カーテンコール
「ヒヒヒ……いいねえ。やっぱり実戦で使われた刃物は輝きが違うよ」
「ごたくは良い。で、いくらになる?」
「イヒヒ、ちと待ってな。タバコでもふかしてテレビみてりゃあいいよ」
「チッ……」
舌打ちして椅子に座りテレビを見るともなしに見る。
『それでは次のニュースです……××県紫樹村で魔術テロが発生し、住民と観光客ら53名が死亡しました。
主犯の紫樹海桜容疑者は『閉鎖的な村にうんざりした。都会に出てみたかった』などと身勝手な動機を供述しており……
……なお特定指定武装勢力『百鬼』の関与をほのめかす供述を……』
ニュースでは遠くの県でも似たような大がかりなテロ事件が報道されていた。
今までの日本ではあまりない多数の死傷者の出る事件ばかりだ。
いずれこの件も報道されるのだろうか?あの保護された子供達は大丈夫だろうか?
「チッ、どこもかしこもか……百鬼の奴ら調子に乗ってやがる」
「待たせたね。はいよ代金」
丸木戸老人は札束をなにげなく真に渡す。かなりな金額である。
こんなに、と言いそうになるが真はむっつりと口を結ぶ。
「……なあ、あんたは世界がこうなる前をよく知ってるんだよな」
「まあね」
丸木戸老人はさっそくジャグラーのナイフを研ぎ始める。
真に目線を合わせず視線は作業台に釘付けだ。
「ハルマンや獅子吼の奴らはなんだってこんな事をしたんだ?魔術を世に出したらこうなるってわかるようなもんだろ」
丸木戸老人はおかしな冗談を聞いたように偲び笑う。
「キヒヒ、実はね魔術による事件の発生件数はそんなにかわってないんだよねえ。
せいぜい2割くらいだよ増えてても。今までこっそり呪ったり食い合ったりしてたのを表に出しただけ」
「テレビにこんなもん載せるためだけにその2割を選んだってのか」
真は嫌悪感を隠さず吐き捨てた。
「いいや、ハルマンはこれからもっとすごいのを出していくよ?これだってほれ……こんな町工場でも魔術ができる本を出してる。
そう、あんな素人集団でも武装組織が作れるくらいにはね。
技術者はみんな魔術のいろはを知ったのさ。さあ、今の技術で本気で魔術を使ってモノを作ったらどうなる?
今は基礎研究の段階さね。いずれ実用レベルのものが市場に出る……AIのシンギュラリティといっしょに!どうなるかわかったもんじゃないよ?」
イヒヒヒヒと技術のもたらす明るい未来を丸木戸老人は語った。
それはあまりに楽観的な考えに真には思えた。
「その頃あんた生きてるのか?便利で面白いもんのために人が死ぬのか」
くる、と丸木戸老人が顔を合わせる。
「そうだよ、じゃなきゃあ世界大戦なんて不条理が起るものかね?所詮、人は時代の流れに流される藻屑なのさ。
なら、サーフィンみたいに波に乗ったほうが楽しいと思わんかね?」
その顔がポゴに重なって見える。真っ暗で何もない虚無のような顔に。
あの道化師も、この老人もこの無残な理屈にこの老人がたどり着くまでに何があったのだろう。
いいや、きっと何もなかったのだ。
「思わねえ。俺は泳ぎ切ってみせる」
「ま、何にしろ生きてるなら楽しまなきゃねえ……ああ、楽しみだ。ヒヒヒ……」
そう、世界は魔術などなかったとしても人間そのものが深い闇を持ち、世界そのものが狂気を孕んでいるのだ。
たとえ未来がどれほど輝かしくとも。
これにてこの話は一応の終わりです。ですが、宵闇の世界はまだまだ続きます。