第八歩抗議が済んだため、姫様とお茶にしよう
「この件については、不問に処す」
何?
「不問に処すというのは、何も無かった、という扱いにするという事ですか?」
「そうだ」
額の青筋が浮き出た気がする。
「王国を代表するべき聖騎士が、飲食店で働く少女に暴行を働いた事を無かった事にするおつもりですか?」
「そうだ」
「国王陛下は、僕の立場をお忘れですかな?」
曲がりなりにも、僕は神様に会った事がある。その時もらったチートスキルは全部で三つ。
一つは、魔王を倒せるだけの戦闘力。
一つは、相手の性質を見抜く力。この力は、現在僕の腰に下がっている聖剣に宿っており、相手に悪意があったり、間違った選択をしたりすると、僕の考えで聖剣につけられたブリリアントカットを施された宝石が黒く染まる。
最後の一つは今は関係無いから省く。
ちなみにブリリアントカットとは、どっかの誰かさんが発見した光を最も反射するカット方法で、ダイヤモンドに施されるアレだ。
こんな公の場で判断を誤って、宝石が黒く染まろう物なら国王の立場が一気に危うくなる。
それを承知で、明らかな犯罪行為を不問に処すつもりなのか?
「はあ。今日はもうこれでよい。勇者殿を残して、皆下がってくれ」
そう言われて、集まってたお偉方は、謁見の間からそそくさに出ていった。
この場にはもう、リーネ王女と国王と僕の三人と数人のメイドさんしかいない。
これはつまり、公の場から一変してプライベートに変わったという事。
「どういうつもりだ、ゴルディエル?奴は明らかに裁くべきだった。その証拠に、宝石が黒く染まって......ない?」
聖剣の柄に嵌め込まれた宝石は、透明のままだ。これは、ほっといていいという意味だ。
「お前、どれだけギルスをボコったと思っている?」
国王──ゴルディエルの口調が一気に砕けた。僕とゴルディエルはそれだけ仲がいい。
考えても見ろ。国王は勇者に頼んで、魔王を倒してもらう。言い換えれば、「魔王を一人じゃ倒せないから力を貸してぇぇぇ!お願いしますぅぅぅ!」って泣き付いてるのと同じだ。
でまあ倒したし、色々貸しも作ったりして行く中で、僕らはなかなか馬が合ったから、今に至る。
表面上は気難しい人だが、実際は違う。
リーネと結婚しないかという話も純粋な好意からだ。僕はゴルディエルと仲がいい。リーネとも仲がいい。
この国も僕は気に入っている。だからその話を持ち掛けた。
そして僕はその話を蹴った。
僕がリーネと結婚すれば、立場が一気に固まる。そうなれば、孤児院を経営するのは、もちろん不可能だ。
それどころか、外出する事すら制限される。僕はそんな人生まっぴらごめんだ。
「さっきも言ったが、奴はウチの子に手を出そうとした。重傷を負わせるつもりでな」
「だからといって、あそこまでやるか?かなり多くの箇所が骨折していて、瀕死状態で病院に送られたと聞いたが?」
「アレでもちゃんと手加減したよ。本気を出せば......」
「お前の本気は魔王を倒した時点で全世界が知っている」
「それでも不問は納得行かない」
「じゃあどうしろと?」
困った顔をするゴルディエル。
「せめて聖騎士をクビにして」
「分かった。そうしよう」
ゴルディエルは最後にハアと一つ大きなため息をついた。
「全く。お前のせいで余がどれ程胃を痛めているか......」
「歳だからじゃない?」
十六の娘がいる時点で充分オッサンでしょう。
「今度ウチのコーヒーでも飲みに来てよ」
「立場上の都合により、出張さ~びすとやらで頼む」
「その場合、別途料金が発生しま~す」
口の減らない奴め、とゴルディエル。
「それより、その手に持っているのは何だ?」
「ああ。リーネへの献上の品だ。聖騎士を寄越してまで、一国の姫君がウチのメニューが気に入ったんだ。これは店長自らが自信作を持ってくるに相応しい喜びだよ。丹精込めて、そちらの美しいお姫様の為にご用意しました」
「私の為に......?」
今まで無視していたからか、ふてくされていたリーネが、不意討ちの攻撃により、頬を赤く染めた。
やっぱりかわいいなあ。
思わず頬が緩む。
ラブコメは......実在したんだ。
ラノベを、特にラブコメを読んでいた時、コイツら絶対もっとポーカーフェイスできただろうにとずっと思っていた。それが実際今は目の前でそれが上演されている。
感動......そして僕が今まであり得ないとバカにした作家の皆さん、本当に申し訳ありませんでした!
と僕は心の中で土下座した。
けど、そうなると、リーネは僕の事が好きだという事になるから、これはラブコメとは言えないな。
昔試しに『もしかして僕の事が好きなの?』って聞いたら、すごい腰の入ったビンタを食らった。
結婚を断った理由も七割がこのせいだ。ビンタする程嫌われているのに結婚何ておかしいでしょ。
「悪いけど、ゴルディエルの分は無いぞ?」
目を輝かせてたゴルディエルをバッサリ切り捨てる。
「今回のお菓子には、入手困難な素材が使われているからね。そこまで量を用意する事は出来なかった」
顔は威厳あるままだが、心なしか頭の上に『ガーン(゜ロ゜;)』という文字が現れた気がする。
ガルロさんといい、リーネといいこの世界の住人は皆、顔芸ができるようになっているのかな?
ゴルディエルは国王だから、顔芸じゃなくて顔文字芸ってか?
「じゃあリーネ、少し早いけどお茶にしようか。ちゃんと、ご注文の品であるコーヒーは持ってきたからさ」
「ええ」
そう言うと彼女は歩き出した。やはり表情が無いが、足取りが軽い気がする。ひょっとして、リーネもギルスの事嫌っていたのか?
「お前達、あの二人をどう思う?」
「非常にお似合いだと思います国王陛下」
「姫様も最初のチャンスをフイにしなければ、こうはならなかったんですけどね」
「いくら照れ隠しだからといって、ビンタはさすがに......」
メイド達が口々に感想を述べる。
「勇者殿もいい加減気付けばいい物を......」
そう愚痴る国王&メイドさん達の会話を悠が聞く事はなかった。




