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第九歩姫様とお茶をしているため、昔を懐かしもう

「いい部屋ですね」

「ありがと」

 リーネに連れられて、彼女の部屋にやって来た。少し緊張するな。まだ僕にはちゃんと健全な男子としての本能はあったようだ。

「それでリーネ、今さらながらいいのかな、僕みたいな男を部屋に連れ込んだりして?」

 リーネはハアと大きなため息をついた。

「本当に今さらね。魔王討伐の道中何て、野宿で部屋どころじゃない毎日を二年間も一緒に過ごしたじゃない」

 確かに、魔王討伐の道中はほぼ野宿だった。森の中で泊まる時何か、魔獣が多いから一晩中パーティーメンバーが交代交代で見張りをしていた事も良くあった。

 特に目の前のリーネは最強の召喚士の癖に夜の森が怖いとか言って、誰が一緒に番をするかウィル君や他の男性陣とよく揉めたなあ。

 まあ、後の方になって行くにつれ、みんな耐えきれなくなって、結局僕が一番長く彼女と一緒に番をした。

 その理由としては、草むらの中で少しでも物音がしようものなら、このお姫様がすぐさま召喚した召喚獣やら、召喚精霊やらに命令して、目につく物を全て攻撃させる。

 世界一戦いに強い集団だが、反撃出来ないとなると、途端に戦いにおける選択肢が減る。結果的に防ぎ切れず、ボコられるって訳。

 最初の頃は、魔王軍との戦いよりこっちの方が怪我人が多かった程だ。

 でまあ、結果的に戦闘力が一番高い僕が一緒に番をする事になり、怪我に対する恐怖心がどんどん薄れ、距離感が縮まったのと同時に、防御率も桁違いに上がった。

「あの頃は、リーネ様荒れてましたからねえ」

「あれは......しょうがないじゃない!怖い物は怖いの!」

「なら辞退すれば良かったのに......」

「それだけはプライドが許さなかったの!」

 そのプライドのお陰で怪我人が続出したんだよ。誰も一国の王女様の申し出を断れないからね。

「ま。昔話はお茶しながらにしましょう」

「ええ。っていうか、敬語はもうやめて」

「それじゃ、お茶にしようか。リーネ」

「ええ」

 やはり眉一つ動かさない。貴族主催のパーティーとかでは、あんなに愛想笑いが上手かったのに。こっちが素か。

「それじゃ、コーヒー?それとも緑茶?」

「コーヒーよ。ホットでお願いするわ」

「了解」

「お客様には『かしこまりました』でしょう?」

「さっき敬語をやめてって言ったのはそっちでしょ」

「あら、何の事?」

 ぐう、このお姫様め......

 もういいや。

「まずは水を沸かす所から」

 本来魔法を使うには決まった呪文を詠唱したり、魔方陣を書いたりするのだが、僕は世界で三番目に優れた魔法使いだ。さすがに一番や二番のように洪水を起こしたり、氷山を出現させたりは出来ないけど、コーヒーを作る分の水を出すだけなら無詠唱で出来る。

 一番と二番は言うまでもなく、パーティーメンバーで、僕の師匠だった魔術師と魔導士だ。

 魔力によって精製された水は雑質が無く、完全な純水だ。良く皆硬水と軟水がどうとか言ってると思う。

 その違いは、ミネラルを含むかどうかというものである。

 ミネラルを含む程、硬水であり、純水に近い程、軟水である。

 だから少しこだわっているラーメン屋やカフェなら、可能な限り軟水を使う。ミネラルを含まない分、出汁やコーヒー成分を水が吸ってくれるから。

 現れた純水は、中身の入ったシャボン玉のように僕の手のひらの上数センチにプカプカと浮かんでいる。

 次は火。

 僕は持ってきた籠の中からマッチ棒より二回りくらい大きい木の棒と一枚の布を取り出した。

 布には、幾何学模様きかがくもようで魔方陣と良く似た錬成陣が描かれている。

 僕は錬成陣に水を浮かせているのとは別の手を置き、木の棒を錬成し始めた。これが錬金術。

 錬金術は魔法と同じものだと思っている者も多い。その証拠として、素人では魔方陣と錬成陣の区別がつかない。

 魔法は、魔力──エネルギーを水や土といった質量に変え、それを使って攻撃したりする。但しエネルギーを質量に変えるため、燃費が悪い。

 対して錬金術は、質量を変える事は出来ない代わりに、エネルギーを消費しない。

 錬金術で物質を結合させたり、分解したりするのを総じて錬成という。

 優れた錬金術師ともなれば、山を一つ一瞬で分解するのも容易い。

 実際パーティーメンバーだった錬金術師は一瞬で魔王城を崩したし。

 そして僕が今使っているのは初歩中の初歩。木に空気中の炭素を錬成して、木炭を作る物だ。

 コーヒー豆と同じで木炭も匂い移りしやすいから、ちゃんと保存できない場合は、こうして木の状態から持ち歩くのが僕のこだわり。

 それらをリーネに教えると、

「勇者って世界最強な印象があるけど、案外ただの器用貧乏なのね」

 リーネの机に頬杖をつきながら話すその姿は、どう見ても悪役のお嬢様だ。

「そうそう。今度あなたの店に遊びに行ってもいいかしら?」

「こりゃまた突然どうして?」

「あなたが一国の王に直談判するほど大事にする子達なんでしょ?興味が沸くのは当然じゃない」

「なるほど。営業時間内なら、いつでも歓迎するよ」

 深夜に来られても困るし。

 木炭が出来上がった所で、お湯を沸かす作業だ。

 籠から更に三脚、金属のカン、コーヒー豆を挽く機械、コーヒー豆を取り出し、コーヒー豆を挽いて、金属のカンに木炭を投入し、火をつける。

 三脚の上には、ガラスのビーカーを置き、中に先ほど作った純水と挽いたコーヒー豆を入れる。

 後は待つだけ。

「いい香りね」

「ウチの自慢の一品だから」

「最初あなたがこれを見つけた時、豆ごときで何を驚いているのかと頭を疑ったけど、こうしてみると、あなたの方が物知りだって良くわかるわ」

 いやあ、懐かしい。僕がこれを見つけたのは確か、魔王城に向かうに当たって超えなければならない山を登っていた時に、小腹がすいてその辺の実を食べた時だったなあ。

 僕は元の世界ではオタクだったから、よく夜更かしをした。夜更かしをする分、コーヒーを飲むようになり、次第にコーヒーにうるさくなった。

 しまいには、コーヒーの実をネットで注文して、味を試した程だ。

 その時の味に似ていたから、僕はコーヒーの実だと気付いた。

 その辺に生えてた実から採った豆を持ち歩いて、わざわざ乾燥させたり、焙煎したりする姿は知らない人からすると、確かにただのアホだ。

「そろそろ完成だね」

 回想をしているうちに、コーヒーが出来た。

 異世界でしか成せない技、異世界でしか手に入らない素材を使い、作り上げた正真正銘の異世界コーヒー。

 それを僕の店のロゴが入ったマグカップに注ぎ、

「さあ、召し上がれ」

 ちなみに道具などは全てガルロさんに手配してもらった。

「頂くわ」

 リーネの可憐な唇がマグカップに付こうとしたその時。

「あら?」

「どうした?」

 突然何かを思い出したようにリーネの顔がピクリと動いた。

「私の召喚獣が捉えたんだけど、門の方で何か揉めてるわ」

 さすが世界最高位の召喚士。王城内まで監視用の召喚獣を設置するとは。召喚獣を現界させておくのは、結構魔力消費するのに。

 その分視覚や聴覚をリンクさせる事ができるから、諜報活動にはこの上なく便利だ。

「どういう風に?」

「これって、もしかしてあなたの所の子達じゃない?やたら白い獣人の女の子に、もう一人やたら元気な子がいるわ。門番と何やら揉めてるようね」

 何!?ってことは、ティフとセリスか!

 それが門番と......

「まずい!」

 僕はダッシュで門の方に向かった。

 もし今の門番が今朝の門番だったら、何されるか分かったもんじゃないぞ!


「ちょっと待ちなさいよ!ああ、もう!誰かいる?」

「はい」

 そりゃ、王女殿下の近くだ。いつでも要望に応えられるように、執事やメイドが就くのは当たり前だ。

 今回は執事だった。

 リーネはすぐさま、要望の内容を執事に伝える。

「今すぐ門番にそこにいる女の子二人を丁重にもてなすよう、伝令して。大至急よ」

「はっ」

 でなければあの門番、遺体が残るかどうかすら怪しいのよ。とは付けずに。

「相変わらず、身内贔屓(みうちひいき)だこと」

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