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終曲


「どうしてだ、どうしてこんなひどいことができるんだい……!」


悪趣味な人間を素材にした出し物の数々に気が滅入って思わず冴が弱音を吐いてしまう。


「お聞かせいたしましょうか?」


ハスラーと名乗った手品師がヒゲをいじりつつほほえむ。


「人の頭のネジなど簡単に外れるんですよ。たとば挫折、たとえばブラック企業に入る。

たとえば交通事故で大けがをする。たとえば病む。理由などありふれています。

たとえば、我々のような殺人鬼に出会う、とか。

それでもなぜと問われるのであれば、できたから、ですよ。我々には手段があった」


攻撃の手がゆるむ。まるで聞かせるのが目的であるかのように。


百鬼なきりかい……!」


それは妖怪の革命軍。彼らはこうした武装勢力に手を貸して兵隊を増やしているのだ。


「いかにも。ここは百鬼の少年兵育成工場の一つですよ。

ですがね、それだって発想一つです。車だって包丁だってありふれてますでしょうに。

あなたが我々のようにならない理由はあなたの気持一つだけなんです。

楽しむようになるんですよ。あの子らのように、いずれあなたもね」


手足を武器に改造された子供達は喜悦に顔を歪ませながら手足を振り回す。


「イカレてやがる……!」


冴のつぶやきにポゴが大声を上げて笑った。


「そォオさ!この世は狂気だ!じゃなきゃ、何の理由もなくある日突然俺たちみたいなのに襲われたりしないはずだろォ?

警察も法も無力なんだよ……全部幻想さ。この世は犯ったもん勝ちなんだよォ!それを受け入れろ!」


だがそれが逆に冴の逆鱗に触れた。


「曲がったこと言ってんじゃないよ!やりたくもないことはやりたくないんだ!

あんたが殺りたいからってそれを人に押しつけんな!黙ってきいてりゃあ屁理屈ならべやがって……もう我慢の限界さ!」


狼の咆吼が響く。手足と顔が獣化し、容赦なく手品師をたたきのめした。

手品師はあばらが折れてとりあえずは戦闘不能だ。


「甘い……!」


ジャグラーのチャクラムが飛んでくるが獣の速さには及ばない。

一瞬で近づかれて腕をへし折られた。

そこに火男の火炎が飛んでくるが、これはすんでの所で合流できた陽の剣にはじかれた。


「『太陽の因子』そんななまっちょろい炎で太陽が消せるかってんだ」


そのままバスタードソードがうなり、剣の腹で火男の頭が叩かれて昏倒する。


「さあ、ポゴ。お前一人だ!お前が何人出てきてもぶっ倒す。負けを認めろ!」


ふーっとため息をつくポゴ。


「ヘイヘイヘーイ。何を見てたんだ?俺たちが腕の一本や二本でどうにかなる連中だと思ったかァ?

おい起きろよおめえら。おまえら望んでこうなったんだろうがよ。あれ使うぞ」

「仕方ないですね」

「今使う……!」


手品師やジャグラーが器用に残った手足を使って何かの丸薬を飲む。


「そいつは……やめろ!不死者になる気かい!」

「『ブラドの遺血』か。百鬼の簡易吸血鬼化剤……!」


それは百鬼が傘下の武装組織に配っていた吸血鬼となる薬剤だ。

一度飲むだけで永遠に不死者となってしまう魔薬。これこそ百鬼が勢力圏を手にしている理由でもある。


「さあ、第三ラウンドだァ!俺たちにとって死ぬまで負けじゃねえ!勝ちが欲しかったら俺たちの屍を超えて行けよォ!神祇局にできるかァ?

使えよ、お得意の太陽の力!灰になったらさすがに俺たちも死ぬからなァ!」


一瞬の逡巡。そこを突かれ……はしなかった。天幕を破り、狩人が飛び込んできたからだ。

まず手品師が振り下ろされる鉄板の如き刃に真っ二つにされた。


「おめえら、そんなに殺しあいがしたいのか?だったら同盟が相手んなるぜ」

「ヒューウ!こいつはゴージャスなお客さんだ!いいねえそのイカレた武器!だから愛してるぜ狩人さんよォ!」


ポゴは真の2m巨大鉈に熱い視線を送った。それはよだれが出るほどに熱望した殺し会いだ。


「反吐が出るぜ。お前らは俺が潰した。そういうことにしてろ公認退魔師さんよ。だから……遠慮なしだ!」

「ったく……うちは優良企業だってのによ。だけどまあ、仕方ないな」

「どうでもいいさ……遠慮無くぶっ殺せるんならね!」


ゲラゲラとポゴが笑う。


「犯罪者になる心配がなくなったとたん強気かよ!なめられたも……」


次はジャグラーだった。振り回される鉄の暴威には飛び道具はあまりにも貧弱だった。

まるで傘にはじかれる雨のようにナイフやチャクラムがはじき飛ばされ、胴体から爆発するようにはじけ飛んだジャグラーの血肉がポゴにかかった。


「ヒューウ!素敵なシャワーだァ。ドライヤーあるゥ?」

「これでも使ってろ!」


最後に残った火男は太陽の力を持つ陽の防火能力に無意味となりまたもやポゴに首事たたきつけられる。

さらに真による大鉈の一撃で上半身を吹き飛ばされる。油がポゴの体にまとわりついた。


「お嬢ちゃん、伏せてな。狼の姉ちゃん今だ。助けろ!」

「おうともさ!」


さらに斬りながら接近していた真は檻を破壊して囚われていた八百万の妖怪たちを解放する。

震える彼らを狼が優しく抱きしめ避難させた。


「なんか言うことはあるか?」


二人の剣士はポゴに剣を突きつける。


「ヒャハハハ!いいさ、焼けよ。俺の負けだ!だけど悪夢ってのは巡り終わらねえもんなんだぜ!」

「手垢のついた負け惜しみだ。おい小僧、火ぃ貸せ」

「ああ……」


真はタバコを口にくわえる。そこに火がつき、そしてタバコは投げられた。


「サーカスは終わりだ。家に帰るんだな」


ポゴは焼かれながらいつまでもいつまでも笑っていた。

ひとまず一区切り。あとはエピローグになります。

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