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耳長族の魔法

青年が森の奥を目指して進んでいる時、長族の集落では人々が集まり始める。

そして、彼らは様々な呪文を唱え始めたのだ。



森の奥で耳長族がそんな事をしているとは露知らず、青年は測定器を見ながらドンドン森の中を進んでいく。

すると、青年の周りで異変が起こり始めた。



地面はグニャグニャと動き始め、徐々に巨大な土の手が現れる。

木々は騒がしく動き始め、太い幹をムチのようにしならせる。

そして、大きさの岩で作られたゴーレムまで接近して来たのだ。



青年は急いで周囲に展開している防御魔法を分厚くし、魔力カス測定器を使って周辺の魔力カス濃度を調べた。

しかし、いくら測定しても、青年の周辺には青年が使っている防御魔法から発生した魔力カス以外存在しないのである。



青年が防御魔法の中で忙しそうに魔力カスを測定していると、ノソノソと接近して来た巨大な岩ゴーレムが、その大きな拳を振り上げた。



この岩ゴーレムは、ブタ族や大規模な軍隊を葬ってきた耳長族自慢のゴーレムだ。


岩ゴーレムの一撃の前には、どんな分厚い盾や鎧も意味は無い。

完全武装した軍隊ですら、岩ゴーレムには勝てなかったのだ。



(ただの服を着ているガキなど、この一撃で押し潰されてしまうに違いない)



森の奥で岩ゴーレムを操っていた耳長族は、ほくそ笑む。



そして岩ゴーレムが拳を振り下ろした次の瞬間、巨大な岩の拳が青年の展開している防御魔法に直撃し、彼らの周囲には大量の土煙が舞う。

そして大量の土煙が晴れた時、そこにはペシャンコになった青年の死体がある・・・筈だったのだ。



しかし、



「これが伝承にあった岩ゴーレムか。


攻撃力は大した事はないし・・・、意外と脆いな」




土煙が晴れた時、青年はその場に無傷で立っていた。


いや、それだけではない。

青年を殴った岩ゴーレムの拳は砕け散り、殴った側の腕は短くなっていたのだ。



青年の無事を知った耳長族は驚愕し、オロオロとうろたえ始める。


「どういう事だ!! 何故あいつは無傷なんだ!?」

「確かに当てたよな? 外してないよな?」


「そもそも!! なんで拳が壊れているんだ!

あの拳がどれだけ硬いと思っているだ!」


「こ、これは偶然だ!! 偶然に違いない!!」

「そうだな! まぐれだ! それ以外考えられない!」


「おい! 他の岩ゴーレムも攻撃を開始しろ!!」



そして彼らは急いで呪文を唱え始め、他の岩ゴーレム達を操り始める。

更に、岩ゴーレム担当以外の耳長族も木の幹を動かし、土の手を操り攻撃を開始した。



森の中は、一気に騒がしくなった。



何体もの岩ゴーレムが青年を取り囲み、何度も何度も拳を振り下ろす。

上空では大きな幹がしなり、青年の頭を吹き飛ばそうと幹を振り回している。

青年の足元に生えている草も、青年の足に絡み付こうとウネウネと動き回っている。



それらは耳長族の必死の攻撃だったのだが、どんなに攻撃しても青年には傷一つ付かない。


いや、むしろ青年は喜んでいた。

ついに、魔導具が魔力カスを検知することに成功したのだ。


更に、広範囲を探索魔法で調べる事によって、魔力カスがどこから発生しているのかも突き止める事が出来た。



(やっと見つけた。

この魔力カスの発生源に、耳長族の集落があるに違いない。


これ程の魔法を使いながらも、殆ど魔力カスを生み出さないとは・・・。

商人達の噂は事実のようだ。


恐らく、彼らの魔法は我々が使っている魔法とは違う種類なのだろう。

・・・しかし、どうやったら魔力カスを殆ど出さずに魔法が使えるのか?)




「これは・・・、絶対に調査せねばなるまい・・・」




青年は瞳の中で研究者魂を燃やし始める。

最早、こんな場所でマゴマゴしているのは時間の無駄だった。


すると青年は杖を構え、魔法陣に魔力を流し始める。

そして杖は青年の命令に従い、周辺に強力な攻撃魔法を放った。



それは、一瞬だった。


青年が一瞬光ったと思うと、岩ゴーレムも、土の手も、動いていた巨木も、みんな吹き飛んだ。



岩ゴーレムは空中でバラバラになり、ただの岩に戻ってしまった。

土の手も同じく、ただの土となって大地に戻った。

吹き飛んだ巨木は遥か遠くまで飛んでいき、地面に深深と突き刺さった。



攻撃魔法は青年の周辺にあった全ての物を吹き飛ばし、森の中に平野を作り出したのだ。



敵が居なくなったことを確認した青年は、魔力カスの発生源目指して前進を再開する。

そんな青年を監視していた耳長族の集落は、大変な騒ぎとなっていた。



「なんとしても! あのガキを殺すんだ!」

「ではどうするというのか!? もう一度岩ゴーレムで攻撃をするというのか!?」


「あやつは我らの神聖なる森を吹き飛ばしたのだぞ!

必ず始末しなくては! ご先祖様に申し訳が立たない!」


「そもそも、あのガキは何をしたんだ?

我らの魔法に近い物のように見えたが・・・」

「馬鹿な! 魔法は我らしか使えぬ秘術だ!

森の外の住む蛮族共に使えるはずが無い!」


「おい! あいつは真っ直ぐ集落目指して進んでいるぞ!!」

「何!? ほ、本当だ!

どうやって集落を見つけたんだ!?」


「急いで皆を集めるんだ!! 総力を挙げて攻撃しなくては!!」



それから彼らは集落に住む全ての人々を集め、総力を挙げて青年に攻撃を仕掛けることにした。





耳長族の集落目指して進んでいた青年は、探索魔法を使って周囲を調べていた。

すると、巨大な「何か」がかなりの速度で迫っている事に気がついたのだ。



「ん? 今度は何だ?」



青年が「何か」に気がついてから僅か1分程度で、その「何か」は現れた。



それは、岩で作られた巨大な鳥だった。

先程の岩ゴーレムとは違い、その岩鳥は巨大な岩で出来た翼を羽ばたかせ、悠々と空を飛んでいるのだ。


これには流石の青年も驚いた。


「何て事だ・・・、これは今研究されている最新の攻城ゴーレムそっくりじゃないか。

耳長族は、こんな物まで持っていたのか」


青年が暢気に感心している時、岩鳥はその大きな嘴またはクチバシを開き、爆音に近い鳴き声を発する。


<コケコッコオオオオオオオオオ!!!>


その鳴き声は衝撃波となり、青年に襲い掛かる。

青年は急いで杖を掲げ、最高レベルの防御魔法を己の周囲に展開した。


岩鳥が発した衝撃波は地面を吹き飛ばし、川の水を消し飛ばし、木々を粉砕しながら青年に接近する。

青年は歯を食いしばり、杖を握り締めながら岩鳥を睨みつける。


衝撃波が青年を捕らえると、青年は衝撃波で吹き飛ばされた。


しかし、青年は空中で姿勢を立て直し、足元に防御魔法を展開する。

青年は展開した防御魔法を足場代わりにしてジャンプすると、岩鳥から大きく距離を取った。


青年が無事を知った岩鳥は、再度、クチバシを大きく開く。

その瞬間、青年は杖を掲げ叫んだ。


「今だ!!!」


青年は岩鳥がクチバシを開けた瞬間を見逃さず、クチバシの中に強力な防御魔法を展開する。

次の瞬間、岩鳥は大爆発を起こしてバラバラになり、空から岩が雨の様に降り注いだのだ。


何故、岩鳥は吹き飛んだのか?

その理由は単純だ。


青年が防御魔法をクチバシの中に展開した事に気がつかなかった岩鳥は、先程と同様に強力な衝撃波を放ってしまった。

その為、岩鳥が放った衝撃波はクチバシの中に展開された防御魔法に阻まれ、行き場をなくしてしまう。

行き場を無くした衝撃波は圧縮され、そして爆裂したのだ。




青年は降り注ぐ岩鳥の残骸の雨を眺めながら、次は何が来るのかワクワクしていた。

そんな青年の瞳には、無邪気さすらあった。


・・・しかし、青年の期待を裏切る様に、耳長族の抵抗はこれで終わった。

この岩鳥が、耳長族最強の戦力だったのである。


その「最強戦力」が僅か数分で撃破された事を知った耳長族は、全員がヘナヘナとその場に座り込んでしまった。




耳長族は驕りすぎていたのだ。


彼らは新人類で初めて魔法を生み出した種族だ。

彼らしか魔法を使えない時代において、彼らは最強の存在だった。


だが、それがいけなかった。

最強となってしまった彼らは外の世界に住む人々を野蛮人と見下し、一切交流をしなくなってしまったのだ。


その結果、外の世界で魔法が開発された事も、その魔法が自分達が使う魔法よりも高性能になった事も、彼らは知らなかった。


もちろん、彼らも森の中で自分達の魔法を進歩させてはいる。

岩ゴーレムは初期の物よりも性能は飛躍的に向上しているし、岩鳥も最近開発されたばかりだ。


だが、外の世界の魔法技術の進歩はそれ以上だったのだ。




最後の希望であった最強戦力を失った耳長族に、残された選択肢は無かった。


耳長族の長老は女子供を森の奥に逃がし、男達を集める。

そして男達に狩猟用の弓を持たせ、集落の入り口で青年の到着を待つのだった。

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