表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下北沢440  作者: 武上渓
6/7

下北沢5話


ー下北沢5話



彼女は、僕が開けたドアを抑えて、細く閉じて切れ長の目と尖った顎を隙間から出した。

「開場は18時となっております。申し訳ございませんが、お待ち……」

彼女も気付いた。

思い切りドアを開けて、アユミの左手をつかんだ。右手で口を押さえて彼女は引っ張られるまま出てきた。

彼女の両目から涙が溢れる。僕も涙で彼女の姿が歪む。

二人とも泣きながら地下に行く階段の柵に倒れ込んだ。

何を言って良いのか判らない。

「わたし。もう悟志に触ってもらえないの」

「…………」

「レイプされて……妊娠して…中絶した…赤ちゃんころした。だから逃げた。悟志から」

「何だって二人で乗り越えるって約束した。信じてくれよ。今からでも信じてくれよ!」

アユミの頭を引き寄せて、頬にくっ付けた。

「死のうと思った。でも、死ねなかった。わたしは弱いの、よわすぎるの」

「死ぬヤツが弱虫なんだよ。生きるヤツが強いヤツだ。強いから死ねなかったんだ」

「変わんないね。悟志は熱くて優しい」

彼女の懐かしい匂いがする。

「……アユミに謝んなきゃ」

「なに?」

「15年探した。けど、それで探すの止めた。すまない」

「知ってた。見つかりそうになる度に、逃げてたもの。探すの上手いんだもん。探すの止めてくれてホッとしてたのに。捕まっちゃった」

アユミは笑った。

僕も笑った。


動画で見た春菜さんが、覗き込んできた。

「大丈夫ですか?」

決まりが悪くて、二人とも立ち上がった。

「ごめんなさい。開場ね」

「どうしたのか聞いて良いですか?」

春菜さんに僕が言った。

「16年探してた彼女が見つかりました。春菜さんのお蔭です」

春菜さんも目を潤ませてくれた。

「ライブが終ったら、プロポーズします」

「大変!早く始めましょ」



ー下北沢440完結



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ