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「女神教の破滅」と「賢者の国の建国」


「何故だ・・・、何故・・・、こんな事に・・・」

「我らは世界の為に・・・、女神様の為に必死になって働いた・・・。そんな我らに、一体どんな落ち度があるというのだ・・・」

「これが・・・魔王の策略か・・・。人々は魔王に操られておるというのが分からんのか・・・」

「最早・・・、これまでか・・・。申し訳ありません女神様・・・、我らに力が無いばかりに・・・」


大きな会議室で、僅かな人数となった特別神官達が暗い表情で会議をしている。


少し前までは大勢の神官達が働いていた神殿であったが、今では下級神官も大幅に数を減らしていた。


既に、巨大な神殿に人気は殆どない。




最早、世界は女神教を必要としていなかったのだ。


その事実を認識し、彼らは覚悟を決めた。

そして下級神官達に毒液を持ってくるように命じる。


命じられた下級神官達は、自決の準備を進めた。


それから1時間後、会議室に毒液が注がれたグラスが運ばれて来る。

特別神官達は一人ずつ下級神官からグラスを受け取り、ジッとグラスに満たされた毒液を見つめた。



「皆、覚悟を決めよ」



一番年老いた特別神官が立ち上がり、他の特別神官達に語りかける。



「この場所で、大神官様達は女神様の勝利を願い毒液を飲んだ。

我らも同じく、加護者として女神様に加護の力をお返しする時が来たのだ。


既に、世界は魔王の手に落ちた。

最早、我らにはどうする事も出来ない。


ならば、そんな我らに加護があっても意味は無い。

潔く、女神様に加護の力をお返ししようではないか」



年老いた特別神官の言葉に、他の特別神官達も頷き、口々に同意する。



「残念な事だ・・・。

しかし、我らはいかなる状況に陥ろうとも、女神様の忠実なる僕であり続けねばならない」

「女神様・・・、直ぐにそちらに参ります・・・」

「さあ! 皆! また女神様の側で会おうぞ!!」


その光景を満足気に眺め、年老いた特別神官はグラスを掲げて、



「勝利を!!」



と叫ぶと、一気にグラスを飲み干した。


そして他の特別神官達も、


「勝利を!!」


と叫び、グラスを飲み干す。


そして皆が口から血を噴き出し、バタバタと床に倒れた。

そんな彼らの遺体を下級神官達が丁寧に回収し、安置所まで運ぶのだった。





特別神官達が自決してから数時間後。

辺りは暗闇に包まれていた。


毒液を飲んで自決した特別神官の遺体は、一体一体が専用の個室に安置されている。


そんな遺体が安置されている個室に、一人の下級神官が何やら荷物を持ってコソコソと入っていった。

そして彼は静かに扉を閉めると、ソソクサと安置されている遺体に近寄る。


この個室には、一番年老いた特別神官の遺体が安置されていた。

下級神官は、そんな老人の遺体に近寄り、


「もう大丈夫です」


と遺体の耳元で囁く。

すると、今まで目を閉じていた遺体がガバッと起き上がり、



「よし!! ではここから逃げるとしようぞ!!」



と元気良く答えたのだ。



そうなのだ。

彼は死んでなどいなかった。


彼は事前に下級神官に賄賂を渡し、己のグラスに毒液に似た色をした酒を注がせていたのだった。

そしてグラスを飲み干した後、口の中に仕込んでいた赤い液体を噴き出し、まるで死んだかのように見せかけたのだ。


もちろん、彼の遺体は賄賂を渡した下級神官が回収した。

下級神官は彼の心臓が動いている事を確認しながらも、さも遺体を運んでいるかのよう振る舞い、こうして「遺体」を個室に安置したのだった。


その後、賄賂を貰った下級神官は辺りに人気が無くなった事を確認すると、老人を逃がそうとしていたのだった。


さっきまで動かず遺体のふりをしていた老人はコキコキと体を動かしながら、下級神官を褒め称えた。


「お主は本当によくやった。求めていた以上に素晴らしい演技であった」


すると下級神官はその場で頭を垂れ、


「ありがとうございます加護者様」


とニヤニヤ笑いながら答えた。

その隣で、老人はブツブツと独り言を言い始める。



「全く・・・、何が女神だ・・・、何が加護の力だ・・・。


せっかく楽園を作れたというのに・・・、これでは全てがパーではないか・・・。

忌々しい奴らだ・・・、女神教に素直に従っておれば良いものを・・・。


こんな所で死んでたまるものか! ワシはまだ現役なのだぞ!


こうなる事を予測し、財産を隠しておいて正解だったわい。

これから先の余生は、精々豪遊するとしよう」




ブツブツと文句を言い続ける特別神官に、下級神官が話しかける。


「加護者様・・・。

残りのお約束のお金についてなのですが・・・」

「おお、そうであったな。

うむ、ワシをここから逃がしたら、お主には約束通りの金を払おう」

「ありがとうございます!

お任せください加護者様、逃げ道は既に用意してございます」


それから二人は静かに歩いて個室を抜け出し、廊下に誰もいないことを確認すると一目散に神殿から逃げ出した。


暗闇に紛れて逃げ出した彼らが神殿に戻る事は、もう二度と無かった。




翌日。

特別神官の遺体を火葬しようと下級神官が遺体安置室の扉を開けると、どの部屋にも特別神官の遺体は残っていなかった。



こうして、一般の人々だけでなく、こんな状態になろうとも教会に残り続けている献身的な下級神官達からも信頼を失った女神教は、その長い長い歴史に幕を下す事になったのだ。






女神教が自滅していた時、女性学者は悠々と亡国に戻っていた。


そして彼女は少女と共に亡国に残されていた施設を使って、記録魔導具に残されたデータを元に、研究や実験を繰り返していたのだ。


そんな彼女達が居る国に、徐々に人々が集まり始める。

集まった人々は、全員が魔力臓器を切除した学者や研究者達であった。


彼らは全員が祖国や女神教に嫌気が差し、魔力臓器を切除すると、さっさと国を捨ててしまった人々だ。


そんな彼らが亡国に集まったのは、偶然では無い。


実は、女性学者が世界中にばら撒いた本には、小さく亡国の紋章が描かれていたのだ。

これは彼女が意図した事ではなく、印刷魔導具に元々設定されていた仕様だった。


そもそも、彼女が使った印刷魔導具は民生品ではなく、国家が所有していた研究機関専用の印刷魔導具である。

その為、全ての印刷物には国家が所有している物である事を証明する為に、国家の紋章が印刷される仕様になっていたのだ。


事実、彼女がばら撒いた本の最後のページの片隅には、小さく紋章が印刷されていたのだ。

その紋章に彼女は気がつかなかったが、本を受け取った学者や研究者は気がついた・・・、というよりも探し出した。


彼らは、この本の出所をどうしても知りたいと考え、本を隅々まで調べまくった。

そして小さな紋章を見つけ出し、必死の思いで過去の文献を探り、本が亡国で印刷された物だと突き止めたのだった。



そうやって必死の思いで集まった世界中の知識人達を、女性学者は喜んで受け入れる。

この頃になると彼女も研究に行き詰っており、どうしても人手が欲しかったのだ。



そして彼女が集まった人達を連れて亡国内を案内をすると、彼らは驚愕する事になる。

一世紀前に滅んだ亡国の魔法技術がどれ程進んでいたのかを、彼らはその身をもって理解したのだ。


そして、全員の目がギラギラと輝き出す。


目の前には未知の技術が山積みで放棄されている。

今まで見たことも無いような高度な実験器具も全て揃っている。

自分達の活動を制限する役人も、女神教もここには居ない。

広い国土を使えば、祖国では出来なかった危険な実験もやりたい放題。


これ程の条件を前に、興奮しない知識人は居なかった。


そもそも、集まった彼らは安定した祖国での生活を捨ててきた人々だ。

彼らは冒険心に溢れ、知識欲に身を任せる様な人種だ。


そんな連中が、それからどうしたのか?

答えは、聞くまでも無いだろう。


彼らは使えそうな建物を占拠すると、直ぐに研究を開始した。

次第に似たような研究をしている個人個人が繋がり、グループで研究を始め出すと、彼らの歩みは止まらなかった。


亡国では、まるで滅亡する以前の様に、様々な研究が盛んに行われる事になった。




次第に亡国の噂は世界に広がり始め、祖国を捨てた人々が集まり始める。


その頃になると、亡国は知識人達が国の運営をしていた。

彼ら知識人達は集まった人々を受け入れ、亡国の再興を宣言するのだった。


この国が「賢者の国」と呼ばれ、世界で最も進んだ魔法技術を持つ大国になるにはもう少し時間がかかるが、徐々に国の形は作られていた。


亡国では、たった一人の王の独断で滅んだという愚行を繰り返さない為に、政治は知識人達による共和制がとられている。

人々は崩壊した建物を撤去して、新しい街を作り出した。

散らばっていた魔物や人の骨を片付け、全てを弔った。

次第に他国と貿易を始め、物流が作られた。



この地に女性学者が戻ってから数年で、「亡国」は食事時になると調理の煙が天目指して登る「国」になっていたのだった。

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