表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/98

「惑星連盟」

時間を大分巻き戻そう。

所謂「黄昏の時代」という地球人が宇宙から姿を消し始めた時代まで話は遡る。


その時代、宇宙の覇者は地球人だった。

既に宇宙のほぼ全てが地球の支配下にあり、抵抗勢力の大半が駆逐されていたのだ。


しかし、そんな時代においても僅かながら地球に抵抗する勢力が居た。

それが「惑星連盟」である。


彼らは地球に侵略された星々が集まり作り上げた抵抗勢力だ。

そんな惑星連盟軍は母星開放の為に必死になって地球軍と戦っていた。


しかし、彼らがどんなに必死に戦おうとも、地球軍に勝つことは出来なかった。

惑星連盟軍の戦艦がいくら主砲を撃っても、地球軍の戦艦が沈む事は無く、逆に地球軍の主砲が火を噴くと、惑星連盟軍の戦艦数隻が一挙に沈むのだ。




一度だけ、地球軍に多大な被害をもたらした強敵も居るには居るが、それも長続きはしなかった。

とある戦略的価値の無い星に、強力な戦闘ロボットが一機だけ存在したのだ。


その戦闘ロボットは、惑星上に展開していた地球軍の地上部隊を殲滅する事に成功する。

地球軍はその戦闘ロボットに対抗して大艦隊を派遣し、その敵を詳細に調べる事にした。

敵のロボットは派遣された大艦隊を壊滅させる事には成功したが、それだけだった。


解析したデータを元に、地球軍の研究チームは敵の技術を再現出来る目処をつけたのだ。

その結果、生け捕りにする必要もなくなった敵は、敵が守っていた星共々「惑星破壊ミサイル」で吹き飛ばされた。


地球軍は宇宙空間に粉々に飛び散った敵戦闘ロボットの破片を集め、戦闘ロボットの再現に成功する。

その後、地球軍は敵の技術を改良し、以前よりも強力な戦闘ロボットの量産を始めたのだった。


改良された戦闘ロボットの力は強大であり、地球軍の宇宙制圧を加速させた。



日に日に地球軍の戦力は強化されていく。

しかし、絶望的なまでの戦力差に苦しめられながらも、惑星連盟は戦い続けた。

戦っては撤退し、戦っては撤退しを繰り返したところ、終に彼らは宇宙の端まで追い詰められた。


その時、惑星連盟軍は覚悟を決めた。

これ以上先には撤退できない。

かといって前進したところで勝ち目は無い。


だが、彼らは精神まで敗北してはいなかった。

彼らは誓ったのだ。



「我々は戦う! 地球に最後まで抵抗を続ける!

そして記録を残すのだ!


最後まで地球に抵抗した人々が居た事を!!

我々は最後の一人まで抵抗を続けたのだと!!」




そして、惑星連盟の残存艦隊は、地球に対して最後の決戦を挑んだ。

しかしその時、惑星連盟にはまともな戦艦がほとんど残って居なかった。


博物館に送られた方がいいような旧式の戦艦を整備し、無理やり動かした。

補給艦に武装を施し、最前線に送り込む事にした。

民間船に爆薬を満載し、自爆攻撃の準備も進められていた。

宇宙を漂う巨大なデブリにエンジンを取り付け、ミサイルの代用とした。


「満身創痍」という言葉が似合う決戦艦隊は、外からはデブリにしか見えない様に偽装された基地から出撃する。

目標はこの近辺を支配している地球軍の辺境基地だった。


まさしく無数に存在する辺境基地であったが、そんな辺境基地すらも惑星連盟は一度も攻略に成功した事が無い。

「まともな」装備を持っていた時ですら勝てなかった相手だ。

こんなボロボロな艦隊では、基地に辿り着く前に全滅してしまうだろう。


しかし、彼らは進んだ。


動かすだけでも艦の装甲が剥がれた。

部品の補給すら出来ていない傷ついたエンジンが赤熱し、船体が悲鳴を上げる。

戦いになる前に、主砲が故障し動かなくなった。


そんなボロボロな艦隊であったが、彼らは進んだのだ。


各艦の艦首には、地球軍との戦いで穴だらけになった連盟軍旗が高らかに掲げられている。

それは彼らの決意を地球に見せるための行為だった。

脆弱な装備しか持たない彼らの、必死の抵抗だった。



数日後。

彼らは予想接敵地点に到着する。


既に連盟艦隊の存在は地球軍に知れ渡っている筈だ。

地球軍は猛烈な攻撃を仕掛けてくるだろう・・・。


惑星連盟の軍人達は覚悟を決め、来るであろう地球軍の予測進路に向けて砲撃を開始する。


数少ない「撃てる主砲」からビームが放たれた。

もしかしたら爆発するかもしれない貴重なミサイルが数発放たれる。

唯一、信頼出来る武装であるデブリミサイルが次々に発射されるが、そのほとんどは途中でエンジンが故障してあらぬ方向に飛んでいった。

自爆攻撃部隊も出撃を開始するが、燃料が足りなくて目標まで辿り着かなかったり、エンジンが故障して目標に辿り着く前に爆発する機体まで居た。


そして軍人達は地球軍からの反撃を待つ。

これが己の死に装束になるであろうと考え、貴重な洗剤を使って洗濯しておいた軍服を、彼らは着ているのだ。



彼らは、死を覚悟していた。



・・・しかし、いくら待っても地球軍からの反撃はなかった。

誰も、何もしゃべらない時間が過ぎていく。


壊れかけたレーダーは、何も反応を示さない。

旧式の無線傍受機も地球軍の無線に反応することは無かった。


そんな時間が数時間続き、提督は前進の指示を出した。

そして艦隊は静かに、ソロソロと暗黒の宇宙空間を進んでいく。


その後、彼らは地球軍の辺境基地に辿り着く。

しかし、それでも地球軍からの反撃は無かった。


艦隊は基地に降下を始め、陸戦装備をした軍人達が基地に突入を開始する。

そして、ようやく反撃が来なかった理由が判明した。


基地は無人だったのだ。


最新式の戦艦がずらりと並ぶ格納庫に人は居なかった。

宇宙全域を調べることが出来る高性能なレーダーは誰も管理していなかった。


辺境の巨大基地には、地球人は一人も居なかったのだ。



これが「黄昏の時代」が始まった瞬間であった。

地球人は広大な宇宙を放棄し始めていたのだ。



強力な戦艦も、高性能なコンピューターも、優秀な人工知能も、大量の物資も・・・。

全てを放棄して、宇宙から地球人は去っていたのだ。


最初の頃は「これは何かの罠では無いか?」と惑星連盟も警戒を怠ることは無かった。

しかし、次々に無人の基地を攻略していった惑星連盟は宇宙全域で地球人が姿を消した事を知ったのだ。


それを知ったとき、惑星連盟軍は歓喜した。


「やっと! やっと! 地球の支配から開放されたんだ!!」

「これからは俺達の時代は俺達の力で作り出すんだ!!」

「もう自由を諦める必要もない!! もう地球に怯えて暮らす必要も無い!!」

「俺達は独立したんだ!!」


地球に支配されていた星々も惑星連盟軍からもたらされた情報に歓喜する。

そして星々では地球に協力的だった人々が弾圧され、大半が処刑された。


それと平行して惑星連盟の学者達が集まり、地球の残した様々な技術が解析された。

そして、解析された地球の高度な技術力に人々は驚愕するしかなかった。

今まで敵対していた連中がどれほど恐ろしい力を持っていたのか、その時、彼らは再度認識したのだ。


そして長い長い時間をかけて、細部まで技術を解析し、自分達で使えるように改造していく。

流石に人工知能等の複雑すぎる技術までは改造出来なかったが、それでも他の使えそうな技術は連盟で使えるように改造した。


既に地球が残した宇宙艦隊は惑星連盟軍が所有、運用している。

もちろん軍事技術以外の様々な技術や、星々に残されていた地球製の機械は様々な場面で復興の役に立った。


人々はこの平和な時代を祝った。

この時代はまさしく「宇宙の春」が訪れた時代だった。


そして時代が進むにつれて、人々は一つの共通した想いを持つようになる。

それは、


「地球に復讐したい」


という想いだった。


当初はこの考えは否定されていた。

宇宙から消え去ったとはいえ、圧倒的な力を持っていることに変わりは無い。

眠るトラを起こすような真似を人々はしたがらなかったのだ。


しかし人々の想いは強くなっていく一方だった。

長い時間が経ち、地球と戦った事の無い世代が星々を運営するようになると歯止めが効かなかった。

最終的に惑星連盟が地球に対する復讐的侵略を決定するまで、それほど時間はかからなかったのだ。


そして惑星連盟軍は動き出す。

地球軍が残した戦艦を主力にし、次々と地球目指して進撃を開始した。

基地を出発して数週間経ち、終に艦隊は太陽系までやってきた。


あと少し! あと少しで地球に辿り着ける!

あと少しで屈辱の歴史を終えることが出来る!!


そんな想いが軍人達の中にあった。


そして、そんな想いを打ち砕くかのように、大量の地球軍戦艦が目の前に現れるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ