表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/98

魔物との決戦

新人類が魔法を完成させて浮かれていた時。

世界に異変が起こり始める。



最初に異変が起こったのは、辺境の小国だった。



ある日の昼下がり。


魔物を監視する為に建設された監視塔から見張りの兵士がのんびりと魔物が住む森を眺めていた。

すると、遠くで土煙が上がっている事に兵士は気が付いたのだ。


不思議に思った兵士は、千里眼魔法を使い土煙を詳しく調べる。

そして土煙の正体を知った瞬間、彼の目は大きく開かれ、恐怖から汗が噴き出し、全身がガクガクと震え始めるのだった。




「た!! 大変です!!」


血相変えた兵士が飛び込んだのは、この国の国防軍司令官が居る部屋だ。

丁度その時、書類仕事をしていた司令官は飛び込んできた兵士に驚き、


「何だ騒々しい奴だな。


まったく・・。

お前さんが驚かせるから、ハンコが少しずれてしまったではないか」


と呆れ顔で答える。

しかし、兵士は謝罪するわけでもなく、大声で叫んだ。


「魔物が!! 魔物が!!

我が国目指して侵攻を開始しています!!」


そんな事を聞いても、司令官は落ち着いていた。


「何だ、またか。

どうせ中型が何匹か来たんだろ?


落ち着け落ち着け、城壁は突破できんよ」



そんなノホホンとした司令官に対して、兵士は迫り来る魔物の詳細を報告する。



その報告を聞いた途端、司令官の手の中からハンコが転がり落ちた。





既に新人類が使う魔法は魔力カスを殆ど出す事が無くなっており、各国周辺には魔力カスが殆ど残っていない。

その為、空腹に耐えかねた大型魔物達が各国を目指して進撃を開始したのだ。


この事態に一番最初に遭遇したのは、辺境も辺境に存在する小国だった。



人口が少ない小国周辺には、昔から魔力カスがそれ程存在していない。

そこに拍車をかけるように、開発された新型魔法によって小国周辺に存在していた魔力カス濃度が極端に低下してしまったのだ。


その為、国から少し離れていた場所で生活していた大型魔物達は栄養としている魔力カスを失ってしまった。


最初の頃は中型魔物を食べて空腹を凌いでいた大型魔物達だったが、最近はそれすら難しい。

そこで彼らは本能的に動き出したのだ。


彼らは、


(人間が不思議な力を使えば、この空腹も消え去る)


と本能で理解していたのだ。



その結果、体長が20メートルを越す巨体を誇る大型魔物達の群れが人間の群れが居る場所・・・。



つまり、国を目指して進撃を開始したのだった。




大型魔物が迫り来る小国の城壁上部には、大勢の軍人達が整列している。

彼らはこの国が有する国防軍であり、現在その総戦力が城壁上部に集結しているのだ。


整列している軍人達は全員が顔を強張らせ、ガチガチと音を奏でる歯を必死に押さえ込もうとしている。


そんな彼らの前で、司令官が大声を出した。


「諸君!! 今こそ! 我ら国防軍の実力を発揮する時だ!!


我が国に魔物どもが押し寄せている!

相手は今まで戦ってきた中型ではない!! 大型だ!! 大型の魔物だ!!


連中の侵攻を放置したら! こんな薄い城壁は簡単に突破されてしまう!!

この城壁こそが! 最終防衛線だ!! ここを突破されたら!! 国内は地獄となるのだ!!


全員が殺される!! お前達の愛する家族も!! 恋人もだ!!

必ず! ここで食い止める! 魔物どもを必ずここで倒すんだ!!


その為の力が我々にはある!!


総員!! 臆するな!!

訓練通りに戦うんだ!!


必ず! 必ず! ここで食い止めるんだ!!」



司令官の訓示が終わると、各部隊が配置についた。

全員が杖を構え、一部の部隊は大型の魔導具へ魔力の充填を開始する。



全軍が戦闘用意を完了した直後、地面が少しずつ振れ始めた。


振動は徐々に大きくなり、まるで地震の様な振動が大地に広がる。

そして「ドドドド・・・」という大きな音が聞こえ始めた。



「・・・来たぞ・・・」



その地鳴りを聞いた軍人達は覚悟を決め、杖を強く握り締める。




最初に現れたのは中型の魔物達であった。

どうやら彼らは狂った様に迫る大型魔物に追いかけられ、必死に逃げているようだ。


しかし、杖を構える軍人達にそんな事は関係ない。

魔物達が攻撃魔法の射程内に入ると同時に攻撃は開始され、様々な攻撃魔法が中型魔物に襲い掛かる。


いきなり前方から攻撃を受けた中型魔物達は、全身から血を噴出してバタバタと倒れていく。

僅か数分で中型魔物達は全滅したが、これは前哨戦に過ぎない。



本番は、それから僅か1分足らずで現れたのだ。



それは・・・、まるで「壁」だった。

巨大な肉の壁が、土煙を上げながら迫って来ているようだった。



あまりの迫力に軍人達は一瞬呆気に取られるが、直ぐに我に返り、必死に攻撃魔法を放つ。

放たれた攻撃魔法は魔物に直撃し、彼らの体を抉り取る。


しかし、魔物達は止まらない。

体長20メートルを超えるような巨体を止めるには、まだまだダメージが足りないのだ。


軍人達は必死になって杖に魔力を流し込み、攻撃魔法を放ち続ける。

次第に魔法を使い過ぎて杖が赤熱し始めると、軍人達は使えなくなった杖を放り投げ、予備の杖を使って攻撃を続ける。


軍人達は額から汗を噴出しながらも必死に戦っているが、必死なのは軍人だけではない。

小国に住む人々は誰もが必死になって生き残ろうと戦っているのだ。



一般市民は予備の杖に魔力を充填し、充填が終わると軍人達に手渡す。

軍を退役していた予備役も、支援魔法を駆使して前線で戦う軍人達を支援している。

魔石屋からは大量の魔石が回収され、大型魔導具に魔力が充填されていく。



そうした人々の努力の甲斐もあり、大型魔物達は徐々にその勢いを失っていった。

彼らは全身から血を噴出し、骨を折り、内臓をむき出しにしながら絶命していくのだ。


そんな様子を見て、司令官の顔も少しだけ柔らかくなる。


(あと少しで勝利出来る)


彼は、そう考えていたのだ。




しかし、大型魔物の群れの最後尾から現れた魔物を見て、司令官も軍人も、そして国に住む全ての人々も言葉を無くした。




群れの最後尾から現れたのは、一匹の岩亀だった。




現れた岩亀は他の大型魔物よりも一回りは大きい体をしている。


体長30メートルを超えているであろうその岩亀は、クリクリとした可愛らしい巨大な瞳で城壁を視認すると、一瞬歩みと止めた。

そして大きく鼻から息を吐き出し、ズシンと一歩大きく歩みだしたのだ。


その歩みは徐々に早くなり、次第に土埃を上げながら城壁目指して突撃を開始する。

巨大な地響きを撒き散らし、岩亀は進路上に存在している全ての障害物を弾き飛ばしながら大地を駆ける。


岩亀の進路上に存在していた中型魔物の死体は踏み潰され、大型魔物は空中に吹き飛ばされ、地面に設置されている対魔物用の地雷魔法すらも消し飛ばし、岩亀は城壁を目指して突進する。



そんな岩亀に攻撃魔法が降り注ぐ。

城壁の上に居る軍人達は、全力で岩亀に攻撃を開始したのだ。


しかし、岩亀には効果が無かった。

岩亀は首を甲羅に引っ込め、分厚い甲羅を前面に出すように疾走する。


こうなったら普通の攻撃魔法ではダメージを与える事は出来ない。

軍人達は必死になって岩亀の足を狙い、少しでも速度を落とそうと懸命に攻撃を続ける。


司令官の額から脂汗が流れ、軍人達が己の死を覚悟した・・・まさにその時だ。


「魔力充填完了しました!! 撃ちます!!」


という叫び声が、司令官の耳に届いた。



そして次の瞬間、一筋の光りが岩亀を貫いた。





賢者の国では、様々な魔法技術が生み出されている。

日常生活で使える魔法や医療魔法、建築魔法や調理関係の魔法も日々研究されているのだ。


そんな賢者の国で最も予算が与えられている研究が、軍事関係の魔法技術だ。

長年に渡り膨大な予算と人員資材を与えられている軍事関係の魔法技術は、既に他国を寄せ付けないレベルに達しており、日々新型の魔道兵器が生み出されている。


そんな賢者の国で昔から作られている魔道兵器の一つに「貫通魔導兵器」という物がある。

この兵器の売りは「どんな物でも貫通します」という物だ。


この魔導兵器は、大昔に女性学者がどこからか引っ張り出してきた魔導具を参考にして作られている。

消費する魔力が膨大ではあるが、計算上は山すらも貫通する事が出来るのだ。


そんな魔導兵器は賢者の国で伝統的に開発が続けられており、今ではそれなりに安価な値段で購入する事が出来る。

その結果、大国は元より辺境の小国であっても貫通魔道兵器程度なら持つ事が出来るようになっていた。


そんな貫通魔道兵器が放った貫通魔法が、岩亀を貫いたのだ。


貫通魔法が岩亀の甲羅を貫いた瞬間、岩亀は動きを止めた。

そして岩亀は甲羅に引っ込めていた首を伸ばし、クリクリした瞳で己の甲羅に開いた大きな穴を、


「信じられない」


と言わんばかりに見つめ、大きな口をポカンと開ける。



そして徐々に甲羅に開いた大穴から大量の体液が噴き出し始めると、岩亀は今まで聞いたことも無いような絶叫を発し、その場でゴロゴロとのた打ち回る。



そんな岩亀に何発もの貫通魔法が襲い掛かる。

貫通魔法は岩亀の足を吹き飛ばし、甲羅にいくつも穴を開け、最後には首のど真ん中に大穴をあけた。


全身穴だらけになった岩亀が絶命したのは、それから直ぐの事だった。

巨大な岩亀が動かなくなると、城壁に居た軍人達が歓声をあげる。


「や、やったぞ!! 俺達が岩亀を倒したんだ!!」

「信じられるか!? こんな辺境軍が岩亀を倒したんだぞ!?」


「夢か!? これは夢か!?

まさか俺は死んでたりしないよな??!!」

「おい気を抜くな!! まだ大型魔物は残っているぞ!! 攻撃を続けるんだ!!」


「貫通魔法はまだ数発撃てるぞ!! 残った分を全て他の魔物どもにプレゼントだ!!」


「よぉぉぉぉぉし!! 

総員!! 撃ちまくれぇぇぇ!!!」


岩亀を倒した後も戦闘は続いたが、それは単なる消化試合に近い物であった。


何の指揮系統も無く、ただ本能に従って突撃してくる魔物など、軍隊にとってはただの的でしかない。

軍人達が攻撃魔法を放つと、魔物達はバタバタと倒れていき、戦闘は短時間で終了した。



この戦闘をきっかけにして、世界中で「魔物狩り」が始まる。



新しく開発された魔法は、いくら使おうが魔物を生み出すことは無い。

各国の軍隊は様々な攻撃魔法を駆使して魔物を殲滅していき、次第に世界から魔物の姿は消え去り始めた。


そうなると、魔力臓器を切除していない人々も気楽に城壁外へ行けるようになる。


その結果、各国周辺の土地は開拓され、大勢の農民が狭い国内から飛び出して行く。

最早、魔物から国民を守る必要の無くなった各国は、率先して開拓民を募集して国土を広げ続けた。


対大型魔物用の分厚い城壁は次第に取り払われ、城壁は対攻撃魔法用の薄い城壁だけとなる。

そして、そんな薄い城壁は年々広がり続けるのだった。


評価していただけると、ランキングに載って大勢の人に作品を見ていただけます。

よろしければ、評価していただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ