、ずっと“ポワッフ”って言ってれば、良いんじゃないの?」


良いアイディアを思いついた!と言う顔で、チョップが発言しました。

ウィザリンは笑顔で答えます。


「魔法と言うのは、言葉で発動している訳ではない。

もしそうなら、さっきの話の中で何回魔法が発動したと思う。」


「あっ!? そうか!!」


チョップは頭に手をやります。


「魔法は心の中の辞書を開いて、書かれている魔法陣に魔力を込める事で発動するんじゃ。

例えば今、“シャザック”を唱えると、辞書の“シャザック”のページが開かれる。

そして魔法陣に魔力を込めると、魔法が発動して魔法陣は消える。

この魔法陣は一定時間後、同じページに再び書き込まれるんじゃが、消えている間、その魔法は使えん。

“シャザック”だと、その時間が約5分。

この時間は使用する魔法によって、まちまちで…。

要するに簡単な図形は直ぐ書けるが、難しい図形は時間がかかると言う事じゃ。

さて、そろそろウエスト王国が見えてくる。

話は、ここまでにしよう。」


3人は雲の隙間から下を見ます。

すると港が見えて来ました。

ウエスト王国です。

ウィザリンは何だか嬉しそうです。

と、ウィザリンの表情が変わりました。


「どう言うことじゃ。

これでは、降りることができん!!」


ウィザリンの時代、港の向こうに広大な草原が広がっていたのですが、今は大きな街に変わっています。

予定していた降下地点が使えません。

ウィザリンは顔を上げると眼下の街を見渡しました。


「んっ!? まさか!!」


驚いた様子のウィザリン。

満面の笑みを浮かべると、魔法を唱えます。


「フェザップ!」


使う予定の無い魔法が唱えられ、カインとチョップは驚きました。

チョップは自分が浮き上がるものと思いましたが、何の変化もありません。


「ウィザリン…、今の魔法は…?」


と、3人が乗っている雲が方向を変えスピードを上げました。

ウィザリンは雲に魔法をかけたのです。


「カイン!

この大きさの雲を動かすには大量の魔力を必要とする。

準備を急げ!!」


カインは慌ててチョップを巾着袋に入れました。

そしてウィザリンをおんぶすると、おんぶ紐で身体を結び付けます。

カインが雲の進行方向を見ると、棒のような物が、空に向って伸びていました。

とんでもない長さです。


「ウィザリン、あれは…?」


「わしがジャックに渡した豆の木じゃ。

下は街で飛び降りる事は出来ん!

だったらあれに乗り移るまで!」


豆の木は、どんどん近付いて来ます。

雲は、どんどん小さくなります。


「ウィザリン! 雲が消えそうだ!!」


足元を見たカインが叫びます。


「風に流されんように雲を操っておるからな。

横風に相当持っていかれとる。

届くかどうか…、ギリギリじゃな…。

このまま勢いをつけて突っ込む。

カイン、行くぞ!

シャザック!!」


ウィザリンが身体強化魔法を唱えました。

カインは、今にも消えそうな雲から豆の木へ向ってジャンプします。


(くそー!! 届かないか…。)


カインの手が、豆の木の葉をかすめました。

その時…、


「フェザーネ!!」


ウィザリンがフェザップの上位魔法を唱えました。

瞬間、カインの身体が豆の木の方へ飛んで行きます。

カインは豆の木にしがみ付く事が出来ました。


「ウィザリン! やったよ!!」


と、肩越しに見ると、ウィザリンは気絶していました。


「ありがとう…。 ウィザリン…。」


カインは大きな葉っぱの上まで行くと、おんぶ紐を外し、横になります。

チョップが巾着袋から出てきました。


「カイン! そこに豆の実があるよ!!

食べようよ!!」


チョップは涎を垂らしています。

カインは、やれやれと言った笑顔を見せると、チョップの為に豆を採るのでした。


しばらく休んでいると、ウィザリンが目を覚ましました。

カインは豆の実を切り分けると、ウィザリンに手渡します。


「ウィザリン、お疲れ様。

これ食って、元気だして。」


「どうやら無事に降りれたようじゃな…。」


ウィザリンは疲れた様子で豆の実を受け取ると、かぶりつきます。


「どうする?

もう少し休むかい?

それとも今日中に降りる…?」


ウィザリンは葉っぱの縁から下を覗きます。

すると豆の木が、大きな邸宅の庭に生えている事が確認出来ました。


「今から降りると夜になる…。

泥棒と間違えられんか?

せっかく戻って来れたのに、泥棒と間違えられて捕まるのもバカな話じゃ。

今日のところは、明日の朝、到着出来る場所まで降りる事にしよう。

何かあった時の為に、魔力を完全に回復しておきたいからな…。

と、言うことで、わしは寝る。

カイン、おぶってくれ。」


ウィザリンは両手をカインに伸ばします。

カインは苦笑を浮かべ、ウィザリンをおんぶすると、おんぶ紐で身体を結び付けます。


「では、おやすみ…。

ザック!」


ウィザリンの置き土産…。

弱い身体強化魔法をかけられたカインは、腹一杯で寝ているチョップを巾着袋に入れると豆の木を降りるのでした。


カインは一番下で、豆がなっている場所まで降りました。

丁度、日が暮れます。

チョップもウィザリンも目を覚ましていました。

チョップは初めて見る大きな街を楽しげに眺めています。

ウィザリンは記憶に残る数件の建物を見つけては、懐かしげに眺めています。

カインは大きな葉っぱの上で、おんぶ紐を外しました。

チョップが巾着袋から出てきます。

カインは豆の木から実を取ると、2人に切り分けました。


「ここまでくれば、明日の朝には降りられる…。

ウィザリンは、降りたらそのまま王宮へ向うのかい?」


カインが豆を食べながら問いかけます。

美味しそうに豆を食べていたウィザリンの動きが、ピタリと止まりました。


「そうか! 忘れておった!!

わしは犯罪者…。

サムソンの嘆願書で許して貰えんかったら、また独房島へ戻って…。

嫌じゃー。

あの食事は嫌じゃー。」


ウィザリンは錯乱しました。

そんな様子を見たカインは笑います。


「事件から43年…。

前国王が無くなって、12年経ってる…。

で、今の国王は大変慈悲深い方だ。

逃げようと思えば逃げられる人間が、わざわざサムソンの遺品を届けに来た…。

そんな人間を罰するような国王じゃないよ。」


「そうじゃろうか…。」


ウィザリンの不安は拭えません。


「じゃあ、ウィザリンの孫娘ってことで、嘆願書と遺品を届けたら良いんじゃないか。

婆さんが死に際に孫娘に託したって事で…。」


カインの提案でウィザリンの顔が輝きます。


「そうじゃ! それで行こう!!

ピチピチの13歳だから、騙せる筈じゃ!!

なら、名前を変えねば…。

うーん……。

よし!

今からわしは“ウィンフィ”と名乗る事にする。

分かったなカイン、チョップ!!」


「だったら、そのババ臭い服と言葉遣いを何とかしないとね。」


カインとチョップは笑います。


「ねえねえ、カインはどうするの?」


チョップの問いにカインはしばらく考えました。


「うーん…。

船を取りに行きたいが…、今は手が無い…。

一度、田舎へ戻るかな…。」


「そうか!

ならわしもお前の家へ寄らせて貰うとするか…。」


「何でだよ!?」


カインは苦笑を浮かべます。


「行く当てが無いからに決まっておろうが!

それともお前は、百歳を超えるババアを放っておいて平気な人間なのか?」


(さっき“ピチピチの13歳”って、言ってた癖に…。)


と、思いましたが、しぶしぶ住所を教えました。


「さて、今日はもう寝るとするか。

カイン!

明日までに、下の住人に会った時の言い訳を考えておけよ!!

じゃあ、おやすみ。

ギガスイムト!」


「あっ!」


カインが文句を言う前に、ウィザリンは魔法で眠ってしまいました。

カインは苦々しい顔を見せます。


「おやすみ…。」


お腹一杯のチョップも眠ります。

2人はスヤスヤと寝息を立て始めました。

難題を課せられたカインは、ひとり深夜まで悩むのでした。


翌朝…。


「ウィザリン、おはようー!」


ウィザリンは、チョップのキスで目を覚ましました。

予想していたのでしょう。

ウィザリンは怒りません。


「おはよう、チョップ…。

あと、昨日言ったと思うが、わしの名は“ウィンフィ”じゃ。

間違えんようにな。」


「あっ! そうか!!

ごめんね、ウィンフィ。」


チョップは頭に手をやりました。

ウィザリンはニヤニヤしながらカインを見ます。


「カイン、良い言い訳は思いついたのであろうな?」


「良いかどうかは分からないが、一応考えた…。」


眠れなかったのでしょう、カインの目の下には、くまが出来ていました。


「よし、では飯を食って、とっとと降りよう。」


3人は豆の実を食べると、木を降ります。

昨日と同じに弱い身体強化魔法をかけられたカインが、2人を運びました。


地面まで数十メートル…。

下から声が聞こえてきました。


「お爺ちゃん!

豆の木から人が降りてくるよ!!」


下を見ると、家族と思われる人達が、庭に集まっていました。


(俺の言い訳が、通じるかな…?)


カインは不安に思います。


「チョップ。

分かっていると思うが、良いって言うまで会話は禁止だ。

あと、袋から顔を出すなよ。」


「うん。」


カインは、小声でチョップに指示、チョップは小声で返事をしました。


地面に到着。

家の住民達は、少し離れた場所から警戒した様子で、カイン達を見ています。

おんぶ紐を外してウィザリンを背中から下ろしました。

カインが言い訳を口にしようとした、その時…。


「もしや、あなたは、ウィザリン様ではありませんか!?

いや! そんな筈は無い…。

娘…。

いや、お孫さんか?」


と、初老の男が話しかけてきました。

カインとウィザリンは顔を見合わせます。


「わしは、ウィンフィと申します。

お爺さんは、お婆様の事、御存知なんですか?」


顔に合った可愛い言葉遣いをしようとしたみたいですが、無理があります。

カインは思わず笑いそうになりました。


「はい!

私の名は、ジャックと申します。

あなたのお婆様に頂いた豆のお蔭で、幸せな人生を送る事が出来ました。

あっ! こんなところでは話も出来ません。

ささっ、どうか我が家へおいで下さい。

おい!

お前達、大恩あるウィザリン様のお孫さんだ。

そそうの無い様!

もてなしの準備を!!」


カイン達は、誘われるまま邸内へ入りました。


邸内で、もてなしを受けた2人は、ジャックから詳しい話を聞きました。

ジャックは、豆の実を売って大金持ちになっていたのです。

さらにジャックは、豆の実を畑に植えました。

1本の豆の木から取れる豆の量は決まっているので、増やそうと思ったのです。

翌日、豆の木は生えませんでした。


(やはり、魔法の豆でなければ駄目なのか…。)


と、思った数日後、豆の芽が出ていました。

その後も豆は、スクスクと成長。

普通の豆と同じに育ったのです。

見た目も大きさも普通の豆と、全く同じ。

試しに食べてみたところ。


(!?)


ジャックは、驚きました。

豆の木に実っている豆より美味しかったのです。

ジャックは、貯金をはたいて広大な土地を買いました。

そこに、どんどん豆を植えていったのです。


そして今、豆はウエスト王国の特産品として、各国の王侯貴族に大人気。

ジャックは、悠々自適な生活を送っているのでした。

話し終わったジャックは、両手をついて謝りました。


「私が、あなたのお婆さんの事を話したせいで、あなたのお婆さんは島送りにされたと聞きました。

私が、今幸せな生活を送っているのは、あなたのお婆さんのお蔭なのに…。

私は…、申し訳なくって…。

うっ…、うううっ…。」


ジャックは泣き崩れます。

そんなジャックをウィザリンは優しい瞳で見つめます。


「気にするでな…。

気にしないで下さい。

お婆様は、幸せな最後を迎える事が出来ました。

笑顔で亡くなったんです。

だから、気にしないで下さい…。」


ウィザリンの言葉にジャックは涙が止まらなくなるのでした。


しばらくして、泣き止んだジャックが尋ねます。


「あなた方は、どうして豆の木に居られたのですか?」


カインは、昨夜考えた言い訳は使えないぞ!と、ウィザリンに目で合図します。

ウィザリンは少し考えると、質問に答えました。


「実は、先月母が亡くなったのです。

母は、私をお婆様に会わせたい…。

幸せだったと伝えたいと、後悔を残して亡くなりました。

私は母の言葉を伝えようと、ここに居るカインさんを雇い、お婆様の居る独房島へ行きました。

独房島の豆の木を登り、お婆様が居たのは巨人の国。

私達も巨人に捕まってしまいましたが、無事、お婆様に会う事が出来ました。

数日、お婆様と楽しく過す事が出来ました。

お婆様は、思い残すことが亡くなったのか、笑顔で最後の時を迎えます。

死の間際…、孫の私に最初で最後の贈り物だと言い、何やら魔法を唱えました。

目の前が真っ白になったと思った瞬間、この豆の木の頂上に居たのです。」


カインは、よくそんな嘘を思いつくなと感心しながら、昨夜、死に物狂いで考えた言い訳が無駄になった事を悲しく思っていました。

ジャックは涙ながらに話を聞いていました。

ウィザリンは話を続けます。


「ジャックさん、お婆様から託された物があります。

これを王宮へ届けたいのですが、協力して頂けますか?」


ウィザリンは、懐から嘆願書と短剣を取り出し、テーブルの上に置きました。

ジャックは嘆願書を読むと、また泣き始めます。

涙脆い男だな~と、カインは思いました。


「私に出来ることだったら、何でもやります。

ぜひ協力させて下さい。」


ジャックはウィザリンの手を取ると、強く握り締めます。

ウィザリンはジャックにバレない様、ニンマリと笑いました。


「あっ!

独房島にカインさんの船があるのですが…。

何とか回収出来ないでしょうか?」


「あっ!

カインさんを自宅に送って欲しいのですが…。

馬車を用意して頂けないでしょうか?」


「あっ!

カインさんに今回の報酬を渡さないといけないのですが…。

お金を貸して頂けないでしょうか?」


ウィザリンは、他に何か有るかな~っと、考えます。

カインは、いい加減にしろと耳打ちしました。

ジャックはウィザリンの要望全てを受け入れます。

しかも報酬に関しては、貸すのでは無く、ジャックが支払いたいと言ってきました。

ウィザリンが小声で、ふっかけろ~、ふっかけろ~、と耳打ちしてきましたが、無視して、


「独房島の船が回収できれば、報酬は要らない。」


と、言いました。


「ちっ!」


ウィザリンが舌打ちしました…。


この日、ウィザリンは王宮へ…。

カインは馬車で自宅へ…。

船は後日届けると、ジャックが約束してくれました。


(もし燃えて倒れた豆の木が、船に当たっていたら…。)


そんな考えもよぎりましたが、何だかんだで上手くいった事を思うと、何だか船も大丈夫な気がしていました。

カインは馬車に揺られ、その日の夕方、自宅に到着しました。


翌日…。

小高い丘の上の霊園。

カインとチョップは、お墓の前で手を合わせています…。


「爺さん…。

残念ながらサムソンは、亡くなっていたよ…。

って、報告しなくても、そっちでサムソンに会ってるか…。

サムソンに伝えてよ。

短剣は家族の元へ届けられたって…。

あと…、」


その時、丘の下から駆け寄ってくる人影が見えました。


「おーい! カイン、チョップ!!」


真っ黒なゴシック・ロリータファッションに包まれた、永遠の13歳のお婆さん。


「あと、ウィザリンは、まだまだ長生きしそうだって…。」


カインは苦笑を浮かべると、手を振ってウィンフィに答えるのでした……。

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