中盤1
「ヒャーハハハ!道化師ポゴのサーカス『殺人道化団』にようこそォ!かわいいお嬢ちゃんにお坊ちゃん!
楽しむ準備はできてるかい?おむつははいた?今日は死ぬほどどっきりびっくりして、悲鳴を上げておくれよォ!」
案山子のようにやせて背の高い禍々しい道化が笑う。天幕の中、サーカス団員に囲まれてだ。
火吹き芸人にコーラス隊、手品師にジャグラー。常であれば楽しい存在も殺意に塗れて実に禍々しく邪悪だ。
「神祇局公認退魔警備会社ソルライトの日食陽。あんたらは神祇局からも警察からも有害団体認定を受けてる。つまり、俺が殺せるって事だ」
「ヒュウ!そいつはおっかねえなァ!だけどそれでこそだ!今日は目一杯楽しもうぜ!
ワンちゃんもな!なんだよもっと仲間連れてきてくれると思ったのによォ。期待外れも良いところだぜェ?」
甲高い声でゲラゲラ笑う道化に対して人狼は静かにドスを聞かせた声で尋ねた。
「あの子たちは無事なんだろうね」
「ああ、まだ何もしてねえぜェ?約束は約束だからなァ」
ぱちんと指を鳴らすと幼い妖怪達を詰めた檻が出てきてその上に道化師が座る。
「だけど、あんたが諦めればそこでお仲間の子供達もサーカスに入ってもらうぜェ」
道化がくいくいとコーラス隊を指さす。それはおぞましき聖歌隊だ。
子供達が縛り付けられ縫い付けられて一つの肉塊になって、くぐもった悲鳴をあげている。
それが両脇にスピーカーのように据えておかれているのだ。
「たとえばコーラスはどうだァ?じゃあまあ、ミュージック、スタート!」
ポゴが手を上げるとコーラス隊の口枷が外れ、頭の一つが悲鳴を上げてもがく。
そしてその悲鳴のうるささに隣の頭が叫び出す。もがくと縫い付けられた場所が痛んで血を吹き出す。
そうして、おぞましい血を絞る悲鳴が連鎖する。
「やめろ!こんなもん!絶対にぶっ殺してやる!あんたみたいな人間があたしは大嫌いだ!」
狼は聴覚に優れている。そう、音や匂いといった刺激に弱いのだ。
呪詛混じりの悲鳴は人狼の力を弱めてしまう。
「じゃあこれ燃やそうか?おいロウソク男、やっちまえよ」
「やめろ!」
冴はとっさに地面にあった石をつかむ。突っ込んでいったら数の差で死ぬ。ならば遠距離攻撃を。
だがその石がつかんだ瞬間に爆発した。
「私はイカサマハスラー。手品を担当しています。どうぞお見知りおきを……」
タキシードにシルクハット、カイゼルひげのいかにもな手品師がうやうやしく頭を下げた。
「くそが!」
冴の手から血がボタボタと噴き出す。
「落ち着け、1秒でも早く解放してやる……『痛覚消失』『能力付与』『射出』」
陽が剣を振ると光弾が飛んでいきコーラス隊2体にぶつかった。
まるで太陽のような暖かい輝きだ。
「『振動操作』『日食の癒やし』『視線誘導』」
冴の手にも同じ色の輝きが光り、傷がじわじわ癒えていく。
そして、コーラス隊の悲鳴が収まっていく。
「ホォォ……噂通りだなァ日食君よォ!能力の簒奪!いくつもコレクションしてるんだって?
それ俺にもくれよォ?どーせ罪悪感あるんだろ?なら俺が有効活用してやるからよ!」
つまりこれは奪った複数の力でコーラス隊の痛みを消し音を消し、冴の傷を消したのだ。
「ったく、こう言うことになるからこの力は面倒なんだ……そしてお断りだ。それにいいのか?俺に注目してて」
一瞬目を離すと冴がポゴの近くに来ていた。
「残念、罠が……」
「匂いで解るんだよ!お見通しさ!」
そうして一撃。ポゴが吹っ飛んでいった。
「ざまあみろ!」
心臓を刺し貫いて一撃。致命傷だ。
「あーあ、ひでぇことしやがるなあ。なあ俺」
「よう……俺、後は頼むわ」
「任せとけって俺。じゃあな」
だがどうしたことか!ポゴと全く同じ姿の男が天井から軽業をしながら跳んできたではないか!
「分身……?」
「違うね!俺はミーム、俺は隣人、俺は増える。
他人に人格をコピーする。それが俺の能力『コピーキャット』さ!」
「知るか!」
二人目のポゴを冴が殺そうとする。だがその一歩手前で野生の勘が働いた。
手品師の爆薬とジャグラーの投げナイフがポゴに向かってきていたのだ。
「俺事ごとやれってたのしそうだったのによう。まあいいさ。楽しもうぜ!」
「ちっ。団員から片付けなきゃ駄目か……!」
かくして、人狼と魔剣士、そしてサーカス団の本格的な戦いが始まった。