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第4

 これは、夢だろうか?

 夢であってほしい






 目の前にいるのは、アーだのウーだのとうなっている

では、話していたのはこいつではないのだろうか

じゃあ、一体誰が…?

 つらつらと考えていたとき、耳元で笛みたいな音がした

 破れた袖から、赤い液体が流れ出る

 そこでようやく痛みを感じた

 気づけばあいつは、背後にいた

 恐る恐る振り返れれば、あいつの口や手からだらだらと血が滴り落ちていた

「グルルルル…」

「な、何なんだよ」

 それだけ言うのが、精一杯だった

 らんらんと赤い目が光る

「ガア!」

 相手が吼えて、ひるむのを見て、それはケタケタと笑った

『サッサトシロ…ドレホドマッタトオモッテイル』

「…誰だ」

 声はやつのほうから聞こえた

 相手は、びくびくしている

「グルルル…」

 低くうなると、そいつは宙に舞い上がった

「羽?!」

 確かに、そいつの背には漆黒の羽が存在していた

 落ちてくるのは目に見えていたが、足が根を生やしたかのようにまったく動かない

 動けと、念じる

けれど、足は動かない

 何をしても、びくともしない

 はっと、顔を上げれば、それはすぐそこにいた

 まずい、と思ってもどうにもならない

「―!」

 レイドは、声にならない悲鳴を上げた







 だから、言ったのに…


 近づいてはだめだって


 でも、


 大丈夫よ…


 







「グウ!」

 それにぶつかる何かがいた

 白い狼

いや、狼にしてはやけに大きい

大きさは、馬とそれほど変わりはない

「ウゥゥゥゥ」

 狼は低くうなる

『ジャマダ、シマツシロ』

 ぱっと、あれは動く

 けれど、狼は動かない

 あれが、すぐ傍にまで来たとき、不可解なことがおきた

何の前触れもなく、弾き飛ばされたのである

『コヨイ、タイサンスルトシヨウ』

 化け物の姿が霧散しだす

狼はだまったままことの成り行きを見ていた

 まるで、風に溶けるかのように、それは、いなくなった

 それと、入れ替わるように足音が響く

 ついっと、狼がそちらを向く

「…ご苦労様」

 細い腕が伸びてきて、狼をなでる

「礼には、及ばぬ」

 はっきりと、口を動かして、狼は言った

 その言葉に、彼女はくすくすと笑った

 腰よりも長い銀色の髪が、炎に照らされて、オレンジ色に染まっている

 長さが不ぞろいなため、右目を隠してしまっていた

「…」

 視線を移して、その少女は倒れて微動だにしない少年を見た

「どうする?」

「今は…、このままでいいわ。…時がくるまで」

 その、時が来ればすべてを告げよう

その必要はないかもしれないが、それまでは、知らないほうがいい

 屈み込むと、少女は、名残惜しそうに少年の髪をなでた

 じっと、狼はその様子を見ている

「覚えてる?…覚えてないわよね…。でも、…」

 何の感情も見えなかった瑠璃の瞳になんとも言い表せない感情が写る

 言うなら、せつなさというものだろう

「約束は、ちゃんと覚えているから…ね?」 

少女は立ち上がると、はるか遠方を見るような視線を投げかけてきた

「行きましょう」

 何か言おうと、狼が口を開きかけたとき、少女が片手でそれを制した

「彼が来るから、長居は無用よ」

 それだけで、狼は納得した

 少女を背に乗せると、狼は、炎の壁を軽々と飛び越えた

 去り際に、少女は振り返る

「またね」

 小さな声で、少女はそう、言い残し、やがて、夜の闇に溶け込んでいった




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