ホムンクルスの誕生
私の一番古い記憶・・・、それは、大勢のお母さん達とお父さん達に見られている光景だったと思います。
お父さんお母さん達は皆が白衣を身に纏い、私に微笑みかけていました。
中にはお互いに抱き合い、歓声を上げているお父さん達も居たほどです。
それが私・・・、ホムンクルスである私の一番古い記憶です。
その頃の私の体は、完全な物ではありませんでした。
私の人工魂は仮の肉体の中にあり、その肉体も培養液の満たされた巨大なガラス菅から出る事は出来無い不完全な物だったのです。
それでも、お父さんお母さん達は私に微笑みながら話しかけ、時には絵本の読み聞かせまでしてくれました。
私は、幸せでした。
優しいお母さん達や愉快なお父さん達と共に、ずっとこの家で生活出来るのだと、そんな幸せがいつまでも続くのだと、そう、思っていました。
しかし、ある日を境に私への待遇は変化するのです。
ある日。
真っ黒な服を来た男の人達が、お父さんお母さん達に何かを告げます。
すると、お父さん達もお母さん達も、とても悲しそうな顔をしました。
そして真っ黒な服を来た男の人はお母さん達を怒鳴りつけ、お父さん達を殴り飛ばし、私が居るガラス管を蹴り飛ばすと、大きな足音を響かせながら家から出て行ったのです。
殴り倒されたお父さん達を、お母さん達が介抱していました。
そして、顔を腫らせた一人のお父さんが私の前に歩み出し、
「すまない・・・、本当に・・・、すまない・・・」
と言いました。
それからというもの、私の居るガラス管には、常に分厚いカバーがされるようになりました。
これでは外の様子を見ることはもちろん、お父さんお母さん達の声も聞こえません。
私は、必死に叫びました。
<何か悪い事をしたのなら謝ります!
もう絶対に悪い事はしません!
だから、だから、このカバーを取ってください!>
・・・でも、誰もカバーを取ってくれませんでした。
年に数回、一瞬だけカバーが外される事もありましたが、それも本当に一瞬だけでした。
カバーが外された瞬間、私は必死に謝りました。
狭いガラス管の中で、可能な限り頭を下げ、何度もガラス管に頭をぶつけながら、私は謝り続けたのです。
・・・でも、駄目でした。
お父さん達もお母さん達も悲しそうな目で私を見ると、直ぐにカバーを付け直すのです。
そんな生活が数年間も続いた、ある日の事です。
突然、ガラス管からカバーが外されました。
私は必死に謝ろうとしたが、次の瞬間、私の魂は仮の肉体から引き離されたのです。
そして目が醒めた時、私の人工魂は本当の肉体の中に入っていました。
そうです。
その日、私は「完成」したのです。
私は何とかベッドから起きようとしましたが、体が異様に重く、起き上がる事が出来ませんでした。
そんな私を、黒い服を着た男の人が苦々しい顔をしながら覗き込んでいたのです。
そして男の人は、私の顔にペッと唾を吐きかけ、近くに居たお父さんを殴り飛ばすと、大きな足音を響かせながら家から出て行きました。
すると、呆然とする私の顔を、お母さん達が優しく拭いてくれました。
お母さん達は私の顔を拭きながら、
「ごめんね・・・本当に・・・ごめんね」
と謝り続けます。
そして、殴られたお父さんも、
「俺達が浅はかだったから・・・こんな事になってしまった・・・本当にすまない・・・」
と謝るのです。
私は困惑しました。
でも、もしここで我が侭を言ったらまたガラス管に戻されてしまうかもしれません。
そんなの、絶対嫌です。
だから、私は微笑みながら、
<お父さんもお母さんも、大好きだよ>
と言いました。
それから数日して、この国は滅んだのです。