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女神教の復活

男達が決意を胸に旅立ってから数十年が経った。


男は両目を失っていた。

目だけではない、両足の膝から下も既に無い。

右腕は肘から先が動かない。

そして男の象徴たる部分はズタズタに切り裂かれている。

肌には所々に痛々しい火傷や悲惨な怪我があった事を証明するかのような跡が残っている。


これらは全て、男が受けた拷問や処刑の跡だ。


男は加護者を率いて各国を巡り、信仰を広めた。

その結果、女神信仰は復活したのだが、それと同時に男は様々な物を失った。


そんな男が長い長い廊下をフラフラと歩いている。

杖を突き、失った足の代わりに義足をつけているが、自由に歩ける物ではない。


そもそも、男は既に老人と言っていい年齢であり、目の見えない男が一人で自由に歩ける筈も無かった。

終に男はバランスを崩し、倒れそうになる。


すると男の前後左右からサッと手が伸び、男を支える。

そして男を支える人々は口々に男を心配して声をかけた。


「大神官殿! お怪我は!? お怪我はございませんか!?」

「大神官殿! どうか! どうか! 私の背をお使いください! どの様な事があっても! 大神官殿をお守りいたします!!」

「やはり今日は中止なさった方が良いのでは・・・」


男を心配する人々に、男は優しい声で答えた。


「皆の者、ありがとう。しかし、心配するな。私はまだまだ大丈夫だ」


男は杖を持ち直すと、己の力だけで立ち上がり、歩き出した。


歩き出した男の周りには、男が着ている物と同じ真っ白な神官服を身にまとった特別神官達が居る。

彼らは全員が加護者であった。

特別神官達は目の見えない男を心配し、男の歩調に合わせてゆっくりと長い廊下を進んているのだ。


ゆっくり進む一行が、長い長い廊下の先にある大きなバルコニーに近付くと、段々と外の声が聞こえ始める。

その声を聞いた男は一瞬立ち止まると、杖と義足に力を入れて力強く歩き始めた。


そしてバルコニーへ続く扉を両脇に控えた特別神官が開き、男達はバルコニーに出た。

男達が現れると、大歓声が巻き起こる。


男達が居る場所は女神教の総本山であり、世界に一人だけ存在する大神官が住む巨大な神殿であった。

そんな巨大な神殿のバルコニーに男達は現れたのだ。


男達の眼下には国中から駆けつけた信者達が居る。

その数は数万人という大観衆だった。


手に女神像を持ち、男の姿に涙を流して感動する若い女性。

集まった神学生達は新約聖書の第一章から暗唱を始めた。

ところどころに賛美歌を歌い始める集団も居る。


男はその光景を見ることは出来なかったが、感じることは出来た。

そして、もう見えない目から涙を流したのだ。



「・・・女神様・・・、見ておられますか・・・。

・・・終に・・・、・・・終に・・・、世界を正常なる形に戻す事が出来ました・・・」


誰にも聞こえない声を出し、男は祈りの姿勢を取る。

すると今まで騒いでいた大観衆も、そして男の周りに居る特別神官達も、男と同じく祈り始めたのだ。




ここに、女神教は完全なる復活を遂げた。





パチパチパチと人工島に拍手の音が響く。

私は椅子から立ち上がり、ポロポロと涙を流しながら男に向けて拍手していた。


「もしも、この男が人ではなく宝石だったとしたら、どのような宝石になったのであろうか?


その一点の曇りも無い魂は、透き通ったダイヤモンドとなっただろうか?

燃えるような熱意を感じた瞳は、サファイヤとなっただろうか?

力強い歩みは、ルビーとなっただろうか?

人々に対する深い愛は、アメジストとなっただろうか?


あの男の人生はどの瞬間も、まるで宝石の様だ!

カッティング等という無粋な真似は必要ない!


そのままで美しい!

そのままで輝いている!

もしも宝石だったなら!

是非とも!! 私のコレクションに加えたかった!!」


そんな有り得ない妄想をしながら、私は拍手を続けるのだった。



男はその後も信仰を広めていく。

そこに差別は無かった。


男にとっては全ての人々が導くべき対象だったのだ。

まさしく「女神」の如く、男は人々に深い深い愛情を注いだ。


そして同じくらいの情熱を持って、悪魔信仰者を根絶やしにした。

王族達はことごとく処刑され、晒し者となった。

王を称える像も、特殊部隊を称える像も、全てが破壊された。


男にとって、彼らは明確な「敵」なのだ。

救うべき対象ではない敵に、男は一切の容赦をしなかった。


それだけではない。

世界中に広まっていた特殊部隊を称える物語は全て破棄された。

もしその物語を少しでも語ろうものなら、その場で処刑された。


代わりに特殊部隊を蔑む物語が作られ、歌が作られ、演劇が作られたのだ。

どうしようも無いほど愚かで、全く救いようもないクズどもが、神聖なる女神様に刃向かう物語。

それは世界中に広まった。


神殿では魔王の手下となった愚かな王達が人々を扇動し、女神様に刃向かう物語が演劇として披露されている。

女神教に対する弾圧も、その後の2週間にわたる愚かな侵略も、その全てが演劇で人々に伝えられるのだ。


そして、そんな愚行を続けた人々に相応の結果が帰ってくる。

世界を守っている女神様の守護の力が弱まり、魔王は強力な魔物をこの世界に送り込む事が出来る様になってしまったのだ。


その結果、当時世界最大の大国と言われた魔法国家は、たった一晩で強大な魔物の侵攻によって崩壊してしまうのだった。

しかし、大国が滅び去り世界の安定が崩れても尚、愚かな王達は女神様に刃を向け続けた。

そして終に特殊部隊による下劣な暗殺まで実行したのだった。


それによって女神様の力は更に弱まってしまう。

最早、全世界は暗黒に支配され、この世の終わりかと思われた。


しかし、その時、女神様は奇跡を起こしたのだ。

たった一人の男に加護をもたらし、男に信仰を広める様に伝えた。


このシーンが演劇で一番盛り上がるシーンだ。

信者達は涙を流して感激する。


男は仲間と共に襲い来る困難を乗り越え、民衆に信仰を広めて世界を救った。

男に導かれた人々が女神様を信仰するシーンで演劇は終わる。


「こうして、世界はあるべき姿を徐々に取り戻しつつあるのです。

今も、女神様は私達を見守っておられます」

さあ、祈りましょう。今日の平和を女神様に感謝して・・・」


そんな台詞で演劇は締め括られた。

こんな演劇が毎週繰り広げられる。

それを見るために、熱心な信者は各国に建設された神殿の劇場に毎週来るのだった。




巨大な神殿にあるバルコニーの説教から数日が経った。

今日も男は巨大な神殿に信者を集めて女神教の教えを説いている。




男が人々に教えを説いている時、私はこの男の人生を称えて女神教の賛美歌を歌おうとした。

息を吸い込み、口を開いて、いざ歌おうとした・・・その瞬間だった。


<緊急事態発生! 緊急事態発生!>


・・・人工島に緊急事態を知らせるメッセージが響き渡ったのだ。




結局、賛美歌を歌えなかった私の目の前に、巨大な立体映像が映し出された。

その映像には太陽系が表示されていたが、それだけではない。

太陽系を覆うように赤い点が表示されている


その数は尋常ではない、まるで太陽系を覆い尽くさんばかりに表示されているのだ。

まるで太陽系を赤いバリヤーが覆っているようだ。


この赤い点は一体なんだろうか?


<照合が終了しました>


人工島の人工知能が報告を続ける。


<SIF照合の結果、現在太陽系を包囲しつつあるのは、地球軍所属の宇宙艦隊である事が判明しました>


「・・・え?」


私は、その場で立ち尽くした。


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