第十六歩敵と遭遇したため、バトルをしよう
容赦なくホーンラビットは襲いかかって来た。
ご丁寧に一体だけで。別の奴らはそれぞれセリスとティフを襲おうとしている。
こういうのが、この森の難易度が低い理由の一つだ。ほとんどの場合、魔獣同士でコンビネーションを取る事はない。
だから少し実力がついていれば、まず負けることはあり得ない。
孤児院では、戦闘訓練も授業の一つとして教えているから、多分皆その辺のゴロツキよりは断然強い。
全員紛れもなく勇者の弟子みたいな立場だからね。
カトルは腰に下げた得物の鞘に手を当て、腰を落として構えた。
おい、ちょっと待て。この構えと得物何か見覚えあるぞ。
得物は何か刀身曲がってる。
次の一瞬、襲ってきたホーンラビットはちょうど腰の所で上下真っ二つになった。
あまりに速くて、常人には見えないだろう一撃だ。
だが、あれは完全に......
「居合いじゃねぇか」
そう。カトルの得物は間違いなく日本刀であり、ホーンラビットを真っ二つにしたのも、紛れもなく日本刀特有の剣術、居合いだ。
居合いは高速で刀を鞘から出す抜刀術である。その速さが命の技は、少し刀身が曲がった日本刀でなければ再現は難しい。西洋のロングソードとかではまず無理だ。
しっかし、誰が居合い何か教えたんだ?
心当たりは一人しかいない。
「ウィル君......」
前に何度かこちらの世界では主流のロングソードは切れ味も剣速も日本刀には及ばないとかてね。
それに食いついたウィル君が色々聞いてくるから、抜刀術とかを教えた結果、あの天才騎士様は独学で身につけたんだよ。
そしてそれを一番弟子であるカトルにも伝授したらしい。
「ユウ、あれって確かあなたの世界の剣術よね?前にウィルクに教えてた」
さすがお姫様、よく分かってらっしゃる。
「マジでこの世界の奴らはどいつもこいつも......」
ほら、そこで戦ってるセリスとティフも、もはや優雅の域に達しているよ。
この世界でも魔法適性があって、それ次第で扱う属性が異なる。
まあ、ぶっちゃけただの得意不得意だけどね。学校の教科も得意不得意があるように魔法の属性でもそういうのはある。
「にしてもあの子達、強いわね。魔法だって結構すごいの使ってるみたいだし、動きもキレイ」
「そりゃそうだよ。伊達に数日も世界最強の賢者様と数日も書庫にとじ込もっていない」
そう言うと、リーネは顔をムスッとしてそっぽを向いた。
その間にも、セリスとティフは華麗に二体のホーンラビットを翻弄している。
今二人が使っているのは、初歩的な時間差攻撃だ。
セリスが攻撃した直後に背後からティフが無防備な背中を攻撃し、バランスを崩した所を、再度セリスが攻撃するの繰り返し。
セリスが得意とするのは、風と火の魔法で、ティフは水と土。
止めはセリスが低級火魔法で目眩ましをしてから、ティフが後頭部に土の塊をぶつけることで決まった。
僕は馬車から降りて、三人を労おうと思ったが、ホーンラビット達の死体を見てまず思ったのはさすが僕の生徒ではなく
「この戦術は今一度見直す必要があるな」
である。
真っ二つの斬死体一体に、文字通り頭カチ割られたのが二体。
見直さなくては、ウチからサイコパスが出るかもしれん。
一撃で仕留めたカトルはともかく、セリスとティフは力なく地面にヘタリ込んでいた。
魔力切れか。戦闘時間としては、約十分。十四歳にしては上出来だろう。
「三人とも、よくやったな」
三人の頭を優しく撫でてやる。
セリスは嬉しそうに、ティフは恥ずかしそうに、カトルに至っては、恥ずかしさにそそくさと馬車に避難した。
馬車の中でリーネに撫で撫でしてもらった時は、割と本気で湯気が出ていた気がするほど顔を赤くしていた。
良かった。まだそこまでウィル君に毒されていないな。
これでリーネに襲いかかっていたら、今度開催されるウィルク裁判に僕も参加する事になる。
具体的には
裁判長:ゴルディエル国王
被告人:騎士ウィルク
原告人:リーネ第一王女
原告代理人:勇者冬崎悠
って感じ。
まあ、僕が原告代理人になろうがなるまいが、どっちにしろウィル君の有罪判決は変わらないだろうけどね。
三人には、馬車に戻ってもらって、僕は馬車からは見えない所でホーンラビットから魔石や素材を回収していた。
「これ、一波乱ありそうだね」
ホーンラビットの体内から取れた魔石は何ともいびつな形だった。
取れたては色が明るく、本来丸いはずの魔石はヘビースモーカーの肺のようにボロボロで、色も毒々しかった。
ホーンラビットがこの森にいる時点でおかしいとは思ったが、一体何が起こっている......?




