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国が滅ぶ時

夜。

満月が夜空を照らし、国の至る所で魔物への勝利に祝杯があげられていた時、遠くからズシン、ズシンと足音を鳴らして巨大な「何か」が城壁に接近しつつあった。


最初に気がついたのは城壁を守る衛兵だった。

祝杯に参加出来ず、寒い夜空で警備をする彼らは不満を垂れ流しながらも、これで魔物との戦いに終止符を打つことができると喜んでいたのだ。


そんな彼らが微細な振動に気が付くのを遅れた事を、誰が責められようか?

衛兵の一人がコップに入れた水に広がる波紋に気がつき、双眼鏡を手に取り外の様子を調べる。

そして、国に近づく何かを見つけると、衛兵は凍りついた。



それは、巨大な亀の様な魔物だった。



城壁を越える大きな体、巨大な岩の様な甲羅、頑丈そうな足、そして殺意に満ちた大きな瞳。

そんな巨大な亀が何匹も何匹も列を成し、国を目指して前進してくる。


・・・いや、衛兵の双眼鏡に映し出されたのは亀だけではなかった。

亀の足元には、地面を埋め尽くすが如く、大量の魔物達が城壁を目指して列を成しているのだ。


そんな地獄の様な光景を目の当たりにした衛兵は声が出せず、待機所に駆け込むと仲間達を引っ張り出し、双眼鏡で魔物の行列を見せた。

仲間達も同じく声が出せなかったが、その内の一人が駆け出し、必死になって魔物襲来を知らせる警報魔法を発動する。


発動した警報魔法は己の使命を果たし、国中に<ビービー!!>と魔物襲来を知らせるサイレンを鳴り響かせたが、人々は動じなかった。

人々は


「どうせ、祝いの席で酔っ払った衛兵が勢い余って魔法を発動させたのだろう」


と思っていたのだ。


しかし、警報は鳴り続ける。

そろそろ他の衛兵が止めに入ってもいいであろうに、耳障りな音が止まる気配は無い。

人々はざわめき


「もしかして本当に魔物が襲来したのではないのか?」


と不安になり始めた。


「馬鹿な。魔物は昼間に全滅したはずだ。他の地域の魔物が来るにしても早すぎる!」

「では何故警報が鳴り止まないんだ! これは何かあったに違いない!」


街中では宴会を続ける者、警戒し家に帰ろうとする者、本当に魔物が来たのか確認するために城壁へ駆け出す者と、様々な行動を人々は取り始める。


しかし、人々が戸惑っている間に、城壁は突破されるのだった。


巨大な亀達が城壁に突撃を開始し、魔法で強化された城壁に何匹もの亀達が体当たりする。

そんな突撃の前に、幾たびの魔物襲来すらも退けた城壁は、まるで紙が破られるように巨大な穴をあけた。


亀達は勢いそのままに穴から次々と国内に進入し、建物を破壊する。

そして、亀が開けた穴からは大量の魔物達がなだれ込む。

なだれ込む魔物を見て人々は逃げ惑い、叫んだ。


「お助けてください女神様!!」

「おい貴様! 魔王の事を女神というのか! この悪魔信仰者め!!」

「お慈悲を! お慈悲を! 女神様! 何卒お助けください!」


「魔王の報復だ!! 糞! 誰が魔物は死滅したと言ったのだ!! こんなに居るじゃないか!!」

「もう女神でも魔王でも何でもいい!! 誰か助けてくれ!!!」



人々は逃げ惑ったが、大半が建物に潰され、魔物に殺された。

一部の魔法学生や兵士達が即席の陣地を作り、必死に抵抗したが、多勢に無勢だった。

彼らは次々に殺され、即席の陣地は蹴散らされ、終に魔物達は城に迫る。


城内では近衛兵達が門を閉め、バリケードを作る。

王族は城の中心部に逃げ込み、中から幾重にも防御魔法をかけた。


門の外では生き残った国民達が必死に門を叩き、「中に入れてくれ!!」と叫ぶが近衛兵達は動かない。

そして門の外にいた人々の悲鳴が聞こえ、近衛兵達が身構えた瞬間、門は魔物の体当たりで強制的に開かれたのだ。


それからは城内も外と変わらない光景となる。


近衛兵の強靭な鎧は意味が無かった。

強力な魔法使い達も、その力を使い果たした時が最期だった。

綺麗な廊下は血と内臓で彩られ、楽団の音楽の代わりに悲鳴が響き渡る。


そして終に、王族が立て篭もる部屋の扉に魔物が殺到した。

部屋の中では優秀な近衛魔法使い達が必死に防御魔法をかけ続ける。


しかし、その防御魔法も、亀達の突撃の前には無意味だった。

亀達は部屋ごと城を踏み潰してしまったのだ。


その晩、巨大で栄華を極めた魔法国家は消滅した。


生存者は僅か数名だった。




人々の叫び、苦しみ、怒り、恐れ・・・。


様々な感情がドローンを通して、私の体に流れ込んで来る。

それを私は自室の椅子に腰掛けながら感じ取る。


「・・・安心するといい。

君達はしっかりと生きた。

もし、あの世があるとするならば、そこで胸を張って「私は人生を謳歌した」と宣言するがいい。


君達は最期の瞬間まで潔く生きた。

君達は最期の瞬間まで生き物として誇りを持って生きた。

君達は最初から最期まで、宝石の様にキラキラと輝いた人生を送った。


君達がこの世界に産声をあげた瞬間から一瞬も目を逸らさずに見てきた私が言うのだ。

この事実は、誰であろうとも否定出来まい」



私は椅子から立ち上がり、燃え盛る国を感じながら拍手をした。


魔物に踏み潰された死体が重なる大通り、骨まで燃えてしまった焼死体、鎧と共にグチャグチャになった兵士達の死体・・・。


それらを感じ、私は感動に震えながら頬を湿らせ、拍手を続けた。

この光景は彼らが必死に導き出した一つの結果であり、そして「人生」という行為の儚くも美しい結晶なのだ。


拍手は一年間続き、私は彼らの誇らしく、そして生き生きとした人生を祝福し続けた。





世界最大の魔法国家が崩壊し、世界の均衡は狂った。

世界中の国々は魔王を生かしておいては世界が滅ぼされると考え、魔王討伐を再開する。


しかし、前回の様に大勢の軍隊を派遣するだけの力はどこの国にも残されていない。

魔法国家を滅ぼした魔物達は他の国にも進撃を開始したのだ。

流石に魔物は世界中に散った為、一晩で国が滅ぶ様な事は無かったが、それでも脅威である事に変わりは無い。


人々は魔物の居ない世界を求め、魔王討伐に全てをかけた。

そして魔王討伐の特殊部隊が編成される事になる。

人員は僅か数名ではあったが、全員が名の知られた実力者達だった。


大きな魔法剣を持つ屈強な騎士は「常勝無敗」として知られる世界最強の騎士である。

魔法使いの老人は、たった一人で数万の魔物を葬った実力者だ。

癒しの力を持つ少女は、死者すらも蘇生出来るという。

魔物達が蔓延る土地で遺跡荒らし行為を繰り返していた女盗賊も、その知識や経験を生かす為に特殊部隊に参加した。

そして、人々を魔物から開放し、真の平和を取り戻すという誰よりも高貴な魂を持つ青年が隊長となったのだった。


彼らは各国が最期の切り札として大切にしていた人員だ。

それすらも各国は出し合い、新人類最強の特殊部隊を作り出した。

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