序曲
日食陽君と天野天使さんは無頼 チャイ様より
月影冴さんは魔獣さまよりです
「天使隊長、武器直りましたよ」
「まあ、それはすばらしいですね、陽君」
派手なTシャツに黒いワイシャツの少年、日食陽はトランクを二つ床に下ろした。
天使隊長と呼ばれた女性は日だまりのような邪気のない笑みを浮かべる。
「君づけはやめてくださいって言ってるでしょ……」
こぎれいなオフィスだ。ここは神祇局公認退魔警備会社「ソルライト」社。
つまり比較的まっとうな幽霊や化け物相手のお祓い屋の一つだ。
「なあ、あんたら……本当に大丈夫なのか?あたしより年下な子ばっかじゃん。
いざって時に戦えるのかい?」
依頼人の人狼、月影冴は不審そうに天使隊長と日食少年を見やる。
この場合はたしかにうなずけるだろう。冴の風貌は野性的でまさに獣の美を体現したような美人。
服装も黒い服にチェリーレッドのブーツ。
まさにワイルドだ。
「はい、我が社は退魔から護衛、捜索まで手広く扱っています。
特に今回のような捜索、護衛任務は得意とするところですよ」
対する天使こと天野天使はその名にふさわしく真珠のように白いスーツを着て、羽をかたどったヘアピンをしている。
どう考えても依頼人の方が戦闘に向いていそうだった。
「はあ……まあ急いでるし仕方ないかね。とにかく頭数が必要なんだ」
「では、間違いが無いようにご依頼を確認しますね?
『殺人道化団に浚われた八百万のメンバーを救出するためにあなたを護衛し、捜索に協力すること』ですね?」
「ああ、そうだよ。場所はだいたい解ってるけどあたしじゃ近寄れない。なにしろ妖し筋だからな」
「大丈夫です。うちには空間操作能力者もいますから」
「ああ、そうかい……で、あたしの護衛はそこの坊やかい?」
「坊……っ!俺が?」
日食は不満そうにむっとした顔をする。坊やというほどの年齢ではない。
「いえ、戦闘のエキスパートがいますから……」
「天使隊長、気遣いはいりません。俺、やります」
「でも、陽くんあんまり超過勤務はしない方が……」
「お使いの1件や2件で暇してる方が嫌です」
人狼の依頼人、冴がため息をついて言った。
「あのさあ、もめてる時間ないんだけど?それにその坊や、今見た中じゃ一番やるだろ?その子で良いよもう……」
「まあ、お目が高いですね。たしかにこちらの日食は腕は一番立ちますが……少々お待ちください」
ぷるるる、と天使のケータイが鳴った。
「はい、ええ、そうですか……ありがとうございます。月影さん、『殺人道化団』の居場所の特定、および妖し筋の通行が可能になりました」
「もうかい?!うさんくさいなあ……とにかく、今なら連中のアジトにいけるんだね?」
「はい、現地にスタッフが派遣されています。そして護衛はこの日食が勤めます」
「じゃあさっさと行くよ。ほらエスコートしなよ坊や」
「へいへい、喜んで」
「もう、陽くん相手はお客様ですよ?」
「はい、すいません」
太陽の匂いのする表の会社であってもこの業界、やはりどこかねじくれているのだ。
「どーなってんだ……」
社内でいちゃつく二人に人狼の呆然としたつぶやきがむなしく聞こえる。