「キング」登場
このコロシアムには最強の魔物がいる。
数年前、悪魔信仰者の騎士達を処刑した時の話だ。
騎士達は丸裸にされて処刑が始まった。
武器も防具も無い状態で始まった処刑だったが、流石は元騎士達である。
杖が無くとも魔法を使える者も居たし、素手で魔物達が持つこん棒を奪い取る者も居た。
段々と強くなる魔物達にも決して屈する事無く、彼らは戦い続けた。
それでも休み無く戦う彼らは徐々に怪我をし、最終的に騎士達はフラフラになっていく。
朝から晩まで、飲まず食わずで戦った騎士達は力を振り絞り、最後の魔物に挑んだのだ。
そして最後に現れた魔物が、通称「キング」と呼ばれる魔物だった。
それは見上げるほど巨大な魔物だった。
キングは魔法耐性の付与させた分厚い金属鎧を身にまとい、手には鋼の巨大な剣を握っている。
キングの鎧は戦艦の大砲が直撃しても、びくともしないだろう。
鎧に付与された魔法耐性は、攻城魔法すらもはじき返し、全ての魔法が効果を失う程に強力な物であった。
そんなキングを目にした騎士達は、呆然と立ち尽くした。
今までの闘志がどこかへ飛んでいったのだ。
中にはヘナヘナと座り込む者まで居た。
キングはゆっくりと剣を振り上げ、既に闘志を失った騎士達目掛けて力任せに剣を振り下ろした。
巨大な衝撃が地面を揺らし、その衝撃でコロシアムは揺れ、まるで地震の様に国全体に振動が伝わるほどだった。
立ち上がった土煙が晴れたとき、闘技場にはキングだけが立っていた。
キングの周りは毒々しいまでの赤と、生々しいピンクで染められていたのだ。
己の勝利を知ったキングの雄叫びは、遠く、魔物達が棲む山の奥まで響いたと言う。
人々はそんなキングの登場を祈った。
キングならば! キングならば、あの男の魔法もはじき返せるはずだ!!
キングならば! あの男を殺せるはずだ!!
早く! 早く! キングを解き放て!!
人々の想いは一つとなり、その想いが王にも伝わった。
王はゆっくりと手をあげ、キングの開放を宣言したのだ。
コロシアムは、割れんばかりの歓声に包まれる。
「「「「「「キング! キング! キング! キング!」」」」」」
人々は大声でキングと連呼する。
そんな声に答えるかの様に、一番大きなゲートが開かれ、キングが姿を現した。
歓声と共に現れたキングは闘技場の中心地目指してゆっくりと、そして着実に歩みを進める。
そして祈りを捧げている男に近づくと、ジッと男を眺め、ゆっくりと巨体をかがめた。
キングは大きな鼻を男に近づけると、バフッ! バフッ! と鼻を鳴らして男の匂いを嗅ぎ始める。
そんな荒い鼻息に、男の長い髪が揺られるが、男は一切気にせずに祈りを続けた。
・・・暫く男の匂いを嗅いだキングだったが、そのうち男に興味を無くしたのだろう。
キングは立ち上がるとノソノソと歩き出し、男から離れていった。
その光景に観客は愕然とする。
「い、一体どうなっているんだ?!」
「何でキングはあいつに攻撃しないんだ!?」
「くそ! 悪魔信仰者め! やはり奴らは魔物と繋がっていたんだ! だから魔物から攻撃されないんだ!」
「な、なるほど! それしか考えられん!」
「畜生! これでも食らいやがれ!」
観客の中で攻撃魔法が使える者達が男目掛けて魔法を放とうと魔力を集中する。
その瞬間、キングが吼えた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
まるで狂ったかの様にキングは吼えると、観客席向かって剣を振り下ろしたのだ。
しかし観客席は強力な防御魔法で守られている。
観客席から闘技場へ物を投げたり魔法を撃ったりは出来るが、その逆は出来ない。
大切な国民が怪我をしないように作り上げられた強力な防御魔法が観客を守っているのだ。
ただの鋼で鍛えただけのキングの剣は防御魔法を貫く事が出来ず、剣は防御魔法にはじき返された。
しかし、キングの突然の行動は観客達を驚かせるには十分だった。
キングの威嚇に驚いた観客達の魔法は散ってしまう。
観客達はキングから向けられる明確な殺意に脅え、誰も彼も静まり返る。
金縛りにあったかの様に動けない観客を睨み付けながら、キングはノシノシと闘技場内をねり歩く。
そしてまさにその時、男の祈りの時間は終わった。
だが、キングに恐怖する人々はそんな事に気がつくはずも無かった。
そんな観客に、男は大声で語りかける。
「今こそ! 悔い改めるときが来たのだ!!」