第二十一歩裸の付き合いをしたため、決心しよう
「皆さんはユウさんの事どう思っているのですか?」
それは唐突に話題に出てきた。
私達はユウと別れて宿の浴場に来ている。
高級宿だけあって、浴場は大きいし、地面と浴槽には大理石が敷き詰められて、壁の照明には湯気で簡単に消える安い火属性の魔力ランプではなく、湯気の影響を受けにくい光属性のものが使われている。
その中で、私とサラとセリスとティフは浴槽に浸かりながら、こういう時の恒例『サラの精神に戦略兵器並みの打撃を与える質問(ユウ命名)』を聞いた。
「どうってどういう事よ?」
「ユウさんの事が好きかどうかという事です」
この子はいつもこうなのよね......無邪気な顔で残酷な質問を投げ掛けて来る。
私たち元勇者パーティーのメンバーでも慣れ不慣れがある。
ちなみに慣れていないと、相当神経に来る。
「ティフちゃんはどう思います?」
「えっと、その、あの......マスターの事は......」
ほら言わんこっちゃない。言われたティフは心配になるほどネコミミをすごい速さでピクピクさせているじゃない。
にしてもかわいいわね。これはユウが過保護になるのも頷ける。
そう考えると、例の聖騎士は彼女を傷つけようとしたという事よね。ユウがムキになるのも無理ないわ。
「マスターは、私の恩人なんです」
ティフは最初こそひどく動揺していたが、すぐに落ち着きを取り戻し彼女の身の上について語り始めた。
「私は、人間である両親に奴隷として売られたんです」
彼女の話によると、彼女の両親は人間だけど、隔世遺伝によって彼女は亜人として生まれた。
そのせいで父は彼女を嫌い、虐待を重ね、母は父や他の人から浮気しているといわれ、何度も自殺に追い込まれそうになった。
結果両親は彼女を売る事で、離婚にまで至らなかったのだという。
奴隷として売られた後、一人、また一人と売られて行く奴隷や、女の奴隷が買われた後どうなるのかを聞いて、しばらく精神を病んだ事もあったのだという。
奴隷商人は奴隷を高く売るため、一部の利益よりも奴隷をいたぶって安く売りさばく者より比較的に優遇する事が多いとユウに聞いた事がある。
身体的には健康でも、精神的な影響は大きすぎる。
運よく割とすぐにユウに買われたため、多少のトラウマは残るもののユウの治療によって深刻になる前に治ったらしい。
まだ十四歳の少女にはとても辛いだけではとても足りない体験だったとのだろう。
ひどい話だ。
そう思った。両親なら、何があろうと子供の味方であり、自分よりも子供の幸せを願う物であるべきだと思う。
少なくとも私の父上は、国が滅ぶ可能性がある時でも、民や自分の命よりも私の命を優先してくれた。
それが正しいかどうかはともかく、私はそんな父上を誇りに思っている。
「ティフちゃんはユウさんの事大好きなんですね」
指摘されたティフは、更に頬を紅潮させて、「はい」と小さく頷いた。
「さすがはティフちゃん、よく分かってる!」
ティフが話終わると、セリスは勢いよくティフに飛び付いた。
普段なら微笑ましい光景で片付くけど、十四歳の少女が浴槽の中でやったものだから当然、かなりの水しぶきが舞った。
お陰で鼻に水が大量に入ってむせてしまったわ。ユウには昔彼の過去を話してもらった事があった。向こうの世界ではどのように暮らしていたのかを。
「セリスちゃんはどうなの?」
「いんちょーの事はもちろん大好きだよ!」
ティフとは対称的に、この子は全然恥ずかしがる素振りを見せない。
何でここまで性格が違うのにこんなに仲がいいのかちょっと気になるわ。
「セリスちゃんはユウさんに何をしてもらったの?」
食い付きすごいわね......。
「私はパパとママがちょっと前に出掛けたきり帰って来なかったの。それでいんちょーがやって来て、パパとママが戻るまで一緒に居ようと言ってくれたの」
そう言えば少し前にユウが王城に来て冒険者の夫婦を探す依頼をギルドに寄越してくれと頼んで来た事があったわね。あれはセリスの両親の事だったのね。
ギルドでは、普通に依頼するよりも、王族からの依頼の方が報酬も高いし、何より優先度が相当上がる。
まだ確定した訳じゃないけど、王族からの依頼がこれだけ経ってもまだ見つからないのなら、セリスの両親はやはり......
浴槽の中で辛い体験をしながらも元気に笑うセリスとティフを見ていると、血は繋がっていないけど、二人は本当にユウの娘なのだと実感する。
「いい話ですぅ......」
何で自分から聞いておきながら泣くのよ。
傍らでさっきまで頭に載せていたタオルをハンカチ代わりに涙を拭う賢者は無視する。
反応しているとキリがないから。
私もいい加減決心する必要があるわね。
「先に上がらせてもらうわ」
そう言って私は浴場を去り、タオル姿のままユウの部屋の前にやって来た。
私の召喚獣達の調査によると、さすが魔獣が異常発生しているだけあって、私達の他には誰もいないらしい。でなければさすがにこんな真似は出来ない。
意を決して私は私とユウを隔てる一枚の扉をに手を掛けた。
ユウはベッドの上で何やら考え事をしていたらしい。私が扉を開くと、目を見開いたまま硬直した。
ああ、まただ。鼓動が速くなって、顔が熱い。
何で?今は夜でも、焚き火がある訳でもないのに。
そんな事は今はどうでもいいわ。今大切なのは......
「ユウ、私をあなたの嫁にして」




