ディアドラですか
「全くもう! 急に居なくなって心配したんだぞ! いつのまにかお母様はいるし、みんな居ないしでーーーー」
矢継ぎ早に喚きちらす子の子はフレイ。
輝く銀色の髪を肩で揃え、吸い込まれるような碧い瞳。胸はそこそこなスレンダー体型。
竜族の中でも、最も神に近い力を持つと言われている神竜族ナーガの一人娘。
甘やかされて育ったせいか、出会った頃は世間知らずのお嬢様と言った感じだった。
いきなり全速力でぶちかましたり、話している内容からして記憶はあるようだから、変な心配はしなくて良いかな。
「まぁ無事に会えてなによ......り......だ......いい加減離せ! 苦しぃ......死ぬ......」
胸ぐらを掴まれ、ブンブン振り回されて頭が揺れる。
「ご、ごめんごめん! えへへ」
やっと解放された。ったく馬鹿力が。とりあえず状況説明。
「......そんな事あるの?......なんか良くわかんないけど、やったね☆」
「はっ? 話聞いてたか?」
「え? だってまたショウと旅出来るんでしょ? しかも若返ってるし!」
あ〜。こういうやつだった。お気楽というかなんというか......。頭お花畑かよ......。
「んまぁそんな訳だ。後はディアドラだが、この分だとあいつもすぐ会えそうだな」
「多分それは無理かな〜」
事を見守っていたユーリアが口を開く。
「ディアちゃんは一応魔王だし〜。いきなりポーンとは来れないんじゃないかなぁ〜?」
立場的なやつか。まぁ仕方がない事か。
「それより〜。せっかくなんだから早く都に行きましょ〜? お召し替えお召し替え〜♪」
「あ、あたしも服見たい! ほら行こう! すぐ行こう!」
服か。まぁユーリアは黒いローブ姿だし、フレイは金の装飾が散りばめられた白い法衣みたいなの着てるしな。動きやすい格好のが良いだろう。俺も着替えたい。というか風呂に入りたい。
水の都と言うくらいだ。少しは期待して良いよな。
水の都ヴィエルジェは海に浮かぶ島一つが丸々都市になっている。
商業都市とも言われ、特に火と水のスフィアが売り。
この二つを用いて、各宿に風呂設備を常設させている。この世界はご多聞に漏れず、風呂というのは一部の貴族、もしくは金持ちしか入らない。というか入れない。
とユーリアが教えてくれた。
そんな風呂を常設させているなんて素晴らしい!
それはこの都の現市長が進めた政策との事だ。いや素晴らしい。一度お目にかかりたいものだ。というかユーリアよ。そんな素晴らしい都市を何故もっと早く教えてくれなかったんだ。今まで来たことないのが惜しい。悔しい。
考えてみたら隠れて暮らしてたしなぁ。ロクにこの世界の事を知らない訳だ。勿体なかったな。
今回はゆっくり旅してみよう。目的達成したらね。
「ショウちゃ〜ん。早く〜」
「あぁ。行きますか」
俺達はまず手前の港町目指して歩き出した。
ーーーー同刻 魔王の城ーーーー
「あー! あー! ズルいぞショウ! 妾も行きたいー! 妾も行くー!」
「ね、姉様落ちついて!お願いですから色々落ちついて下さいー!」
赤い髪を揺らし、バタバタと騒いでいるのは身長130cmくらいの現魔王のディアドラ。
その様子をアタフタしながら抑えようとしているのが、同じ赤い髪をオールバックで纏める身長190cmくらいの弟のヴェイン。
水晶でショウ達の様子を見ていたディアドラが、水晶を両手で鷲掴みにしながらギリギリ歯ぎしりしている。
「一体どうしたんですか姉様。急に人間界に行くなどと。それにその『ショウ』というのは......?」
「むー。ま〜だ懲りぬのかの? 話しても良いが、ほれ?」
「ね、姉様......また......何を......」
ヴェインが胸を抑え苦しみ出す。
「わかれというのもアレじゃがの。話すに話せんのよ」
「はぁはぁ......一体これは......新しい魔術なのですか?」
この症状はディアドラには心当たりがあった。だからこそ早くショウ達の元に行きたかったのだが。
「いや......これは逆にしっかり調べてみた方が良いかもしれんの」
「姉様、無視ですかそうですか」
むくれるヴェインを横目にディアドラは書物庫に足を運んだ。
書きたいのに時間が足りない。