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第5夜

 なぜだか、体が上下に揺れている

「…ん?」

 景色が流れているのはなぜだろうか

 鉛のように重いまぶたを無理やり開けて、レイドは自分の置かれた状況を見た

「気づいたか」

 上から声が降ってくる

 えっ、と思ってレイドは、声のしたほうを見た

 ぎょっ、とした

「クラウド!」

 彼の片手が自分を支え、もう片方の手が何かを握っているのが見える

それは、手綱だ

 そして、自分が今座っているのは紛れもなく馬の背だった

 改めて、クラウドの顔を見る

 瞬間、気を失うまでのことが一気によみがえってきた

「フレックは?!」

「無事だ」

「じゃぁ、あの…」

「警備兵は全滅。襲来した魔物は姿をくらませた」

 聞こうとしたことをすべて、それこそ、心中を読み取ったかのようにすべて答えた

「悪いが、お前の身柄はこちらで保護させてもらう」

 そんなことを言われて、レイドは混乱した

 そして、また心を読んだのか、彼は厳かに口を開いた

「私の言った用とは、このことなのだよ…」

 ほんのりと、一瞬ではあったが、クラウドの瞳が悲しみの色に染まっていた

 そう、レイドは思った

「…どこに?」

「アルテナ女王の元へ」





 アルテナ城のはるか東の上空から、二羽の大鷲が舞い降りてきた

城の上部に大鷲は見事着地する

 その、一羽から、人が飛び降りた

「…まったく、王も人使いが荒い」

 むすっとした顔で言ってのける青年はもの音を聞きつけて、そちらを見る

「はるばると、遠方からようこそお越しくださいました」

 出迎えたのは、数人の侍女を従えた中年の女性だった

「これは…、女王陛下直々のお出迎えとは、光栄です」

 礼儀正しく、その青年は会釈する

 アルテナ女王は、踵を返すと、ついてくるよう促した

「陛下、率直ですが、御用とは?」

 ぴたりと、女王の足が止まった

「万が一のときのためです」

「…」

 再び進行する

 こりゃ、面倒なことになりそうだな

 内心、その青年は思うのだった

 玉座の間へと通された青年は居心地が悪くて仕方なかった

 通路を囲む騎士達はじろじろ見てくるし、中には殺意をむき出しているのもいた

「たのもしい騎士ナイトだことで…」

 皮肉たっぷりな言葉を青年はだれにも聞こえないように小さな声で言った

「さて、こちらに来ていただいた理由をお話しましょう。例の噂はとっくにご存知ですよね…?」

「…もしや、あれが…?」

 胡乱ケ気に聞き返す青年に女王はうなずいた

「先ほど、連絡がありました」

「……」

「おそらく、帝国も動いていることでしょう。もし、この国で戦争が起きれば、我が国の敗北は目に見えてます。そこで、ローラントの方でしばらく預かってもらいたいのです」

「話の内容はわかりましたが、あれは人間です。おとなしく、言うことを聞いてくれるか…」

「その点の心配はいらないかと…」

 その時、侍女がやってきた

「たった今、ロジェウス殿が戻ってまいられました」

「通してください」

「わかりました」

 去っていく侍女を見送りながら、青年は口笛を吹いた

「どんな子、なのかね…」

 先ほどの侍女が戻ってくる

 後ろに、男と、少年を連れて…





「クラウド・ロジェウスただいま、戻りました」

 それを聞いて、レイドはクラウドの服のすそを引いた

「クラウドって、本当は騎士?」

「違う。私は傭兵だ」

「…すごい主張…」

 ある意味大人気ない

「お待ちしておりました…」

 女王らしき人物がそう、言う

 その下段

 自分達の目の前にいる青年が観察するように見てくる

 燃えるような赤い髪をしていて、肩よりも長い

 睨み返すと、青年はおどけたようなしぐさをして見せた

「さてと…」 

 何かを言おうとしたとき、勢いよく侍女が飛び込んできた

 かなりあわてているようだ

「どうしたのです?」

「た、た、た、た、大変でございます!今、帝国からの使者が!!」

 わっと、どよめきが流れる

「静粛に、続けて」

「それで、今、こちらに…」

 言い終わらないうちに、侍女が来たところから自分と変わらない年の騎士が入ってきた

 クラウドが手を伸ばして、道端にずれ動く

 青年も同じ動きをする

 その騎士と目が合ったとき、彼は驚いた顔をした

「…レイド?」

「え…?」

 騎士の足が止まる

 そのまま、二人はなんともいえない顔で見詰め合った

「なんでしって…」

「レイドじゃないか!10年ぶりだな!」

 この言葉に一同は口をあんぐりとあけた

 当の本人もまた、そのうちの一人である

「あ、あの、…どちら様?」

「…はへ?!」

 今度は、騎士が衝撃を受けるばんだった

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!ああ、もう何回言った?!自分でもわかんねぇ!つうか、久しぶりのだちにあった第一声がそれか?!」

 爆弾宣言に全員が硬直

 もはや、石像ともいえる

 ほんの数名を除いては

 その数名であるクラウドは無言のままあさっての方向を見ているし、赤毛の青年は面白いものを見つけた子供のように続きを待っている

 そして、レイドはといえばどう対応していいのかわからず途方にくれていた

 それを見て、彼は口をパクパクしながら、記憶を掘り返させた

「覚えてない?!昔、三人一緒に鷹の卵とりにいっただろ?!その時がけに落ちて、んで下流でパンツいっちょになって、つりしただろ?!それから、村の野郎にいっぱい食わせようと、落とし穴を作って引っかからせただろ?!」

「…?!」

 なんだかすごい方向に話が行っているぞ…

「まだあるぞ!森に行くんだなんだで行ったのはいいが、迷子になって挙句の果てに馬のクソの山に突っ込んだだろ!!まだまだ!」

「もういいです」

「思い出しかぁ!!」

「…」

「違うのか?!」

 こっくりとうなずくと、一気に暗くなった

「…俺が、馬鹿だった…」

「!?」

 いきなりなにを言い出すのかと思えばこれか

 女王が咳払いして、何とか果てしない講話は終わった

「それで、何用ですか?」

「おっと、そうだった。私は陛下からの言伝を伝えに参ったしだい」

「それで、なんと?」

「…これを」

 彼は、すっと、何かを取り出す

 どうやら、手紙のようだが…

 侍女が受け取り、アルテナ女王に渡す

 中を取り出して、文字に目を走らせる

「…帝国からの使者よ。行ってお伝いください。却下だと」

「そのときはどうなるか、お分かりですよね?」

「…なんですって…?」

 再び彼女は目を走らせる

「…一体」

「私は単純に一般兵です。詳しいことはしりませんよ」

 しれっと言ってのける騎士に女王は顔を険しくしたが、冷たい声音で淡々と言った

「却下です」

「では、そのようにお伝えしましょう」

 くるりと踵を返す

 その際、彼はレイドにしか聞こえない声で話しかけた

「またな」

「お、おい…」

「ロキだ。覚えとけ」

「あ、ああ」

 そのまま、彼は行ってしまった

 しばらく、間をおいて、女王が語る

「事態は深刻なようです。ローラントからの使者よ、彼らを、お頼みします」

「御意のままに」

 ぺこりと、青年が頭を下げた

「それで、ロジェウス殿は…」

「できれば、同行させていただきたい」

「では、そのように」

 その時、外から甲高い声が響いた

 窓の外を見れば、一匹の何かが、飛んでいた

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