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第三十四歩戦闘狂とぶつかったため、科学的アイデアで乗り越えよう

 いよいよ迎えた最終戦。昨夜は本気を出した事もあり、ぐっすり眠れた。

 コンディションい問題は無し。しかしこれで勝ったらリーネと正式に婚約かあ。

 首を左右に激しく振ってめんどくさい事を振り払う。

 そういう難しい事は後に回そう。 

 出てきたのは、身長二メートルはあるだろう、巨大な白銀の甲冑に身を包んだ騎士が現れた。

 背中には左腕には胴体程ある大きな盾と右手には下手したら僕の身長より長いかもしれないロングソードを持っている。どちらも装飾の全くついてない無骨で威力と防御力重視の武器という感じだ。

 しっかし、あんなデカイ甲冑着て重くないのか?だとしたらどんだけ馬鹿力なんだよ。

「さあて。久し振りに体動かそうかな」

 実際僕は孤児院経営のために何度か魔王城遺跡の近くにある人呼んでラストダンジョンで食材調達したり、素材稼ぎしたりしてたけど、明確な敵意を持たれたのは久し振りだ。

「これより勇者対<不動>の試合を始める。ルールはシンプル外からの助力を求める以外ならどんな手を使ってもよし。相手が降参もしくは、意識を失う事で勝利とみなす。なお、死亡した場合、意識を失うのと同列の扱いとする!」

 おいおい、最後の物騒すぎじゃない?

 ある意味ガチのデスゲームじゃん。

 相手は盾を前に構えて、防御の体勢を取っている。さすが不動というだけあって、防御が基本って事か。

 まあ、こういう奴には必ず必勝法が存在するけどね。

 膝を曲げてしゃがみ込むと、不動は一瞬ビクッと体を強張らせた。

 その後、再び立ち上がり、それを十六セットやる。そう、屈伸である。

 屈伸の他にも、ストレッチ、アキレス腱、肩入れ。覚えている限りの準備運動を適当にやる。

 ラジオ体操でも良かったのだけど、あれは長いからなあ。

「貴様、何をしている?」

 五分くらい準備運動をして、ようやく不動さんが口を開いた。

 結構ドスの効いた声で、声質から察するに、結構な歳だろうね。

 それなのにそんな大盾を五分も構える筋力って、純粋な怪力だけなら、ウチのパーティーの拳闘士よりも上じゃないかな。

 さすが国の代表というだけの事はあるね。

「何って、準備運動。万に一つもあり得ないけど、怪我したら色々困るし」

「貴様、我を侮るか!」

 あーあ、掛かっちゃった。

 大盾を前方に構えたまま突っ込んできた。この時抱いた正直な印象は


 これ、ヤバくね?


 である。

 正直この対戦で初めてヤバいと思った。

 これ、勝負この一本で良かったんじゃね?

 どうやっているのか分からないけど、明らかに自動車程の速度と質量で突っ込んで来てるんだけど!

 あれか?マイナーなラノベのよくあるパターン「トラックに轢かれて異世界転生!」と同じ原理で、異世界人である僕もそういうのに縁があるとか⁉

「ユウ!何してるの!早く避けなさい!」

 向こうから異世界トラックが突っ込んで来るのに対して、棒立ちしている僕にリーネは闘技場の観客席から声を上げた。

 声色から相当焦っているのが分かる。

 へえ。僕が死んだら一応悲しんではくれるんだ。可愛いとこあるじゃん。

 そもそも今の僕の首は少なくともここであのクソ皇子にどうぞどうぞとやれる程軽くはない。

 しゃがみ込んで、地面にお絵描きをする。円を書き、その周りに方程式の幾何学模様と、その方程式の項になる紋様を埋めていく。

 僅か二秒で書き上げ、魔力を込めた手のひらで思いっきりそれを叩く。

 テンプレでは確かに転生者は何の抵抗もせずにはねられるのだが、どう考えても僕の場合はテンプレから外れている。

 理由その一。

 僕は現在進行形でこの世界を満喫していること。

 他の転生者のような自殺願望はない。だから抵抗はもちろんする。

 理由その二。

 僕は既にチートスキルを持っていること。

 定番とフラグからは逃れられないけど、あくまでこれは<みたい>であって<そのもの>じゃない。

 抵抗する以上、出し惜しみするはずがない。

 というわけで、錬金術を使い、地面を少しだけ変形させて、転んでもらいました。

二秒で陣を書き上げる基礎的な錬金術ではこの辺りが限界だ。

 何せあの怪力だ。立ち上がるのは容易だろうから、ちょっとだけ地面に沈んでてもらう。

 こっちはあらかじめ錬金術の陣を書き込んだハンカチから発動させたちょっとだけ上等なヤツだ。

「僕の勝ちだね」

「何の!」

 不動さんはふん!という掛け声とともに、地面から跳ね上がった。

 マジかよ!普通そこは「ワシの敗けじゃ」じゃないのかよ!

 もうちょい駄作なハーレムラノベだと「これだけ強いのだ。お主、ワシの孫を嫁にもらわんか?」ってなるフラグイベントになるはずだろうが!

 なったらなったで困るけど!

「さあ。続きだ、我を楽しませて見せろ勇者よ!」

 ああ。このじいさんあれだ。どっかの国民的バトルコミックの主人公と同じで、生粋の戦闘狂だ。

 僕はこの戦いに勝たなければならない。

 そして勝つ条件は、相手の降参、死亡、意識ぷっつりのどれかしかない。

 降参はこのじいさんが戦闘狂な時点で論外だ。でなきゃ、西遊記の猿と同じ名前の奴も何度も地球に危機を招いていない。

 なら死亡か?

 今の僕は念のため聖剣も持っている。このおっさんをあの世送りにするのは簡単だが、下手したらミンチになりかねない。

 子供達の前で猟奇殺人事件を引き起こしたくない。

 だったら、取る行動は一つ。

「覚悟するんだねじいさん!」

 低級の基礎水魔法を使い、手に水を生成する。

 以前リーネとコーヒーをご馳走した時にも使っていた文字通りただ水を出すだけの魔法だ。

 本来魔法は詠唱、もしくは陣を描いて、魔力と引き換えにして初めて発現するものだが、サラやウチの魔術師程にもなると、大抵の魔法は無詠唱でできる。

 僕も少しはできるけど、器用貧乏なだけの勇者がエキスパートにかなう訳もない。

 だけどこの程度なら無詠唱でできる。

 生成した水の塊を不動のじいさんの周りにいくつも浮かべる。

「ほう?今度はどのような小細工を見せてくれる?」

「こうするのさ」

 指パッチンをするのと同時に、目に見えないほど細く伸ばした水の糸を伝って、ハンカチに仕込んだもう一つの錬成陣を作動させる。

 さっきのが土の再構築の陣なのに対して、こっちは水の分解の陣である。

 周りに浮遊していた水を全て水素と酸素に分ける。

 水素は人体にとって有毒だし、これだけ純粋で単体な酸素は人体には害でしかない。

数十リットルの水を生成したから、それが全て気化するとなると、闘技場を余裕で埋め尽くせる。

 ここからは我慢比べだ。

 これを防ぐ手段は僕の知る限り存在しない。

 風魔法はどんな物にも反応しないアルゴンと同じような気体を作り出せるが、水素と酸素が混ざり合ったこの空間で、酸素だけを選んでその気体と混ぜるのは不可能だ。

 ならば、この攻撃を知っていた仕掛人の僕の方が有利である。

「何の、これしき!」

 おいおい、このおっさんは化け物か⁉

 水素と単体の酸素のダブル有毒気体を吸ってピンピンしてやがるよ!

 うわっ、また突進してきやがった、こんのおっさんマジTUEEEEE!こんな事できるおっさん何て、三十年間の眠りから覚めた刑事と白い中折れハットを被ったハードボイルドな探偵くらいしか居ないだろ‼

 ってボケてる場合じゃないや。どうすんのこれ。

 息を止めてる僕はともかく、このおっさん死ぬぞ。

 もう既によろよろになってるしよお!

 ったく、これだから戦闘狂は好きになれない。

 地面にもう一つ錬成陣を描く。今度のも至ってシンプル。ただ地面の砂を固めて石にするだけの簡単な奴だ。大して強度もいらないから一瞬で終わった。

 これで錬成した石を、おもいっきしおっさんの兜に投げつける!

 ガンッ!と何かやっちまった感満載の効果音と共に不動のおっさんはようやく意識を手放した。

 さすがに水素&酸素攻撃が効いてたらしい。

 このおっさんが地球のエナジードリンクのCM出たらバカ売れ間違いなしだろ。

 ともあれ、最後の一戦も問題なく?勝った。

 ただしその後リーネとティフに激しく怒られた。

 ティフはともかくリーネ、君に関しては君が僕に振った仕事だろう。

 ともあれ、これで依頼は完了だ。

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