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ホムンクルス少女の家へ


女性学者は瓦礫の山から下りてきた女神様と緊張した声で会話し、直ぐに女神様の正体を理解する。

少女は女神では無く、ホムンクルスだったのだ。


この国では様々な研究がされており、そのうちの一つにホムンクルスを作り出す研究もあった。

少女の外見が女神に似せられているのも、人工的に作られた外見だったからだ。


この研究が始まった頃、女神はまだ「女神として扱われていた時代」だった。

その為、


「外見を女神に似せれば、ご利益があるかもしれない」


という単純な理由で、少女の外見は女神に似せる事になったのだ。


しかし、研究が進むに連れて、女神は魔王として扱われるようになる。

研究所でも外見を変えようという意見もあったが、既に少女の体は完成しており、もはや変更は出来なかった。


その為、研究所は少女を隠しながら研究を続け、最終的に少女を完成させたのだ。



しかしその直後、大量の魔物が襲来し、少女を残して国は滅んでしまった。


幸い少女は食事を必要としない体をしていたので、今日まで生き残る事が出来た。

そんな時、久しぶりに料理の匂いを感じ、誰が来たのか気になったからこうしてやって来たのだ。


久しぶりに見る料理を前に興奮する少女を眺めながら、女性学者は思案する。


(これは・・・、運が良い。

この子に聞けば、この国が滅んだ理由が分かるかもしれない)


そして彼女は、少女に色々と質問をした。



「ちょっと質問があるんだが。

この国では、魔物襲来の前に何か特別な事が起こらなかったかい?」


すると、少女は表情を明るくして答える。


<詳しくは分かりませんが、昼時に何やら大掛かりな魔法を使って国の周辺を焼き払っていました。

お父さんもお母さんも、「これで魔物は死滅したぞ!!」と大喜びしていたのを覚えています>


「そうか・・・、やはり大掛かりな魔法で周辺を燃やしていたのか・・・。


それで、魔物はどれ位の規模でやって来たか覚えているかい?

あと、魔物は国を滅ぼした後、何をしていたのかな?」



<襲来した魔物の正確な数は分かりませんが、地面を埋め尽くすが如く大量の魔物が現れました。

確か・・・、午後9時位には城壁が突破された筈です。


国を滅ぼした後、魔物達は生き残った人々を皆殺しにして、暫くこの国に居ました。

でも・・・、次第に大型の魔物達が他の魔物を襲い始めました。


それで大半の魔物が逃げ出して、それを追う様に大型の魔物もこの国を去りました>


少女の話を聞き、女性学者は困惑した。


「大型の魔物が他の魔物を襲った?

それは・・・、縄張り争いみたいな感じ?」


<いえ、違います。

どちらかと言うと狩りに近い物でした。


事実、狩られた中型の魔物は大型の魔物に食べられていました>



この話を聞いた女性学者は、静かに考え込む。



(何だ? 何が起こった?

何故、魔物が肉を食べた?


・・・いや、今考えるべきは魔物の襲来理由だ。

食生態については後で考えよう)


女性学者は小さく咳払いをすると、少女に向き合う。



「昼間に魔法で国の周辺を焼き払ったんだよね?

なんで、こんなに大量の魔物が国の周辺に残っていたの?


そもそも、この国の周りには、日常的に巨大な魔物が大量に居たの?」



<魔法で国の周辺を焼き払ったとき、周辺に居た魔物は全滅していました。

魔法で焼き払う以前から国の周辺には大型の魔物も居ましたが、それでもここまで大量には居ませんでした。


そもそも、そんな大型の魔物も全て魔法で死滅した筈でした>



少女の答えに、女性学者は頭を抱える。



(周辺の魔物は死滅したはずだった・・・。

この少女が嘘をつくはずも無いから、これは事実なのだろう。


では・・・、この大量の魔物達はどこから現れたのか?

まさか、女神教の言うとおり「魔王」が存在して、そいつが送り込んできたのだろうか?


・・・いや、ありえない。

おそらく魔王なんて存在していない。


では何故・・・。

何処から、こいつらは現れたんだ?)



頭を抱える女性学者を眺めながら、少女はオズオズと話しかける。



<ここから少し離れた場所に私の家があります。

もし良かったら私の家に来ませんか?


人が食べられるような物はありませんが、雨風を凌げる程度の建物が残っています。


それに私の家は学園の中心部にありますし、学園全体の詳細な地図もあります。

その地図には、極秘の研究が行われていた研究所がある場所も描かれています。


たぶん、あなたの調査の役に立てるはずです。

いかがですか?>



そんな少女の問いかけに、女性学者は頭を上げる。


そして彼女は少しだけ考え、最終的に少女の家に行く事にしたのだった。








「親・・・か」


純白の甲冑を身に着けた騎士姿の私は、散歩の途中で立ち止まる。


これはアミダクジによって決まった格好であり、今日一日はこの格好で過すことになっている。


そんな私の腰には地球を真っ二つに切り裂く事が出来る剣があり、左腕には宇宙戦艦の攻撃すらもはじき返す盾を持っている。


真っ白な特殊素材で出来た鎧を身にまとった私は、遠い昔の記憶を思い出す。



(そういえば、私は「両親」というのを見たことが無かったな。

データは残っているが、会った事は一度も無い。

・・・いや、会おうと思ったことも無い。


そうか、親には会いたいと思うものなのか。

私達旧人類とは違い、新人類の子供達は知識が無い状態で産まれる。



そのままの状態では生きていく事が出来ないから、それを補うために両親に会いたがるのだろうか?

そして親の背中を見て生きる方法を学び、その知識を後世に遺す事で子孫を繁栄させるのだろうか?


・・・本当にそれだけなのだろうか??

それだけの為に、両親に会いたいのだろうか??


もし知識や経験が欲しいだけなら、いっそ産まれた直後の赤子を両親から離して国が育てれば良い。

平等に知識を与え、様々な経験をさせ、そして完全な国民として育て、国を発展させればいい。


・・・いや、駄目だ。

それはご先祖様がやって失敗した。

人は、システムの為に生きる事は出来ない。


ご先祖様はそれをやって確かに社会は発展したが、個人を満たす事は出来なかった。

生まれてから死ぬまで全て決められた人生というのを、人は受け入れる事が出来ない。


だから、ご先祖様は最終的に社会を捨て、一人で生きる事を選択した。

その結果、広大な宇宙を捨てる事になったが、ご先祖様は後悔していなかった。

それぞれが、勝手気ままに生きる人生を楽しんだのだ。


だが、それは「社会」を捨てるだけに留まらなかった。


次第に人と人の関係は希薄になっていき、最初に「友達」という概念が消えた。

次に「恋人」が消え去り、「夫婦」も消えた。

「親子」という概念は暫く残ったが、それもいつの間にか消えてしまった。


最終的に旧人類は子供を作っても、己で育てる事をしなくなった。


それは何故か?


理由は簡単だ。

育てる意味が無いからだ。



産まれた直後の赤子には、既に全ての知識が備わっている。

どんな病気や怪我も一瞬で治す体を持っている。

そして、どんな物でも作り出す、神の如き力も自在に使いこなせる。


そんな子供に、一体何を教えて育てればいいのか?

道徳? 法律? 芸術? 人間関係? 人生論?

そんな物は全て理解している。


更に言えば、国が無いのだから道徳も法律も人間関係も意味が無い。

最終的には言語すらも捨て去っても、生きていく事は出来る。


まあ、そこまでやってしまうと本当に人生がつまらなくなるのでやらないが・・・。

そういえば、言語どころか肉体まで捨てて情報生命体になった人々も居たな。


・・・まあ、残された肉体は普通に腐ってしまい、傍目にはただ死んだだけにしか見えなかったので殆ど普及しなかったが・・・。

そもそも、本当に情報生命体になれたのかも怪しいものだったし・・・)



そして私は腰につけた剣を引き抜いて掲げる。



(この剣もそうだ。

もし、この剣を外の世界に放り投げ、新人類の誰かが手に入れたならば、その人は外の世界を支配することも出来るだろう。


それ程の力を持つ剣も、私は一瞬で作り出すことが出来た。

そんな力を持つ者は、一体何を学べばいいというのか?


最早、私にとって世界は灰色一色だ。

平坦な道が永遠と続く・・・、そんな道をただただ前進していくだけだ。


天気は晴れ渡り、雲ひとつ無い。

常に快適な環境が広がり、そして何も無い。


そんな道を、私は一人で歩き続けている。

それが私の人生だ。


そんな私にとって、新人類の人生は輝いて見える。

彼らの歩む道は、常に一寸先は闇だ。


天気は荒れ狂い、いつ何が起こるかもわからない。

そんな道を彼らは進んでいる。

それがどれ程尊い物なのか・・・、ご先祖様は理解していなかった。


そんな私達旧人類にとって最後の救いは「死」だ。

「己の意思で死ぬ事が出来る」これが私達に残された最後の救いだ。


・・・こんな事を新人類に教えたら、彼らはどんな顔をするだろうか・・・?


羨望の眼差しで私を見るだろうか?

哀れみの眼差しで私を見るだろうか?


・・・そして、そんな彼らを、私はどんな表情で見つめるのだろうか・・・)


私は剣を鞘にしまい、極めて快適な環境に調整された人工島内で、散歩を再開した。

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