下北沢2話
ー2話
「春菜さんか…なんか暗い」
ミディアムの黒髪。黒いトップス。笑顔なし。
20代前半だろうか…。
「これ…凄い」
セカオワのカバーは全部チェックしている。歌の下手な人はいない。ギターもピアノも皆上手い。しかし、この暗い女の子は、魂を震わす声を持っていた。高音の伸びと透明感、ほどよい倍音を伴った幅の有る太い声も良いが、それは持っている人は少数だがいる。
再び。だが。
魂を震わす声を持っている人は、海外を含めてプロでも数人しか知らない。
しかし、その魂を震わす声以外にタレント性も何も無い。
「これはプロでは厳しいだろうな。音楽業界が二の足踏むタイプってヤツだ」
お金になるには、数年か数十年掛かるかもしれない。しかし、それを耐えれば莫大な利益が入ってくる。
それなら、歌は大したこと無くてもタレント性の有る女の子で、短期でそこそこ収益を上げたほうが良い。
春菜さんに必要なのは、ライブで満席にする事だ。100席を満席にしたら500席を1000席を5000を1万を5万を……。
人は気まぐれで飽きやすい。腕利きのマネージャーでも簡単じゃない。ビートルズなら簡単だが。春菜さんはビートルズじゃない。
悟志は、この声をライブで聴いてみたくなった。
概要欄を開くと、ライブ情報が有った。
「来週の日曜か。ん~日曜なら行ける。東京都世田谷区下北沢…下北沢440チケットはこいつをジャンプか…」
乗り換え検索は、片道2時間45分。片道1万1千700円。
「まともには行けないだろうから4時間と見た方がいいな…」
何故こんな気になったのか…その答は下北沢440と言うライブハウスに有った。