第三歩将来のため、修行しよう
そんな事を考えながら、僕は冒険者セットの付け合わせの鶏型モンスターの骨から出汁を取ったスープ、米粉パン、そしてメインである鶏型レアモンスターのステーキを出した。
「おお~。いつ見てもうまそうだな」
作り手として、ガルロさんの反応はいつも通り嬉しい物だ。
「特にこの米粉パン!この歯ごたえがたまらない!それに普通のパンと同じように携帯性にも優れてる」
「気に入って貰えて良かったです」
「ユウ坊の世界はさぞやうまいもんが多いんだろうなあ」
「技術が進んでいる代わりに、戦争になったら、相当被害が出たりしますけどね」
ここでは、僕は王国を救うため召喚された勇者で、異世界から来たということは、ほとんどの人が知っている。元の世界に戻る理由は無い。死んだし。
だから知識やあの世界の話題を隠す必要も無い。
魔王を倒した後、色んな国から「ウチの娘を貰わないか?」と国王から言い寄られた事もあった。
理由は明確。僕の知識を使って、軍事力を付けるというのが目的の政略結婚だ。
言い換えれば、「我が国の姫を好きにさせる代わりに、戦争に勝てる武器を寄越せ」という事だ。
もちろん、全て断った。僕に利益が全く無い。貰わなくても姫という職業に生まれた以上、どこかで良心的な王子様でも現れない限り幸せを追い求めてはいけない。
そしてそれは僕の役目じゃない。
貰えば世界の軍事バランスが崩れ、悪ければ僕は戦争犯罪者扱いで処刑されかねない。
冷酷かも知れないが、現実とおとぎ話は区別した方がいい。
区別出来ない人がたくさんいるから、アイドルの熱狂的なファンがストーカーになったり、アイドルに憧れて、なって見て、枕営業をして、何かをしくじって、めでたくAVデビュー!何て事が続出する。
そんな三次元が嫌いになりそうなラノベで培った知識を脳内データベースから引っ張り出していると、ドアベルの音が響いた。
「ようユウ坊、来てやったぜ」
ウチの自慢のドアの後ろから現れたのは、白いタキシードのような服を何の違和感もなく着こなす金髪のイケメンが現れた。
「ウィル君。いらっしゃい」
この妙にキザっぽい男は、ウィルク。僕の勇者時代のパーティーメンバーの一人。職業は騎士。
勇者パーティーは全部で十二人。十二という数字は、無限を意味するのだという。だから元の世界でもあらゆる所で使われていた。
一年は十二ヶ月、最高位の星座は十二宮、干支の動物は十二種、半日は十二時間。
ここでもどうやら同じだったらしく、勇者パーティーもこの世界で最強の十二人の精鋭で結成され、メンバーは世界中から集められ、それぞれ、騎士、戦士、拳闘士、魔導士、召喚士、薬剤師、魔術師、錬金術師、、暗殺者、賢者、最後に勇者。
その中で、ウィルクは騎士に当たる。
「どうだい、コーヒーでも?」
「ああ。頂くよ」
ウィル君もここの常連さんで、緑茶と同じく僕が魔王討伐の道中、道端で見つけた豆を焙煎して挽いて、淹れたコーヒーを気に入ってくれている。
「アイス?ホット?」
「アイスをブラックで頼むよ」
僕はパーティーメンバーだった魔導士と魔術師に作ってもらった冷蔵庫からコーヒー豆を取り出した。
コーヒー豆は冷蔵庫に入れて保管した方が、香りを損ねにくいと昔バイト先のファミレスで教わった。
はあ。皆どうしてるかなあ。僕が担当していた後輩君は結構ドジで、いつも僕が庇ってやったっけ。店長もそれを察してくれるいい人だったなあ。
回想に耽っていながら、コーヒー豆を挽いていく。
前もってストックしておいた、水魔法で作り出した純水を沸かして、コーヒー豆を淹れる。
「はい。おまちどおさま」
水は世界最高位魔術師直伝の水魔法で作り出した純水。コーヒー豆は、持ち帰り、孤児院の庭で有機農法で栽培した豆。挽く道具は、世界最高位の鍛治職人のお手製。
正にこの店でしか味わえない一品だ。
「うーん。やっぱりここのコーヒーが一番だね。他の所は、何か雑味があるって言うか......」
「仕方ないよ。コーヒーは普及したけど、匂い移りしやすいから商人が運ぶ最中に雑味が混ざるのは防げないよ」
そういう事を防ぐために、僕は自家栽培してるんだから。
「まあ、そうだな。こんなにいい仕事してるんだ。儲かってるだろ?」
「まあね」
こういうのを他愛もない日常会話というのだろうか。
元の世界でも時々あった。派手じゃないけど、楽しい。
「あー!ウィル兄ちゃんだ!」
カウンターの裏、庭の方から茶髪の男の子が飛び出して来た。服が所々土で汚れている。
「カトル、またどこかで転んだのか?」
この男の子も僕が預かっている孤児の一人で、名前はカトル。孤児に名前をあげるような物好きはいないから、当然僕が全員名前を付けた。
「違うよー。ちょっと足が何かに引っ掛かって、倒れただけだよー」
「それを転んだって言うの」
何をバカな事言ってるんだ。ウィル君のが移ったのか?
制服のポケットからハンカチを取り出して、顔に付いた土を落とす。
「ははは。良いじゃないか。元気な証拠だ」
「あんまり甘やかさないでよ?」
出会ったばかりの頃、カトルは何者も寄せ付けない、正に獣のように周囲を警戒していた。
僕が保護しようとした時も、その辺に転がっていた木の枝で叩きつけて来たものだった。
あれが僕じゃなかったら、大人でもケガしただろうな。僕でも思わずカウンターを仕掛けた程だ。
それだけいい腕をしていた。勇者の僕を警戒させる程の実力があった。
その後、何とか説得して色々話を聞いてみると、親は物心付く前からいなかったらしく、偶然拾った木の枝で野良犬を撃退したのがきっかけで練習を始めたのだという。
試しに、「将来、騎士になってみたい?」って聞くと、力強く頷き、僕はウィル君に彼を紹介した。
以来、二人は本当の兄弟のように仲がいい。少々ウィル君が甘やかし過ぎて、わがままを言うようになった時は、本当に焦った。
それをウィル君に相談して、騎士道の本を持ってきてもらったりして、何とか矯正した。
悪の根源であるウィル君にはそのままでも超強力な下剤の原料になる豆を砕いて作った豆乳でカフェオレ作って新メニューと言って飲ませた。
何もウソは言っていない。子供達に悪影響を与えた奴らに出す裏メニューに入っている。まだまだ他にも色々あるけど。
「大丈夫。カトルはいずれ僕の部下になるから」
ウィル君が微妙に厚い胸板を張って宣言した。
こんなお調子者なチャラ男の部下ねえ。格好からして、夜の銀座とか行って、クラブパーティーでヒャッハーやるようなイメージしかないのだが......
ウィル君は悪い人じゃないんだけど、何かねえ......魔王討伐の道中も、やたらめったら女の子に声をかけては、ウチの魔術師にお仕置きされていたし......何だろう、思い返して見ると、悪い人じゃないっていう自分の言葉に自信が持てなくなって来た......
「ほどほどにしといてよ」
「じゃあ、カトル。今日の修行を始めようか」
「うん!」
ありゃ、スルーされた。
まあ、最高の騎士だし、その辺はちゃんとわきまえているだろう。
ウィル君とカトルは、修行をするために庭に向かった。




