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魔力カスの発見


女性学者がこの世を去った後も、賢者の国では様々な研究が続けられている。


そんな中、特に重要視されていたのは、


「何故、魔法が魔物を生み出すのか?」


という研究だった。


既に世界では、


「魔法を使う事で普通の動物が魔物になる」


という事は常識となっていた。

しかし、どういう原理で魔物になるのかは依然として謎のままだったのだ。


だが、時代が進めば実験機材も進歩する。

長い長い時間をかけて、彼らは終に「魔力カス」の存在を見つけ出す事に成功した。


それと同時に、現代魔法の魔力変換効率が極端に悪い事も判明する。

その事実を知った賢者の国は、数世紀も歴史の表舞台から消えている耳長族が住む森まで行くことにしたのだった。





既に、世界では魔力臓器を切除した商人が行き交い、様々な貿易が行われている。

そんな商人の間で、とある噂が流れたのだ。



「耳長族が住むと言われる森の周辺に魔物は存在しないし、過去にも魔物が居た形跡が無い」



そして噂は、商人を経由して賢者の国の中枢にも伝わった。


しかし当初、学者達は噂を信じていなかった。

彼らは、


「魔法を使えば、魔物は必ず生まれる」


と確信していたからだ。


しかし、改良された研究魔導具によって魔力カスの存在が証明されると、ある仮説が生まれる。


「ひょっとしたら、耳長族が使っている魔法は魔力カスが殆ど発生しない魔法なのではないだろうか?」


この仮説には賛否両論あったが、最終的に各地に存在する耳長族が住むという森に研究員を送ることとなった。





賢者の国から大分離れた巨大な森の前で、大きな魔法車が停車する。

そして魔法車からは、一人の青年が下りてきた。


巨大な木々が視界を尽くす大きな森を見て、青年はポソリと呟く。


「この森に、耳長族が住んでいる可能性があるのか・・・」


彼は、賢者の国から派遣された研究員の一人だ。



会議の結果、賢者の国は各地に研究員を送り込むことが決定した。

しかし、数世紀も歴史の表舞台から姿を消している耳長族の住処を探し出す事は容易ではない。


そこで国の上層部は、


「下手な魔法も数撃てば当たるだろう」


と考え、大量の研究員を世界中に派遣する事にする。

先ほど魔法車から下りてきた青年も、大量に派遣された研究員の一人だ。






「よーし、ここまで近づけばもういいだろう。


そろそろ魔導具を起動しようかな」



青年は独り言を呟くと、搭載された魔導具の起動作業を開始した。




数時間後。



魔法車はハリネズミのように、何本ものアンテナが突き出していた。

この魔法車は今回の派遣の為に作られた専用車であり、魔力カスの測定に特化しているのだ。


もちろん、特殊なのは車両だけではない。

個人で持ち運びできる機材も、大半が魔力カスを測定する専用魔導具だ。



賢者の国は、本気で耳長族を調べようとしているのだった。




起動作業が終わって数時間後。

既に辺りは暗闇に包まれていた。


本来、この時間帯は魔物が活発に活動する時間なのだが、周辺から魔物の鳴き声は聞こえない。

時折、狼の遠吠えが聞こえる程度である。


青年は魔法車の窓から森を眺め、周辺を調べるために探索魔法を使う。

だが、いくら探索魔法を使っても魔物は見つからない。


青年は魔法車の魔導具まで起動し広範囲を調べるが、いくら調べても魔物は一匹も居なかった。


そして青年は、魔導具が吐き出すデータを眺めながら思案する。



(やはり魔物は居ないか。

可能性としては二通りあるな。


もっとも可能性が高いのは、


「この森には耳長族が住んでいない」


という可能性だ。


誰も住んでいないなら魔法を使う者が居ないわけだから、魔物が発生する筈が無い。

ここは他の国からも大分離れているし、他所から魔物が来る可能性も低い。


そしてもう一つの可能性は、


「耳長族が使う魔法は魔力カスを出さない」


という可能性だ。


これは相当低い可能性だな。

賢者の国では何度も魔法の効率を上げようと研究したが、精々30%程度の変換効率しかなかった。


耳長族の魔法がどの様な物かは分からないが、基本的に魔力を魔法陣に流して、呪文を唱えて魔法としているのだろう。

正直、そこまで変換効率に違いがあるとは思えない。


・・・まあ、もしこの森に耳長族が居なくとも、他の研究員が耳長族に会うことが出来れば問題無いだろう。

そこまで気張る事無く、しっかりと調査しよう)




そして青年は明日の調査準備を終わらせると、魔法車の床に簡易ベッドを置いて寝る事にした。



・・・そんな魔法車を、いくつもの「目」が深い深い森の奥から見ていた。


魔法車に「視線」が集まった瞬間、魔法車の魔力カス測定器が僅かな魔力カスを検知して少しだけ目盛りを動かしたが、それに青年は気がつかなかった。






翌朝。

青年は朝日が昇ると同時に起き出し、森へ行く準備を始めた。


彼は背中に魔力カスを測定する魔導具を背負い、腰には最悪の事態を想定して攻撃魔法を使える杖を刺している。


そんな青年が着ている服も、ただの服ではない。

一見すると普通の作業服なのだが、実際は防御魔法が施された最新の戦闘服だ。


何故、青年がこれ程までに戦闘準備をしているのか?

それは、賢者の国の調査チームが過去の耳長族に関する伝承を調べた結果、どうやら耳長族は他種族を見下している可能性が高く、他種族が森に進入した場合には容赦なく攻撃してくることが予想されたからだ。



青年は実験機材の最終チェックを済ませ、杖の魔法陣に欠損がないかを調べる。

そして不具合がない事を確認すると、彼は森の入り口に進んだ。




青年が森に入ってから数時間後。


森の中は昼間だというのに薄暗く、地面はぬかるんでいる。

見たことの無い虫が青年の周りを飛び交い、時折、枝の上からヒルまで落ちてくる。


青年は己の周りに薄く防御魔法を展開し、虫に刺されないように注意しながら森を進んだ。




(伝承によると、耳長族は森の中心部に住んでいるらしい。

「らしい」というのは、耳長族の集落まで辿り着けた者が殆ど居ないためだ。


耳長族が初めて魔法を生み出した後、様々な国家が彼らの集落に使者を送って魔法を教わろうとした。

しかし、どの使者も帰って来なかったらしい。


最終的に各国は軍隊を派遣し、耳長族から強制的に魔法を奪おうとした。

だが、結局どの国の軍隊も皆殺しにされてただけだった。


どれだけ大規模な軍隊を送ろうとも、結果が変わる事は無かった。

その為、どの伝承を調べても、耳長族の集落がどこにあるのかすら分からないのだ)




青年は森の中で迷わないよう、定期的に探索魔法を使い、地図を作りながら進み続けた。


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