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拡大する戦線


先輩が前線に異動し、代わりに新兵配属されてから2ヶ月が経過した。


今日も、私は貧しい人々が住まうエリアにある高校へ行き、そこの生徒達を勧誘している。

そんな私の傍らには、2ヶ月前に配属された新兵が居た。


配属された新兵はまだ幼さが残る顔立ちではあったが、可愛らしい顔をした少年だった。

そんな彼の顔を見て、私は閃く、


(彼とペアを組んで勧誘すれば、成功の確率は格段に上がるんじゃないだろうか?)


と。



それは極めて単純なアイデアだった

私が男子高校生を担当し、彼が女子高校生を担当するという、子供でも思いつくようなアイデアだ。


私は思い立ったが吉日とばかりに、ビクビクと怯えた様子でマニュアルを読む彼にこのアイデアを伝えた。

私のアイデアを聞いた彼は、まるで捨てられた子犬のように犬耳を垂らし、コクコクと頷いたのだ。


その結果、私と彼は相棒となった。



・・・こうして文章にすれば簡単な出来事のようだが、実際問題としてこれは極めて珍しい事だ。

そもそも、新兵募集所内は基本的にギスギスした空気が流れている。


それは、誰も彼もが己がノルマを達成する事だけを考えて行動しているからだ。

その為、平気で他人の成果を奪うような輩も存在している。



(・・・そう考えるなら、前線へ異動になった先輩は、まさしく女神様のような人だった。

彼女は、いつも私を心配して色々と面倒を見てくれたものだ・・・)



まあ、私がしている事も、ある意味では先輩に近い事なのかもしれないが・・・。


彼と組む事によって、私には「簡単に女子高生を勧誘出来る」という大きなメリットがある。

そしてもちろん、彼にも「簡単に男子高生を勧誘出来る」というメリットの他に、「私から様々な事を学べる」というメリットもある。


更に言えば、私達が担当するエリアはコンビを組む事で広大なエリアを担当する事が可能となった。

元々「私が担当していたエリア」に加え、「先輩が開拓してくれたエリア」、「新兵に与えられたエリア」という三つのエリアを二人だけで担当出来ている。


その結果、私達はノルマを達成し、こうして相棒という関係を継続出来ているのだ。

そう、まさにギブアンドテイクという関係を私達は構築している。





何とか今月もノルマを達成し、所長に今月分の契約成立数が詳しく書かれた報告書を持って行った。

本来ならば、この報告書を所長に手渡して今日の仕事は全てお終いな筈だった。


精々が相棒と飲み屋で愚痴を言い合い、来月からの仕事に備えて早めに帰宅する位しか予定は無かった。


だが、この日、私の人生を決定付ける事を所長は口にしたのだ。



「貴様らのノルマは、来月から今の倍とする」



最初、この言葉を聞いた時、私は所長が何を言っているのか理解出来なかった。

まるで、所長が地球外の言葉を話しているかのように感じたくらいだ。


そんな、呆然とする私に対して所長はきつい口調で言い放った。



「聞こえなかったか? もう一度言うぞ。

貴様らのノルマは、来月から今の倍だ」



脳が所長の言葉の意味を理解した瞬間、目の前が真っ暗になった。

足元はグラグラと地震のように揺れ始め、視界は歪み、吐き気がこみ上げてくる。


私は倒れないようにその場に全力で踏ん張り、何とか言葉をひねり出し、所長に質問した。


「いきなり、ノルマが倍だなんて・・・、一体・・・何が・・・?」


そんな私の質問に対し、所長は苛立った声で答える。


「そんなの俺が知るか! 全ては軍上層部の判断だ!

お前らは黙ってノルマを達成すればいいんだ!! もういい下がれ!!」


これっきりだった。

これっきり答えて、所長は新聞を広げて私を己の視界から消したのだ。


私は愕然としたが、もう何も出来ない。

事情を知らずにニコニコとした顔の相棒が待つ机まで、私はフラフラとした足取りで歩いていくしかなかった。




必死に頑張った。

私達は必死に頑張った。


寝る時間も惜しみ、私達は毎日毎日新兵の勧誘を続けたのだ。

使える手段は全て使った。


小遣いと言って優秀な生徒に金を手渡した。

踏ん切りのつかない男子高生を何とか志願させる為に、夜を共にした事もある。

時には脅し、時には褒め称え、ありとあらゆる手段を用いて私達は頑張ったのだ・・・。


だが、ノルマは達成出来なかった。

あと1人2人足りないというレベルでは無い。


どう計算しても、与えられたノルマの達成は不可能なのだ。

たとえ、担当するエリアの生徒達を全員志願させたとしても、ノルマ達成は出来ないだろう。


一ヶ月、二ヶ月とノルマを達成出来ない時間が過ぎて行き、そして運命の三ヶ月目、私の前線送りが決定した・・・。






今、私は前線行きの輸送船の中に居る。


ほとんど立方体に近い船体、そしてまるで兵を荷物のように扱うさまから「郵便箱」と兵達の間で呼ばれている非武装輸送船内の格納庫で、私は呆然としている。


格納庫に並ぶ戦闘ゴーレムをボンヤリと眺めながら、私は考えていた。



(あと数日で最前線に到着するだろう。


・・・いや・・・、果たして、無事に辿り着けるのだろうか?

最近の惑星連合軍は決戦思想を捨て去り、ゲリラ戦術に切り替えたと聞く。


その結果、各補給路に惑星連合軍の小艦隊が襲いかかり、かなりの被害が出ているらしい。

ならば、この輸送船だって例外では無いだろう。


本来なら護衛に駆逐艦でもつけて欲しいが、貴重な戦闘艦を白毛人しか乗っていない輸送船団の護衛につけたりしないか・・・。

唯一自衛の武装として存在しているのは、この格納庫に並んだ戦闘ゴーレムが数機だけ・・・。


もし敵の襲撃を受けたら・・・、私達は・・・)



そんな事を考えながら、私は暗い顔をしていた。


そんな私の肩をポンポンと誰かが叩いく。

私が振り返ると、そこには白毛人の青年が立っていた。


「ど~も。あんたさんも前線行きかい?」


青年は軽い口調で挨拶とも思えない挨拶を口にし、私の横に立った。


「あんたさんの背中を見てたら分かるよ~。暗いオーラが漂っているからね。

多分だが・・・、あんたさんは元リクルーターじゃないか?


・・・おっ。

その表情、当たりだな?


実は、俺も元リクルーターなんだわ。


全く、難儀な話だよな~~。

どんなに努力しても、結果が伴わないと簡単に前線に送られちまう。


こんな事になるなら、3ヶ月遊びまくれば良かったぜ~」



青年はヘラヘラと笑いながら、一人で喋り続ける。

そんな青年は、私はジトッとした目で見ていた。



「お? その目つき、多分あんたさんはこう考えているな?


私達はあと少しで殺し合いの真っ只中に放り込まれるのに、何でこいつはこんなにヘラヘラしているんだ? ってさ。


大丈夫だ大丈夫だ。

俺達はもう戦死するような事は殆ど無くなる。


その理由は・・・、こいつらだよ」



そう言うと、青年は格納庫に並ぶ全体的に青色で塗装され、丸みを帯びたボディをした新型の戦闘ゴーレムを指差した。



「こいつらは最新式の戦闘ゴーレムだ。


なんでも、今までの戦闘ゴーレムなんて比較にならない性能を持っているんだとさ。

実際、この戦闘ゴーレム一機で連合軍艦隊を壊滅した事もあるらしい。


そんな高性能な戦闘ゴーレムが、この輸送艦に数機も搭載されているんだ。

たとえ連合軍の艦隊がこの輸送船に奇襲を仕掛けたとしても、簡単に蹴散らせる。


だから安心しとけ。

前線に行けば、この戦闘ゴーレムが大量に居る。

もう戦死するなんて事はあり得ないさ」



そう言うと青年はケラケラと笑い始める。

そしてひとしきり笑うと、彼は少しだけ真面目な顔になり、小声で話し始めた。



「・・・これはただの噂なんだが・・・。

この戦闘ゴーレムな・・・、元々は惑星連合軍が所有していたものらしいんだ。


とある星で、こいつの原形となったゴーレムが地球軍相手に大暴れしていたらしい。

それを地球軍が回収して、改造して量産化に成功した・・・って話が兵士の間に流れ始めているんだ。


この噂の真偽は定かじゃない・・・。

まあ、連合軍が高性能な戦闘ゴーレムを作れる筈も無いと俺は思っている。


それにだ。

こいつを回収したって星を暇な奴が宇宙船飛ばして探したらしいんだが、どこにもそれらしい星は無かったんだってよ。


地球軍も正式に「そんな星は昔から存在していない」と宣言しているが、・・・まあ・・・、これは怪しいもんだな」



青年は周囲をキョロキョロと見回し、顔つきを険しくする。



「・・・すまん・・・この話は無しだ・・・。

単なる噂だしな。


おっと長居しすぎた、そろそろ俺の任地が近いな。


じゃ! お互い長生きしようぜ! あばよ!!」



そういうと、青年は小型輸送艇が並ぶ格納庫目指して走り始める。


そして私は、格納庫に並ぶ戦闘ゴーレムに視線を戻した。



(何が、高性能な戦闘ゴーレムだ・・・。


恐らく、ノルマが倍になったのはこいつらのせいだ。

こいつらが強すぎるから、地球軍は支配範囲を大幅に拡大出来たのだろう。


その結果、私達リクルーターにしわ寄せが来たに違いない)



戦闘ゴーレム達は胸の操縦座席をむき出しにしながら、静かに整列している。


(・・・畜生・・・、畜生! 畜生!!

こいつさえいなければ、私は地球で平和に勧誘活動を続けられた筈なのに!!


何が最新型だ!! 何が高性能だ!!

こいつは! 何をする為に作られたんだ!!


宇宙に住む蛮族を苦しめる為か!?

罪の無い高校生を地球軍に志願させる為か!?

貧乏人を量産し! 地球に住む多くの人を貧困のどん底に叩き落す為か!?

私を家族から引き離して前線に送る為か!?)



「・・・こいつの・・・目的は・・・、・・・一体・・・何なんだ・・・!!」



誰にも聞こえない様に小声でつぶやくと、私は悔しそうに瞳から涙を流す。




この時代以降。

地球軍は宇宙全域に戦線を拡大し続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 旧人類の時もなんか一機だけやたら強い戦闘ロボットがいる星あったような。そんでそれを分析回収して更に地球軍が強化された所まで同じやん。もしかして、人類は何度も何度も同じような進歩を繰り返…
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