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加護者の正体


刻々と変化する世界に対して、女神教は抵抗を続ける。


1、怪文書を持つ者、内容を周囲に触れ回る者は、見つけ次第処刑せよ。

2、第二心臓を切除しようとする者、切除した者、切除を手伝った者は、即刻処刑せよ。

3、特別神官が第二心臓を生まれつき持たない奇形であるという噂を流す者も、同じく処刑せよ。

4、女神教の信仰を疑う者も同罪であり、疑わしい者が居た場合は通報せよ。


そういった命令を各国に出し、各国に存在する神官達を使って取り締まりを強化した。


しかし、それはむしろ逆効果だったのだ。

それまで第二心臓の切除に躊躇していた人々も、


「女神教がここまで慌てるという事は、あの噂はどうやら真実のようだ」


と考えるようになってしまう。


そして運の悪い事に、もうこの頃になると第二心臓切除を専門とした闇医者が各国で活躍していた。

人々はそんな闇医者を頼り、嬉々として第二心臓を切除してしまうのだ。

もちろん中には教会に密告する者も居たが、動き出した世界を止める力にはならなかった。


既に世界は変化を始めており、いくら教会が取り締まりを強化したとしても意味は無かったのである。



人々は嬉々として第二心臓を切除し、勝手に他国と貿易をしたり、祖国を捨てて新天地を目指していく。

その結果として、女神教の力は日に日に弱まっていった。



そして終に、女神教の終焉を決定付ける大事件が起こってしまう。




ある日の事。

一人の特別神官が巨大な魔法車を操り街道を進んでいた。

そんな魔法車に、いきなり攻撃魔法が直撃したのだ。


驚いた特別神官が魔法車から飛び出すと、魔法車は既に数人の男達に囲まれていた。


「一体なんだ貴様らは!! この私を加護者と知っての事か!! この無礼者めが!!」


顔を真っ赤にして怒鳴る特別神官に、男達も怒鳴り返す。


「何が加護者だ!! 散々俺達を玩具扱いしやがって!!」

「てめえは覚えてないだろうがな!! 俺の娘は! お前に無理やり連れ去られ! そして・・・!糞!! 最後は・・・!!」

「俺は妊娠していた嫁さんを・・・!! 赤ん坊ごと・・・!! この野郎!! ぶっ殺してやる!!」

「もうてめぇら女神教なんざ怖くないぜ!! 俺達は魔物に襲われない体になったんだからよ!!」


殺意を放つ男達を特別神官は魔法車の上から睨みつけ、唾を飛ばしながら怒鳴り散らした。


「娘や嫁を玩具にされただと!? 良かったではないか!!

私に愛されたという事は女神様に愛されたも同然!!

女どもは幸運だったのだ!!


貴様らの様な無知蒙昧が世界を狂わせるのだ!!

この悪魔信仰者め!! 人として恥を知れ!!」


その言葉が最後だった。

特別神官は背後から放たれた攻撃魔法が直撃し、胸を貫かれた。


神秘的なデザインの真っ白な特別神官服は徐々に血で赤く染まり、特別神官は魔法車から転げ落ちる。

そして彼は待ち構えていた男達に散々痛めつけられ、還らぬ人となった。


その後、男達は地面に転がる特別神官の遺体を袋に入れて国に持ち帰った。


運ばれた特別神官の遺体は、魔法研究所の手術室に運ばれた。

手術室は女神教に動きを悟られない様に集まった研究員や医者達でごった返している。


特別神官の遺体が手術台に乗せられると、一人のベテラン魔法医師が遺体に近寄り、


「こりゃまた、ボロボロだな」


と独り言を言いながら、ボロボロになった遺体の解剖を始める。


手術室に居た誰もが、固唾を呑んで彼の指先に視線を向けた。

少しだけ時間が経ち、遺体の解剖を終えて杖を置いたベテラン魔法医師は解剖結果を人々に伝えたのだ。


そして、人々は世界の真実を知る事になる。



「予想通りではあるが・・・、加護者の体に第二心臓は無いな。

どうやら、彼らは生まれつき第二心臓が無いようだ。


つまりは・・・、まあ・・・、言い方は悪いが・・・。



・・・彼らは、ただの奇形だったわけだ」




これが、絶大な権力を誇る女神教の終焉を決定付ける言葉となった。





「加護者どもには生まれつき第二心臓が無くて、やつらはただの奇形だそうだ」

「やつらには女神様の加護など、最初から無かったって俺も聞いたぞ」

「魔物も魔王が生み出していたのではなく、俺達が魔法を使う事で生まれてたんだってさ」

「なんだ、結局は女神教の言っていた事は全て嘘だったんじゃないか」



世間では、そんな噂が人々の間で流行し始める。

その結果、人々は今まで溜まった鬱憤を晴らすが如く、女神教への不信感を強めていく。


女神教も必死に取り締まりを強化し、毎日捕まえた異端者を神殿で処刑したのだが、日を追う毎に事態は悪化していった。



商人達は第二心臓を切除して勝手に貿易を始めてしまった。

女神教に恨みのある人々は、特別神官を待ち伏せて次々に殺していく。

狭い国での生活に嫌気が差した人々も、第二心臓を切除して国を出て行ってしまう。


神学校には生徒が集まらず、大きな校舎はガランとしていた。

毎週行われている教会の演劇にも、人々は来ない。

特別神官が操る魔法車の荷台も、今では荷物が数えるほどしか載せられていない。


たった数年で絶大な権力を誇っていた女神教は、物流網も情報網も、そして人々の信頼も、全てを失っていたのだった。



次第に女神教は、弾圧の対象となり始める。


神殿で異端者の処刑を担当している大柄な下級神官達ですらも、最早一人では街中を歩く事すら出来なくなっていた。

下級神官達は人々の視線にビクビクと怯えながら、異端者を処刑し続けたのだ。


そして、終に恐れていた事態が起こってしまう。

辺境の小さな国で、女神教の神殿が焼かれたのだ。



その国を管理していた特別神官は、横柄な態度で知られる人物だった。

女神教の力がある時は誰も逆らう事が出来なかったが、最早女神教には殆ど力が残されていない。


そんな、ある日の事。


特別神官が普段通りに豪邸にある自室で豪勢な食事を楽しみ、まるで水の様に高級酒を呑みまくっていた時だ。

下級神官が血相を変えて部屋に飛び込んできた。


特別神官である男は、


「この無礼者!! ワシが食事をしている事がわからんのか!!」


と怒鳴りつけると、酒瓶を下級神官に投げつける。

投げられた酒瓶は下級神官の体に直撃したが、下級神官は謝罪より先に大声で叫んだ。


「急いでお逃げください!!」




その時、豪邸に続く道は人々で溢れ返っていた。

人々は怒りの表情を浮かべ、手に手に杖を持って豪邸目指して前進していたのだ。


この国を担当している特別神官である男はやりすぎていた。

己の尽きる事の無い欲望を満たすために、男はありとあらゆる非人道的行為を行っていた。


しかし、人々はそんな男に縋るしか生きていく方法が無かった。


男が面白半分に人を殺そうとも。

男の気まぐれで家族を連れ去られようとも。

男の下種な欲望を満たす為に、多くの人が苦しもうとも。


人々は男に媚びへつらい、頭を地面に擦り付けながら生きていくしかなかった。


しかし、もう男に媚びる必要は無くなった。


女神教は既に必要なくなった。

特別神官も同じく必要なくなった。


人々は男が豪邸に入る事を確認すると、家に帰って杖を取り出し、大通りに集まり始めたのだ。

僅か数時間で大通りは人々で埋め尽くされ、人々の大声が辺りを支配し始める。


「奴を殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「仇を打つんだ!」

「八つ裂きにしろ!」

「何が女神だ! 何が加護だ!」

「バラバラにしてやる!」

「炭にしてやる!!」


そして人々は動き出す。


誰が指揮しているわけではない。

人々は自然と動き出し、徐々に走り出した。


まるで津波のような人の塊は商店街を抜け、住宅街を抜け、特別神官が居る豪邸まで辿り着いた。


そんな殺気に満ちた塊を前に、魔法車に乗り込もうとしていた特別神官は動きを止めてしまう。

彼はあまりの恐怖に動けなくなってしまったのだ。


彼はモゴモゴと口を動かし、何か言おうとしたが、その前に彼は殺されてしまう。


彼が殺された後、その国に居た女神教の神官達も同じく皆殺しにされ、教会は焼かれ、女神教に協力的だった人々は国から追放されてしまった。




この事件に、女神教は震え上がる。


既に女神教に情報を制御する力は無く、この事件は直ぐに世界に広まるだろう。

そうなれば、世界中で人々が蜂起するに違いない。


事件を知った下級神官達はコソコソと神官服を脱ぎ捨て、闇医者に頼み込んで第二心臓を切除すると、逃げるように国を出て行った。

今までは教会に協力的だった人々も、一転して教会に牙を剥き始める。

各地に散らばっている特別神官達も次々に暗殺され、その数は全盛期の半分以下になっていた。



そんな女神教の総本山は、まるで葬式のように暗かった。


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― 新着の感想 ―
神官は魔石無しには魔法が使えなかったってことかな?
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