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地球軍への志願


「またか・・・、またノルマを達成出来なかったのか・・・」


そんな言葉と共に、上官は周囲に居る同僚達に聞こえるように、わざと大きくため息を吐いた。


「今月もノルマを達成出来なかったのは貴様だけだ。

恥ずかしいと思わないのか? 同期に対して申し訳ないと思わないのか?


・・・どうなんだ!!」


上官は大声をあげると艶やかな黒毛を逆立て、呆然と立ち尽くす私を睨みつける。

そして、息を整える為に深呼吸を一回行い、コップに入った水を少し口に含み、事務椅子に座る。




(・・・さあ、始まるぞ・・・。


説教なのか、ストレス発散なのか分からないネチネチとした「演説」が・・・)





ここは地球にある地球軍の新兵募集所だ。


「誇り高き地球軍は、野蛮な徴兵制等に頼る事無く運営されないといけない」


等と言うわけの分からない建前によって、地球軍に所属する全ての兵士は志願兵で構成されている。


・・・だが、実際は徴兵と大差ない・・・。

・・・いや、徴兵の方が遥かに文明的かもしれない・・・。


現在の地球軍の実情を簡単に説明するのならば、


「強制された志願兵によって構成された軍隊」


これが一番適した表現だろう。


そう、「強制された志願」によって地球軍は支えられている・・・。


この地球に住む地球人は「絶対に超える事の出来ない格差」がいくつも存在している。

経済格差はもちろん、人種格差、種族格差、出身地ですらも格差の対象となっている。


特に悲惨なのは毛の色が白く、経済的に困窮した人々だ。


現在の地球において、毛の色が黒い程に様々な面で優遇される。

逆に白ければ白いほど、差別の対象となるのだ。


法律では毛の色で差別してはならないという事になっているが、そんなのは建前だ。


毛が黒い人々は教育、医療、就職、行政サービスといったあらゆる面で優遇されている。

そして逆に、毛が白い人々は常に苦しい思いをし続けなくてはならない。


最早、これは暗黙の了解として地球社会にはびこっている。

これは、私が幼い頃から経験として学んできた事だ。



今から19年前。

私は経済的に極めて困窮している白毛人の両親の間に生を受けた。


両親は病院で私を産むだけの金が無かった為、仕方なく知り合いの看護婦にお願いして自宅で私を産んだ。

私が産まれた時、両親は喜んだらしいが、内心は不安で一杯だったに違いない。


父親は近場の軍事工場で勤務していたが、給料はすずめの涙程しか貰えていなかった。

母親も家計を支えるべく必死にパート先で働いていたが、白毛人が貰える給料等たかが知れている。


私が産まれた時、我が家には明日食べる食事を買う金すら無かった程だった。


そんな我が家の実情を知った私は、小学校に入ると同時に働き始めた。

大した収入にもならなかったが、私が初めて稼いだ小銭を両親に見せた時、痩せて頬骨が浮き出た両親は顔にシワを作って喜んでくれた事を今でも覚えている。


中学、高校と年齢が上がるに連れて、私は本格的にアルバイトを始めた。

学校が終わると急いでバイト先のファーストフード店に向かい、粗末な更衣室で油臭い制服に着替え、日が変わるまで働き続けた。


時折、黒毛人の上司やバイト達が面白半分に私のオシリを撫でてきたりもしたが、グッと我慢するしかなかった。

白毛人の学生が出来るアルバイトとしては、そこが一番高額な給料を支払ってくれる職場だったからだ。


だが、どれだけ一生懸命働いても、チャランポランと働く黒毛人アルバイトの半分も給料は貰えなかった・・・。



もちろん、店には多くのホムンクルスもおり、私も何人かのホムンクルスに指示を出して働いている。


だが、私の指示に従う彼女達の毛の色は全て黒で統一されている。

店先はもちろん、厨房で働くホムンクルスに至るまで、全員が美しい黒毛なのだ。


理由はもちろん、見栄えだ。


もちろん、白毛タイプのホムンクルスもいるが、人気は無い。

精々が白毛人が買う程度であり、有色毛人や黒毛人が買うことは殆どない。



・・・世界は、ホムンクルスですらも毛の色で差別しているのだ・・・。





そんな私の生活だったが、我慢して続けられたのは仲間の存在が大きい。

学校でも、バイト先でも、私と似た境遇の子達が大勢居た。

私達はお互いを励ましあい、困難を乗り越えてきたのだ。


そんな私達だったが、高校卒業前に一番の困難が待ち構えていた。

それは、就職問題だった。


法律では、毛の色で差別してはなら無いとなっているが、実際は黒毛人は優遇され、白毛人は常に苦渋をなめ続けている。

そんな私達に残された選択肢は、極めて少なかった。


白毛人の男子には、軍事工場での過酷な労働が待ち構えている。

白毛人の女子には、売春婦としての悲惨な日々が待ち構えている。


そんな絶望的な状況下において、一番マシな選択肢が「地球軍に志願する」という事だった。




ある日。

私達の高校に一人の軍人がやってきた。


その軍人は若い女性で、白毛人だった。

そんな女性軍人はニコニコとした笑顔で私の元に現れ、


「こんにちは!」


と元気良く挨拶をしてきた。

彼女は、地球軍のリクルーターだったのだ。



私と彼女は高校にある就職相談室の個室に移り、二人っきりになる。

最初の頃、彼女は取りとめも無い雑談をしたが、少しづつ話題は核心へと向かった。


彼女はカラフルなパンフレットを机の上に広げ、私に対してしきりに地球軍への入隊を勧めてきたのだ。



「私もあなたと同じ白毛人だから、あなたの苦労がよく分かるの。


学校の先生にも言われたでしょう? 卒業した後まともな仕事に就くのは難しいって・・・。

悔しいけど・・・、これが私達白毛人の現状なの・・・。


・・・でもね! 希望は残っているわ!!

それが・・・これ!!」



といって彼女は一枚のパンフレットを差し出してきた。

そこには、


「地球を! そして宇宙を愛する気持ちがあるのならば! さあ! 共に戦おう!」


という言葉と、ニカッと笑う地球軍人の写真が掲載されていた。



「確かに、軍っていうと凄く怖いイメージがあるのも分かるわ。

でもね? 実際はそうでもないのよ?


訓練といっても基本的には走ったりするだけなの。

むしろ、栄養価もコントロールされた食事が食べられるし、今よりもずっと健康的な生活が送れるのよ?


それにね? 地球軍は戦線を常に拡大し続けているって騒いでいる人も居るけど、あれは全部嘘なのよ。

基本的に地球軍は宇宙の平和を守る・・・、言ってしまえば宇宙の警察みたいなものなの。


高貴な魂を持つ地球軍は、むやみやたらに他の文明圏を犯すなんて野蛮な事はしないわ。

むしろ他の文明を尊重し、そして共存共栄の道を探る・・・それが地球軍の本当の姿なの」



そういうと、彼女は一冊の冊子を鞄から取り出した。


「でね? そんな地球軍に入隊すると、色んな特典があるのよ。


例えばこれ! 一定条件を満たせば、除隊後に大学へ通う費用を軍が用意してくれるの。


やっぱり高卒で就職するよりも、大卒で就職した方が何かと便利なのよ。

ほら! ここに大学に通っている元軍人の体験談が載っているでしょ? 少し読んでみて」



彼女はペラペラとめくってお目当ての体験談が書かれたページを指で指しながら、私に冊子を差し出してきた。

そこには、素晴らしい笑顔で軍のインタビューに答えている白毛人の青年が写っていた。



体験談には、様々な明るい未来が描かれていたのだ。


「軍の生活はそれなりに苦労もあったけど、人間的にとても成長出来ました」とか。

「軍人として過ごしている間、地球軍は本当に私の将来を考えて下さり、除隊後にはこうして立派な大学に通えています」とか。

「あと1年で大学は卒業ですが、既に私の元には大企業からのオファーが何件も届いています」とか。

「これを読んでいる君! 迷う必要は一切ないぞ! 今すぐ名誉ある地球軍に入隊するべきだ!」とか・・・。



もちろん、理解していた。

彼女の説明も、ここに書いてある様々な文章も、全てが嘘だという事を。


だが、私には選択肢が無かった・・・。


もし、ここで拒否したのなら、私に残された選択肢は一つしかない・・・。

そして、その残された選択肢を、私は絶対に選びたくない・・・。


静かに体験談を読み終えた私に、彼女はニコニコとした素晴らしい笑顔で話しかけてきた。


「どう? 地球軍の素晴らしさが理解出来た?」


その問いに、私はにこやかな笑顔で答える。



「はい。地球軍とは本当に素晴らしい組織なのですね。


是非とも、高校を卒業したら地球軍に入隊したくなりました」



その答えを聞いた瞬間、彼女の笑顔が変化する

今までのニコニコとした素晴らしい笑顔から、ニターとした粘っこい笑顔へ激変したのだ。


そして、彼女は切羽詰った様に大声で答える。


「そうよね! そうよね! その気持ち! 私も分かるわ!!


あなたの成績は事前に調べたの! 本当に素晴らしい成績ね!

これ程の優等生だったら! 地球軍でも直ぐに活躍出来るわよ!」



そういうと、彼女は鞄から分厚い書類を取り出す。


「ちょっと時間がかかっちゃうけど、この書類にサインしてもらえる?

そうすれば! 高校を卒業と同時に名誉ある地球軍人になる事が出来るの!


はい! このペンを使ってね!」


私は彼女から手渡されたペンを使い、分厚い書類にサインを始める。

次々にサインをしていく私に彼女は、



「契約書のここに書いてある事は本当に些細な事だから、気にせずにサインしても大丈夫よ」



と言って小さい文字で書かれた文章に目隠しをしながら、私にサインをするように促し続ける。



私が契約書にサインを書き始めてから暫くの間、室内にはペンを動かす音だけが響いた。

その間、彼女はジッと私の握るペン先を睨みつけるように見つめ、微動だにしない。


そんな時、小さな声が聞こえて来た。

多分、彼女も無意識で言ってしまったのだろう。


だが、私の耳には彼女の声が確かに届いた。




「・・・やった・・・やった・・・これで・・・前線に行かなくて済む・・・やった・・・」





・・・これが、彼女の本音だったのだろう・・・。

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