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第二歩社会勉強のため、カフェを経営しよう

「いんちょー、いんちょー」

「どうしたの?」

「おなかすいたー」

「ちょっと待ってね。もうすぐご飯だから」

 そう言うと、セリスは涙目になった。いやいや、いくら十四歳だからってそれだけで!?全く。セリスは食いしん坊だな。

 僕の店の制服の裾を引っ張っている子は、僕が保護した孤児の一人。セリス。

 色の薄いプラチナブロンドの髪をサイドテールにして結んでいるウチで一番お間抜けという言葉が相応しい少女だ。


 僕が死んで、あの軽い神様に転生させて貰ってから約二年が過ぎた。故意か偶然か僕は意識が暗転した後、王宮の転生の間でしっかり美少女なお姫様に迎えられ、魔王の怖さをこれまた美少女な賢者様にみっちり叩き込まれ、きっちり魔王を倒して来ました。

 神様からのチート能力とアイテムでさほど苦労も......したな。激しく。

 具体的にはテンプレート的ハーレム無双系ラノベ展開でお姫様と賢者様が繰り広げた修羅場の方が戦闘の何倍も辛かったです。

 さては神様、この展開も読んでいたんでしょうな。

 道中更にたくさんの女の子と出会って、仲間ハーレムに加えて行った。

 これも神様効果だろうか?

 そして魔王を倒した僕は、晴れて英雄となった。その際お姫様と結婚させられそうになったけど、断った。

 僕は何も魔王を倒し、英雄となった勇者がお姫様と結ばれ、ハッピーエンドとなる物語が欲しいから魔王を倒したんじゃない。

 それは魔王を倒しに行く道中それを知った。

 この世界はアニメやラノベではとてもありふれたTHE異世界という感じに出来上がってる。

 世界はモンスターで溢れ、父親は家を支えるために過酷な冒険者稼業へ向かわなければならず、母親と子供はその帰りを待つ。

 いつか帰って来なくなるその日まで。

 そうなったら、その先は様々だ。母親も死に、技術を持つ者はスリをして生計を立て、容姿に優れた者は奴隷商人に捕まって、どう扱われるか知ったもんじゃない。

 何せ、この世界には人権も、人権を保証してくれる法も、存在しやしないのだから。

 だから僕は向こうの世界で僕がそうだったようにこの世界の救われない子供たちのために孤児院を作ることにした。

 ああ。分かってるさ、勇者がハーレムメンバーの全員と重婚して、物語を終わらせるのがベストだと。

 でも、それじゃあ世界が狭すぎる。

 ラノベでも、大きい物で多重宇宙全体が舞台の物もあれば、小さい物で中高生が恋愛脳こじらせて、自宅と学校だけが舞台の物もある。

 どうせなら大きな舞台が欲しい。

 魔王を倒した後は好きにしていいって神様も言ってたし。

 というのは建前で、実際はもっと単純な理由だ。

 孤児院を作るための金の方はほぼ問題ない。魔王を倒した報酬で充分足りる。足りなかったらラストダンジョンに何度も挑んで稼げばいい。

 ラストダンジョンともなると、挑戦できる実力者は相当少ないため、倒したモンスターは高く売れるから。

 さすがに金目当てで挑む者はいない。勇者パーティーの他のメンバーは全員姫だったり、最高魔法研究者だったりと各国の主要人物だから行動さえ制限されるのが理由だ。

 設立の方も問題ない。一応冗談抜きで救世主なのだから、身分証明は国王が直々に保証してくれる。

 ここまで来ると、何もかもがうまく行きすぎて駄作の匂いがプンプンするなあ。でもまあ、無駄に苦労して人格崩壊するよりはいいだろう。

 なんやかんやあって、書類、建物はクリア。

 後は歩き回って、孤児を片っ端からかき集める!

 何だろう、その気が全く無いのに何故か卑猥に聞こえる。

 細かい事は気にしないでおこう。

 まあ、なんだかんだあって、孤児も粗方保護出来た。

 という訳で、今に至る。現在僕の下にはおよそ三十人程の孤児がいる。

 全員年は五~十三歳前後。これは決して僕がロリコンやショタコンだからではない。街の孤児はみんなこの辺りの年齢だからだ。

 これより小さい子は、見つかる前に死んでいる。

 もう少し大きくなれば、役に立つと判断され、誰かが拾って行く事があるのだという。

 拾って行かれた先が良いところとは限らないけれど。

 僕も元の世界の孤児院は具体的に何をしているのかは僕も知らないので、とりあえず僕にもできる事を精一杯やっている。

 お金なら有り余っている程だから、建物はそこそこ大きい。

 半分が孤児達に勉強を教えるための校舎エリア。

 もう半分が、趣味で始めたカフェ。

 こんな世界だからね。酒場のような人がたむろする場所程情報の集まる場所はない。

 そこまで欲しい情報は無いのだが、情報はいくらあってもいい。

 それ以上に、孤児のみんなの社会性の勉強にもなるし、客連中にも今のうちから馴染んで貰えればそれに越した事はない。

 バーを開こうかとも思ったが、お酒は一切置いてはいけない。さすがに子供のいる所でお酒は出せない。子供達が勝手に飲んだり、酔った客が暴れたりしたら大変だ。

 基本的に、僕の孤児院は午前中は校舎エリアで算数や、この世界で生きていくための護身術を習わせ、午後はカフェの手伝いをしてもらう。

 一応僕も高校生だったから、生きていくための最小限の知識程度は教えられる。こっちの世界では方程式とか三角定理とか使わないからね。


 そして今、カフェの営業中、お客さんがいない時間。マスターの格好をして、グラスを磨いていた僕の服の裾をセリスが引っ張って空腹を抗議している。

 これは決して僕が虐待をしている訳ではない。

 ただセリスが食いしん坊なだけだ。

「セリス、さっき食べたばかりでしょう?食べてばかりいると、太ってお嫁に行けなくなるよ?」

 頼むから突っ込まないで欲しい。学校ではボッチ、バイト先では先輩や常連さんのオモチャにされていた僕が子供の上手な(さと)し方何て分かるはずない!

「だいじょーぶ。そうなったら、いんちょーのおよめさんになる」

 何だろう、ロリっ子にこんなこと言われるのって、後々フラグになったりするんだよね......。

 それはさておき、昼食はちゃんと摂らせた上で、カフェの手伝いをさせている。

 おっと、そうこうしているうちに今日最初のお客さんがやって来た。

 一部ガラス張りにしてあるドアが開き、上側に設置したドアベルがチリンチリンと鳴り響く。他にお客さんも居ないし、この世界にはBGMを流せるような複雑な機械も無いかため、余計にドアベルの音が鮮明に聞こえる。

 こういう静かなカフェって何か憧れるよね♪

「よお。ユウ坊、儲かってるか?」

「ガルロさん。こんにちは」

 入って来たのは、五十代後半の見た目で、かなり髭を溜めているおじいさんと言っても差し支えない人物だった。

 茶色掛かったボサボサの髪と髭は、何とも言えない強面な職人の印象を与える。

 この人物こそ、僕が勇者として魔王を倒しに行ってた時の協力者の一人。

 王国一の腕を誇る鍛治職人のガルロさんだ。

 僕がこのバーを始める時も、グラスだったり、皿だったりを仕入れる時にガルロさんの人脈で、なかなか品質の良いものが相場より安い値段で手に入った。

 更に子供達に勉強を教えるための教科書を作る際にも、印刷板を作ってくれた僕のこの世界での大恩人だ。

 ガルロさんはウチのカフェの常連客で、朝の仕事終わりにこのカフェにやって来て、朝の疲れを癒すんだと言う。

 そりゃウチの子はガルロさんからしたら、孫みたいなもんだし、癒されるよな。

「いつも通り冒険者セットでいいですか?」

「ああ。それで頼む」

 冒険者セット。僕が考案した冒険者などの人達をサポートするセットだ。

 日本にいた頃、みんな口々に栄養バランス栄養バランス言ってるけど、本当に栄養バランスを理解している人は実は結構少ない。

 栄養バランスというのは、午前に活動するエネルギーをチャージするため、朝ご飯は肉や魚といった高エネルギー高たんぱく質の物を食べる。

 午前中に消費したエネルギーと午後活動するエネルギーをチャージするために、昼食も朝食と同じく肉や魚で豪華に。

 夕食はこれから寝るのに対して、エネルギーは必要ないため、野菜やフルーツを摂ればぐっすり眠れる。

 といった感じに、分かっていない人は、一回の食事に肉とか野菜を一緒に摂って、痩せもしない、活動に充分なエネルギーもチャージ出来ない中途半端な食事になってしまう。

 もちろん食べ合わせによっても変わってきますが、基本的に肉と野菜を一緒に摂れば、摂取カロリーが減る訳ではないのです。

 ただ野菜がヘルシーだからその分追加される摂取カロリーが減るだけで。

 これらの事を考慮して、活動がほとんど力仕事の冒険者をサポートするために、穀物や肉をメインとしたセットとなっている。

 もちろん、ここでは飲み物や多少のスイーツがメインとなるので、これらのメニューは常連さんしか知らない裏メニューとなっている。

「飲み物はどうします?」

「酒は──」

「ありません」

「やっぱりか......」

 目に見えて肩を落とすガルロさん。

 そんなにお酒が飲みたいなら、他の店行きなさい。ウチはお酒は一切取り扱いません。

 何故かって?


 店員も店長も全員未成年だからですよ。


 二年経ったからって、まだ高三だからね。

「じゃあ、緑茶で頼む」

「かしこまりました」

 僕がこの世界で見つけた緑茶によく似た品種の茶葉を乾燥させた物だ。

 真空パック何て技術この世界にあるはずも無いから、当然馬車で運ぶ事になるため、どうしても、匂い移りしたりする。

 その点、ウチの庭で栽培している自家製の緑茶は、商人が運んで来た物より、雑味が少なく、より新鮮な物になる。

 これにミルク、砂糖、香料を少々加えた緑茶ラテはウチの人気メニューの一つでもある。

 それでも緑茶の方がいい辺り、ガルロさんも見た目通りのお爺さんだなと再確認する。

 出した料理にしてもそうだ。

 出せる種類と量こそ少ないが、どれも僕が週に一回高難易度ダンジョンに潜って、そこで倒したレア度の高い食材用モンスターがまだ新鮮なうちに血抜きや皮剥ぎをして加工した物を出している。

 セット一つで銀貨一枚(約千円)とリーズナブルな値段で提供しているのもあって、常連さんのお陰で毎日しっかり売り切れる。

 そろそろ新しく従業員やバイト君的ポジションの人を雇って見ようかな。セリスや子供達もよくやってくれているけど、やはりお皿を下げてもらったり、洗ってもらったりする時ハラハラするって言うか......心臓に悪い。

 お皿はまだ替えが利くけど、ケガはさせたくない。

 さてどうしたもんかな。

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