「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」
なんという事だ・・・。
私は魔王になってしまった・・・。
私は長い間、彼らを観察してきた。
時折彼らの前に姿を現しはしたが、危害を加えるわけでもなく、ただ見続けてきた・・・。
そんな私を彼らは女神と呼んでいたのに・・・・。
何の証拠も無いのに・・・、彼らは私を魔王と呼ぶのか・・・。
「なんて・・・、なんて凄いんだ!!」
「彼らはついに神に対して反抗を始めた!」
「まさか! ここまで成長するなんて!!」
私は感動に震え、嬉し涙が止まらなかった。
もちろん宗教関係者達は会議の結論に激怒し、猛烈に反対する。
「女神様がそんな事をするはずが無い!!」
「女神様のお陰で我々の平和は保たれているのだ!!」
「魔物は別の要因で発生しているに違いない!! 女神様に楯突く貴様らこそ魔王なのだ!!」
「聖書には女神様が人類を導き、この世界に連れて来て下さったと書かれている! 会議の決定は天に唾を吐く行為だ!!」
そして、教会側の軍隊と各国の連合軍の間で戦争が勃発する。
女神教を信仰する信者と教会の騎士が力を合わせ、各国の連合軍と戦ったのだ。
それは世界中に広がり、戦場では積極的に巨大な魔法が使われた。
もちろん長期間に及んだ戦争の影響で、魔物は世界中で増え、更に凶暴化していく。
この大戦争は最終的に連合軍が勝利し、神の島・・・いや、もうこの頃には魔王島と呼ばれていたな・・・、魔王島へ向けて進撃が始まったのだった。
それは巨大な艦隊だった。
各国の軍がお互いに手を取り合い、強敵に立ち向かう・・・。
これが映画だったら良くあるストーリーで感動も薄いだろうが、その強敵とは私なのだ。
もはや文字に表現できない激情が体を駆け巡った。
私の細い指先の細胞まで感情を持っているようだ。
無機質な人工島が輝いて見える。
一歩一歩、歩くだけで私という存在が実感出来る。
これほど私という存在を感じたことは今まで無かった。
今、私と「私」は存在している。
しかも新人類に敵対する魔王として存在している。
そして、彼らは私を倒そうと必死に船を進めている。
軍人達は暗い船内で巨大な魔導大砲の整備をしている。
魔石の数を数え、魔導砲弾の数を数えたり整理をしている軍人もいる。
魔法を動力とする巨大な戦艦を何人もの魔法使いが操り、魔王島へ向けて全力で進んでいく。
皆、まだ見えない魔王島に殺意と敵意を向けている。
その感情が私を貫く。
「あああ!!! なんて素晴らしいんだ!!
彼らはどんどん成長していく!!
魔王たる私を全力で殺そうとしている!!
彼らの憎しみが! 悲しみが! 怒りが!!
私を貫いていく!!」
失神する程の喜びが私の体を駆け巡った。
数日して艦隊は人工島にたどり着いた。
たどり着くと同時に猛烈な攻撃が始まる。
大砲、魔法、軍人による銃撃、小型ボートに火薬を満載しバリヤーに自爆攻撃をしてくる軍人もいる。
その全てをバリヤーがはじき返す。
私はまるで花火のような攻撃を広場から眺めている。
朝も昼も夜も関係なく、彼らは全力で攻撃している。
持てる全ての力を極限まで出して攻撃を継続している。
「それは全て! 私を殺すため!!
私を殺すため!! 新人類は協力している!!
今まで敵対していた国家が和平を結び!! 同じ戦場で戦っている!!
人種を越えた友情が生まれている!!
年齢も性別も国家も種族も関係ない!!
新人類は今一つになった!!
私という魔王を殺すために!!」
私の興奮は収まる事が無かった。
「あああ!! これほど愉快な事があるだろうか!?
生まれて何万年も生きてきた!
ここまで時間が愛おしいと思えた事があっただろうか!?
ここまで他者が愛おしいと思えた事があっただろうか!?
ここまで私が私を認識できた事があっただろうか!?
魔物に親を殺された子の憎しみが!!
恋人を殺された怒りが!!
全てを失った悲しみが!!
私の足を! 手を! 胸を! 頭を! 心臓を!! 全身を貫いていく!!
素晴らしい!!素晴らしい!!
もっと! もっと! 感情を私にぶつけてくれ!!
もっと! もっと! 美しい姿を見せてくれ!!
もっと! もっと!! 狂おしい程に愛おしい姿を見せてくれ!!」
私は花火のような攻撃をされている人工島で踊り続けた。
バリヤーの出力を落とし、彼らの感情を五感全てで感じた。
爆発の閃光をライトに、爆音をBGMに、振動をパートナーに、彼らの殺意敵意を観客に、歌い、踊り続けた。
攻撃は2週間も続いたが、それだけ攻撃してもバリヤーには傷一つ付いていない。
彼らは魔王討伐を諦め、撤退を開始した。
汗を流し、息を切らし、喉をからして広場で一人、歌い踊り続けていた私は艦隊の撤退を知ると岬に向けて駆け出した。
そして岬から撤退する艦隊に向けて、微笑みながら小さくお辞儀をしたのだった。
そんな私を彼らは見ていた。
その顔には表情がなかった。
ただただ、私をジッと見ていた。
撤退する彼らに私は小さく手を振った・・・、振り続けた。
水平線の彼方に艦隊が姿を消し、艦隊が港に着き、軍人達が家に帰り、全員が家族に己の無事を伝え終えるまで、私は手を振り続けた。
手を振る最中、私は青虫を思い出していた。
一番最初に観察した青虫。
彼は必死に生きた。
必死に葉っぱを食べ、必死にさなぎになり、必死に羽化し、必死に空を飛び、必死に番になり、必死に次の世代を遺し、そして死んだ。
美しかった。
どんな絵画よりも、どんな彫刻よりも、どんな音楽よりも、どんな映画よりも、ずっとずっと美しかった。
今、私は青虫と同じく、とても美しい彼らを観察している。
必死に生きあがく彼ら新人類は、とてもとても美しい。
泥の中を這いずり回り、顔が汚れる姿が美しい。
己を殺そうとする存在に対して、必死に命乞いをする姿が美しい。
泣き喚き、己の最期を知る姿が美しい。
彼らのどのシーンも全てが美しく、輝いている。
ああ、彼らはこれからどうしたいのだろうか?
ああ、彼らはこれからどうなるのだろうか?
私は全てを観察しよう。
どんな事を言われても。
どんな事をされても。
どんなに愛され、どんなに憎まれても。
……そう……、……たとえ………、
「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」
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