第二十四歩居心地が悪いため、御者の人と歓談しよう
朝食を終えた僕らは御者と合流し、今日も王都へ向かう。
正直なところ、朝食で既に体力と耐力のほとんどを使い切った僕は馬車の御者席でグロッキーになっていた。
座席に行けば、現在御者席と座席を繋ぐドアに付いた小窓から覗ける「どうやって肌をケアしているの?」とか言っているガールズトークで和気あいあいとした空気が一気にリーネが作り出すピンク空間で「どうやってこの二人を始末するの?」という殺伐とした空気になる。
「それにしても、びっくりしました。まさか勇者様が王女殿下とお付き合いする事になったとは」
敵を騙すには味方からとはよく言ったものだ。一国の王子様という敵を騙すために、味方の御者を騙した訳だ。
言った時は「おやおや、お盛んな事で」と言われた時は、本気で落ち込んだ。これ、断れない状況にもう一歩近づいたんじゃね?という気がしてならない。
「いやあ、お恥ずかしい」
曖昧に返事しておく。リーネは確かに魅力的な女性である事は間違いない。だが、結婚するとなると、やはり少し違う。
何せ召喚直後はただならぬ雰囲気で警戒していたし、ちょっと仲良くなったと思って、冗談で聞いてみたら、全力のビンタ食らったからね。
そこまで嫌われてるんなら、こっちもラノベ主人公になりきれないってもんだ。
「御者さんも、奥さんとかいるんですか?」
とにかく話題を変えたいし、ちょうどいいので御者さんの事も聞いてみる。
「ええ。これまた私にはもったいない良い妻が」
ほう、この御者さんもなかなかやるねえ。
「馴れ初めの話とか聞かせてくださいよう」
お年頃なら男女問わず食いつくのが恋バナだ。
なんたって、「一人の勇敢な男の子と一途な女の子さえいれば世界は滅ばない」という言葉があるほどだ。
それから僕は御者さんーーロウさんとその妻ーーレイさんの恋バナを聞いた。
何でも、僕がこの世界に来る前から二人は知り合っていたらしい。
ロウさんはその時から貴族を運ぶ御者で、父は冒険者、母はギルド職員というある意味凄い一家の生まれで、ある時とある貴族を王城まで運ぶ依頼を受け、その時その貴族のそばに付いていたメイドだったレイさんに一目惚れしたのだという。
偶然、その貴族というのが辺境に住む貴族だったため、王城まで数日を要した。
その数日を利用して、ロウさんは食事の用意を手伝ったり、父の教育もあり、魔獣を退治したり、解体して調理したりと好感度を必死に上げた。
その甲斐あって、二人は付き合いはじめ、近くに寄った時はその貴族の屋敷を訪れ、レイさんに手紙を渡すように他のメイドさんに頼んだり、休日一緒にその屋敷の近くで食事をしたりと愛を育んで行ったという。
「ロマンチックな話ですね」
確かに行動は下心丸出しだが、それでこそ価値がある。惚れた女のために必死になって何が悪い。
「そのろまんちっく?というのがどういう意味かは分かりませんが、お陰で今充実しております」
ほう?これぞ本当のリア充って奴か。オタクな僕にそれを言うか。
良いだろう。僕の全身全霊をかけて祝福をしてやろうじゃないか!
だって別に妬む理由など無いもん。ハーレムは経験済みだし、現在進行形で「嫁になる」とか「子供産ませて」とか言って擦り寄って来る美少女に頭を悩まされているのだからね。
「今奥さんは何を?」
流石に結婚した後も貴族の屋敷でメイドやるのは危ないよ?NTR属性が無いならさっさとやめさせた方がいい。何なら僕の権力を使わせてあげても構わない。
「妻は今家で専業主婦をしています。もうすぐ子供が五歳になるので」
ロウさんは分かりやすく頰を緩めた。
専業主婦か。いいね。それに子供までいるとはロウさんもなかなか侮れない。
「これがまた可愛いの何の、最初に『パパ』と言った時はだらしなく泣いてしまったものです」
おお。いいじゃんいいじゃん。ロウさん紛れもなく親バカだな。
「だから勇者様にはとても感謝しているのですよ」
「いやあ、そう言って貰えると命張った甲斐がありました」
嬉しい事言ってくれるじゃん。
「勇者様もしっかり王女殿下のお心を掴んで下さいね」
「うぐっ」
ハートにくるというのはこういう事を言うんだね‥‥‥。
本日の断れない状況にもう一歩近づいたんじゃね第二弾。
友達とちょっと揉めて、もしかしたらスランプに陥るかもです……




