第十歩王城が広すぎるため、全速力で走ろう
ああもう!どうしてこうなった?
全くあの悪党聖騎士め。奴のせいで、色んな事が脱線してしまっている!
今度会ったら、髪全部剃って出家させてやろうか?
いや、やめとこ。僕が損した気分になる。
あまり知られていないけど、お坊さんって普通のサラリーマンとかより断然稼いでるからね。
僕が最後にお坊さんを見たのは、僕が入っていた孤児院の院長のお葬式の時だった。
その時の来たお坊さんの姿があまりにもイメージと違っていたので相当驚いた。
何か駐車場にやたらカッコいい車が止まったなあと思ったら、中からお坊さんぼ格好をしたイケメンのお兄さんが出てきて、先生に「あの人誰?」って聞いた程だからね。
だってお兄さん、髪は坊主どころかスゲー決まっていたし、スケジュール確認する時とか、最新版のスマートフォン使ってたし。
極めつけは、お布施。一回紙に書いてある意味不明の文章を読み上げるだけで数千から数万円もらえる。
しかもそういう宗教団体とかは税金を支払わなくてもかまわないらしい。
これを知った当時の僕は、まだ中学一年生だった。
確かラノベやマンガに本格的にハマり出したのもこの時期だった気がする。今思ってみれば未来を夢見る真っ只中にこういった現実を突き付けられ、現実逃避したかったのだろう。
それ以来、僕はお坊さんにありがたいと思う事は無くなり、逆にお坊さんを羨ましく感じた。
だからあんな奴を出家させるのは僕が嫌だ。
この世界は仏教ではないからお坊さんはいないけど、教会があったり、シスターや神父がいたりと、キリスト教に近い感じでそれっぽいのはある。
そしてやはり税金は取られないらしい。
そんな事したら、ますます奴に得させる事になる。
それにしても、この王城広すぎる。
確かに王城はおもいっきり広くしないと、ナメられるから広くしないといけないけど、僕のスピードでも、リーネの部屋から正門まで数分もかかる。
僕の走りは神様に強化された身体能力を含め、パーティーメンバーだった現役の世界最強の暗殺者に自ら教えてもらった物だ。
暗殺者たる者、速さが命元勇者パーティーでも、足の速さでは最速だった。そして暗殺者という職業は身軽でなくてはならない。だから過度に筋トレして、筋肉を増やしすぎて、体重が増えるのは当然NG。
暗殺者の場合、街中や建物内で活動する事が多いからアクロバティックな動きもできなければならないからね。
だからウチの暗殺者も、体格は常人とほぼ変わらなかった。技術は凄まじいけど。
しかし僕の場合、話は別だ。僕は常人と変わらない筋肉量で常人以上の筋力を出す事ができる。
直線的に走るだけであれば、僕の方が速い。
そりゃ神様自らが弄ったチートステータスにノーマルが勝てる訳がない。
だが残念な事にここは室内。曲がり角がかなり多い。
それでも多少劣るにして、かなり速いはず。
にも関わらず、すごい時間かかる。
もう壁ブチ抜いて行こうかな?
......やめとこ。リーネに見つかったら何されるか分かったもんじゃない。
パニック状態で世界最強パーティーのメンバーを次々怪我人にしていくような人間を本気で怒らせてようものなら、彼女の甲殻虫型召喚獣と炎系統召喚精霊に文字通り八つ裂きにされ、焼き尽くされる。
ああ、ようやく見えてきた。
「あれ?」
「それで、いんちょーってば酷いんですよ?こんなに可愛い女の子に向かって、『食べてばかりいると、太ってお嫁に行けなくなるよ?』ですって!」
「おやおや、それは酷い」
「誰が酷いって?」
「「ひゃう!?」」
「うわ!?」
元勇者パーティー暗殺者直伝ハイディングスキルを駆使し、僕は二次元世界御用達<怒りの笑顔>を顔面に張り付けながら、威圧を放つ。
このハイディングスキルは僕らと同格の相手じゃない限り捉える事は絶対にできない。
よって、彼らからしたら背後にいきなり化け物が現れたような感じだろう。
「それで?誰が酷いって?」
Wow。ロリっ子二人に大の大人が揃って腰を抜かし、半べそかくって何かシュール。
セリスとティフはまだ可愛げがあるけど、門番君については情けないとしか。
「いんちょー......」
「マスター......」
まあ、まだ十二、三歳の子供に世界最強者の威圧は早いか。
「ティフ、孤児院のルール第二条は?」
「......マスターの許可なく、子供だけで外に出てはいけない......」
もちろん僕だって自由に外に出してやりたい。だけど、ガルロさんやウィル君みたいに獣人に友好的な人間が極めて少数派である事は否定できない。
何せ聖騎士からだって出たからね。
「いんちょー、ティフちゃんを責めないで。ティフちゃんは、いんちょーの事心配して......」
「どういう事?」
そして僕は、セリスから事情を聞き、早とちりしたセリスには一ヶ月のお風呂掃除の刑を言い渡した所、目が虚ろになったので、
「まあ、詳しく言わなかった僕にも非があるから、一週間で勘弁してあげるよ」
すっかり蚊帳の外に放り出された門番君はいつの間にか居なくなっていた。後で知った事だが、リーネが気を利かせて伝令して門番をはけさせたとの事らしい。
一つリーネに貸しを作ってしまったな。
なぜ僕の時とセリス達の時とではああも態度が変わったのかが不明だが、大して興味はない。
「まあせっかくここまで来たんだ。お姫様とお茶してから帰ろうか」
二人の顔色がが急に青ざめた。
どゆこと?




