市長ですか
「......何で今更こんな夢見るんだよ......」
目が覚めたショウは目元を指で抑えながら軽く溜息を付く。
それはショウがまだ幼い頃の夢......。
ある日突然、父がいなくなった。
浮気して女の元へ......とかではなく、文字通りいなくなったのだ。
仕事に使っていたバッグやPC、服も靴も何もかも残し、いなくなったのだ。
まだ小学生だったショウは訳も分からないまま、ただ泣きじゃくった。
母は専業主婦だったが、すぐに仕事を探し、幼いショウを慰めながらも泣き事一つ言わずに女手一つでショウを育てた。やがてショウは高校生になり、少しでも家計を助けようとアルバイトを始める。部活にも入らず、学校が終わるとすぐにバイト。学生のアルバイトなどたかが知れている。どんなに頑張っても7〜8万円が限度。
初めての給料日に全額を封筒に入れ、母に渡そうとしたが
「気持ちだけ、有難く受け取っておくわ。ショウはそんな事気にしなくて良いの。全部貴方が使いなさい」
そう言って受け取ってもらえなかった。なら貯金して社会人になったら渡そう。
高校生3年になり、就職先が決まった。その日はショウの誕生日。ショウは自分の誕生日などどうでも良かった。内定が決まった。これで少しでも母を助けられる。早く母に知らせたい気持ちを抑え、授業を受けていると先生に呼び出された。
母が交通事故にあったと。
慌てて運ばれた病院に向かった先でみたのは、ベッドに横たわる母。顔には白い布が掛けられていた。
即死だったそうだ。
近くに置かれたバッグの横にはケーキらしきものが入ったビニール袋。
言葉にならない微かな声を出しながら、ショウは心の中で父を憎んだ。
そんな夢だった。
「あ〜最悪だ全く」
「起きたのショウちゃん?……どうかしたの? 顔色悪いよ?」
ユーリアが心配そうにショウの顔を覗き込む。
「あぁごめん、大丈夫。フレイは?」
「今お風呂に入ってるの〜。ショウちゃんも入ってきたら〜? あたしはお先に入ってしまいました〜」
「そうだな。さっぱりしてくるか」
嫌な気分を払拭しよう。フレイが出る前に風呂に突撃してやる。ぐふふ、待ってろよフレイ。
そんな事を考えていたら顔に出ていたのか、ユーリアに釘を刺される。
「ダメよ〜ショウちゃん? あたし抜きでお楽しみは許しません」
ぐぬぬ。仕方ない。フレイが出るまで待つか。
そこへコンコンとドアをノックする音が聞こえる。
「勇者様、いらっしゃいますか?」
「あぁはい。今開けます」
「あ、いえそのままで結構です。市長と連絡が付きました。今日はもう遅いので、明日の昼頃にでもゆっくりお越し下さいとの事です。よろしいですかな?」
「そうですか。お気遣いありがとうございます。では明日の昼頃伺いますね」
「かしこまりました。そのようにお伝え致します。では、どうぞごゆっくり」
明日か。まぁこれでゆっくり出来るな。服は市長との面会が終わってからで良いだろう。
「うふふ〜。明日になったのね〜?」
後ろでニヤニヤしながらこちらを見つめるユーリア。
そこへ風呂上がりのフレイがトテトテ小走りでやってくる。
「あたしも聞こえたよ〜?明日なんだね〜♪」
フレイも何故ニヤニヤしている?
……みなまで言うな。わかってる、わかってるぞ。
「ま、まぁまずは俺も風呂に入ろうか……なぁっ!?」
不意に右からユーリア、左からフレイに抑えつけられる。ユーリアはともかく、フレイはさすが竜族。力が半端ない。とても振り払えない。
「ま、待てって!おれまだ風呂に入ってなぁああ!?」
「「問答無用〜!」」
アッー!!!
ーーーー翌日ーーーー
だぁ。2人同時はきつい。ガス欠必死。
そんな事を思いながら一人朝風呂。しっかり湯船を堪能し、軽く朝食を済ませ、部屋を出る。
宿の出口に行くと昨日の小太りおじさんがいた。
「おや、おはようございます。お出かけですかな?」
「おはようございます。少し町並みを見ながら役所へ行こうかと」
「左様ですか。宜しければ私が御案内しましょうか?観光名所などしっかり押さえておりますよ〜?」
「ははっありがとうございます。ただ今日は少しブラブラしたいので、またの機会にお願い出来ますか?」
「おぉこれは気が付きませんで。あ、今更ですがわたくし、トーマスと申します。自己紹介すらしてませんでしたな、あはっはっはっ」
「いえこちらこそ。私はショウと申します。勇者ではなく、ショウと呼んで下さい」
軽く言葉を交わして宿を出る。少し早いが役所に向かうか。駄目なら出直せば良いし。
役所にもカヌーで近くまで行けるようだ。漕ぎ手の人に料金を渡し、少しゆっくり進んでもらうよう頼んだ。
「綺麗な街ね〜。なんだかほわっとするわ〜」
「ほんとね。こんな風にゆっくりみんなで旅したいなぁ。あ、ディアドラも一緒にね♪」
二人も楽しんでくれているようだ。よし、今日は何でも買ってやるぞ。
しばし水路を楽しみながら、役所に着いた。
「ショウちゃん。あたし達も一緒で良いのかなぁ? お邪魔じゃな〜い?」
「そんな事ないだろ。二人共おれの仲間なんだから」
「そこは仲間じゃなくて〜。お嫁さんって言って欲しいかな〜」
「ちょっと? あたしもお嫁さんよ? ユーリアだけじゃないんだから」
変なとこで張り合うなよ。
「ほら、行くぞ」
そんな二人を無視してスタスタと先に行くショウを二人は慌てて追いかける。
役所の前にいる守衛らしき人に自分達が勇者一行である事を伝え、市長のいる部屋まで案内してもらう。
途中、廊下の壁を見ると勇者の特徴や服装が細かに記載された張り紙が何枚も貼ってあった。
……なるほど。トーマスさんは俺の顔が分からなくてもこれで勇者と思ったのか。しかしなんともあやふやな。偽物とは思わないのか?
しばらく歩くと市長がいる部屋に着いた。
「市長、勇者様御一行をお連れしました」
『どうぞお入り下さい』
ドアを開け、部屋に入る。応接間かな?
中には四角のテーブルに三人くらいが座れそうなソファーが対面で二つ置かれている。
市長らしき人は後ろ向きで何やら資料をまとめていた。黒髪が肩までくらい。タイトスカート? 女性か。というかまるで俺の元いた世界にいそうな格好だ。
「すみません、少し散らかして……て……」
市長らしき女性が話しながら振り向き、口ごもる。
ショウを指差して口をパクパクさせている。
ショウも目を見開いて口をパクパクさせている。
状況が分からないユーリアとフレイはショウと市長を交互に見ながら困惑している。
「ショウ……ちゃん……なの?」
あり得ない。
そこにいたのはショウの母だった。
少し長くなりました。
いや、こんなものかな?
もう少しで戦闘回です。
やっと書ける……