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女性学者の幸せな人生

元亡国が国として運営を開始してから、数十年が経った。

既に亡国は「賢者の国」と呼ばれ、世界中の知識人達が集まる魔法技術大国となっている。


今日も至る所で様々な研究が続けられている。

今日も世界中の知識人達が、最新の魔法技術を学ぼうと入国してくる。

今日も世界中の商人達が、新作の魔導具を求めて世界中から集まってくる。


そんな賢者の国を作るきっかけを生み出した女性学者は、この時、既に老人となっていた。

彼女の金髪は既に全てが銀色になり、フサフサとした自慢の尻尾も輝きを失っている。


そんな彼女は今、病院のベッドで静かに横になっている。


彼女の周りには大勢の人々が集まり、中には涙を流す者までいる。

集まった人々は彼女の子供や孫、友人達だ。


彼女は世界に真実を広げた後も賢者の国で研究を続けた。

そして研究の最中に、とある男性研究員と恋仲になり、結婚して子をなした。

子供はスクスクと育ち、気がついたら立派な魔法研究者となっていたのだ。


彼女は幸せだった。


大好きな研究に没頭できる環境。

温かな家庭を持ち、仲の良い友人に囲まれる生活。


そして、荷物持ち魔物やホムンクルスの少女と集まり、一緒に過ごす時間は何よりも楽しかった。



そんな彼女も、人生に幕を下ろす時が近付いていた。


ベッドの脇には綺麗な服を着たホムンクルスの少女が寄り添い、大粒の涙を流し続けている。

暴れないように檻に入れられた荷物持ち魔物も、心配そうに窓から建物の中を覗き込んでいる。



既に、女性学者にはベッドから起き上がる力は無い。

いや、もう彼女には己の腕すらも持ち上げる力は残っていなかった。



そんな彼女が、ホムンクルスの少女に話しかける。



「そういえば・・・、まだ・・・、高級酒が残っていたな・・・。


最後に・・・、一杯だけ・・・、呑ませてくれないか?」



少女は涙を拭い、急いで女性学者が一番好きな高級酒を持ってくる。

そんな少女の手に、グラスは無かった。


少女は高級酒を己の口に含み、女性学者に口移しで呑ませたのだ。

お互いの唇をしっかり重ね、少女は女性学者の口に少しずつ高級酒を流し込む。


少女の口から流し込まれる高級酒を、女性学者はコクンコクンと小さな音を立てて飲み干した。

そして少女が口を離すと、女性学者は満足気な顔になり、独り言の様に呟く。



「・・・ふふ・・・。

・・・この酒は・・・、・・・こんなにも・・・甘い味がしたのだな・・・。



・・・良い味だ・・・、・・・最高の味だ・・・・」



これが、最期の言葉だった。

そして満足気な表情の女性学者は、ゆっくりと目蓋を閉じる。



その瞬間。

ベッドの周りに居た人々も、ホムンクルスの少女も、荷物持ち魔物も、賢者の国に住む全ての人々も、全員が彼女の死を悲しんだ。




こうして、人々を魔物の恐怖から開放し、後の世で「人類史上最も優れた学者」と賞賛される事になる一人の女性は、その幸せな人生に幕を下ろしたのだった。

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― 新着の感想 ―
実際トップクラスの功績だよ 良い最期だった。
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